模擬戦後

「アルティ!」

 吹き飛ばされたアルティの元に、ミリィが駆け寄る。

「大丈夫アルティ!?」

「え、ええ、大丈夫よミリィ……」

 ミリィに上半身を抱き上げ肩を揺すられ、何とか言葉を返すアルティ。

「おお、生きてたか」

 審判を務めていたエヴァも、ミリィの肩越しにアルティの様子を確認する。隣にはカインもいる。

「しかし、この状態では戦闘は続行不可能かな?」

 カインの一撃を受けたアルティの身体はボロボロだった。かろうじて剣で防御したが、それでもかなりのダメージを受けている。

 魔法を使えば完治するだろうが、今すぐに戦闘を再開することは無理だ。

「審判としてこの状態の人間をこれ以上戦わせるわけにはいかない。アルティ君、君の負けでいいかな?」

「はい……私の負けです」

 アルティは渋々ながらも負けを認める。

 瞳は未だに闘争の炎が灯っていたが、身体の方は対照的にボロボロだ。

 エヴァは「素直なのはいいことだ」とアルティを誉めた後、カインに厳しい瞳を向ける。

「おいカイン、学生相手にやりすぎだよ。相手は女の子だよ? もう少し手加減したまえ」

「一応加減はしたつもりでしたが……」

「この惨状を見てよくそんなことが言えるね」

 カインの発言にエヴァは、ただでさえ細めていた瞳を更に冷たいものに変える。

「僕の力加減が甘かったみたいですね。すいません、アルティさん」

 アルティの元へ歩み寄ると、カインは深々と頭を下げる。

「別にいいわよ。これは模擬戦。あなたが謝る必要はないわ……」

 丁寧な礼で謝罪され、アルティは居心地の悪そうな顔をする。

「それよりも一つだけ質問させて。私に攻撃する時、どうやって近づいたの? 一瞬消えたように見えたから、何かしらの魔法を使ったとは思うけど……」

「いえ、普通に走って近づいただけです」

「……冗談よね?」

 信じられないといった表情のアルティ。

 彼女の疑問に、カインではなくエヴァが答える。

「嘘じゃないよ。カインの身体能力は魔物すらも凌駕するほどのものだ。君に見えないぐらいの速度で動くことなど造作もない」

「な……」

 エヴァが告げたカインの情報に、アルティはただただ驚嘆するのみ。

 魔物は基本的に人間の数倍から数十倍の身体能力を有している。

 そのため、魔物戦う際は一体に対して複数で当たるのが定石だ。

 そんな怪物を上回る力を持った人間がいるという事実は、アルティの常識を軽々と打ち破る。

「さてと。これでカインの実力を疑う者はもういないね? もしいるのなら、前に出てカインと戦いたまえ」

「「「「…………」」」」

 先程のアルティの惨状を見てカインと戦いたがる物好きなどいるはずもない。

 ――こうしてカインはユーリス学園の教官として認められた。




「アルティ、本当に大丈夫? キツかったら寮に戻ってもいいんだよ?」

「大丈夫よ。医務室で先生に回復魔法をかけてもらって傷は完治したわ」

 完治したことを証明するように、アルティは肩を回す。

 カインとの模擬戦の後、アルティはミリィに肩を貸してもらいながら医務室で治療を受けた。

 現在は治療を終え、医務室を出たところだ。

 時刻は正午を少し過ぎたくらい。

 学生たちは食事をしたり、次の授業の予習をするなど、各々が好きなように昼休みを過ごしている。

「それよりも私はお腹が空いたわ。食堂に行って何か食べましょう」

「あんな大ケガをした後なのに、よく食欲があるね……」

 ミリィはアルティの食欲に嘆息するが、普段この時間帯は二人も食事をしているので仕方のないことだ。

「今日は何を食べようかしら」

 そんなわけで、二人は学園が管理している食堂に向かうことにした。


 

 

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