教官は十三歳その4
カインが入室した直後、教室は騒然とした。
しかしそれも仕方のないことだろう。
生徒たちは学園長の言葉もあって、新教官にはかなり期待していた。
だが、実際に来たのは自分たちよりも年下の少年だ。とてもではないが、学園長言っていたような実力者には見えない。
当然ながら、生徒たちの落胆も大きいものと言えるだろう。
「あんなのが俺たちの教官だって?」
「嘘だろ?」
「というかあの子、私今朝見たわよ」
「私も。確かアルティさんがどこかに連れて行っていたわ」
現に、学生の大半はカインのことを受け入れ切れていない。
こんなに騒々しい状態ではまともに自己紹介もできないだろう。
それを察したエヴァが「静かにしたまえ!」と一喝する。
結果、教室は静寂を取り戻し、それを確認したカインは口を開く。
「カイン=エルドフと言います。年齢は十三歳。よろしくお願いします」
軽い会釈と共に並べられた言葉。特別感情が込められているというわけでもなければ、声が大きいわけでもない。聞く者を退屈させるつまらない自己紹介だ。
しかし、カインは気にした様子もなく続ける。
「何か質問はありますか?」
カインの言葉に反応して、数人の手が挙がる。カインはその数人に左から順番に質問するよう指示を出し、その全てに答えた。
「お前みたいな子供が、どうして俺たちの教官をするなんてことになった?」
「学園長に頼まれたからです」
「あなたと学園長の関係は?」
「学園長とは師弟の関係です」
「好みの異性はどんなタイプなの?」
「質問の意味が分かりません」
などなど、まともなものからクソみたいなものまで、カインは律儀に答えていく。
一部の回答には、カインが教室に入った時以上のどよめきが生まれたりもした。
「――もう、質問はありませんか?」
全ての質問に答えた後、確認のために問う。
すると、先ほどまで挙手していなかった生徒が手を上げていた。アルティだ。
「あなたは確かさっきの……」
今朝自分をエヴァのところまで案内をしてくれた少女がこの場にいることに軽く驚きつつも「どうぞ」と口にする。
カインが発言の許可を出すと、アルティはおもむろに立ち上がり、カインを睨む。
「あなたに私たちを指導するだけの力はあるの?」
「「「「…………ッ!」」」」
あまりにも礼儀を欠いたその言葉に、カインではなく生徒たちが驚愕の表情を作った。
「アルティ、それはいくら何でも――」
「ごめんミリィ。ちょっと黙ってて」
親友に苦言を呈そうとしたミリィを、アルティは一蹴する。
無論、アルティも理由もなくこんな暴言を吐いたわけではない。
単純にカインが気に入らないというのもあるが、アルティは本当にカインに自分たちの教官を務めるだけの力があるか、疑っているのだ。
「私はあなたに教官を務めるだけの力があるとは思えない! 私たちの教官になるなら、それに相応しい力があると証明しなさい!」
「力を証明ですか……」
アルティの無茶振りに頭を悩ませるカイン。教官をするの自体が初めてのカインは具体的な策が浮かぶはずもない。
「やれやれ、仕方ない」
そんなカインを見かねて、エヴァは助け船を出すことにする。
「アルティ君、彼の力をそこまで見たいというなら、模擬戦をしてみないか?」
唐突なエヴァの介入。
だがアルティは嫌な顔一つせず、むしろエヴァの話の続きを促す。
「模擬戦? どういうことですか?」
「そのままの意味だよ。これなら互いの実力がはっきりするだろう? 審判は私が務めるよ。もちろん、公平にね」
学生同士ならいざ知らず、一学生と新人とはいえ教官の一騎討ちは、ユーリス学園において前例のないことだ。
その証拠に、一連の流れを見届けていたクラス中から、どよめきが生まれる。
「分かりました。私はそれで構いません」
だがアルティ恐れることなく、エヴァの提案に乗った。
「カインも、それでいいかな?」
アルティの了承は得た。あとはカインが首を縦に振れば、模擬戦は成立する。
「僕も特に問題はありません」
カインも特に断る理由もないため、エヴァの提案に乗ることにした。
「いいねいいね。楽しくなってきたじゃないか」
予想以上に上手くことが運んだため、エヴァはご満悦の様子。
「では、三十分後に第三修練場に集合だ。それまでに各自、必要なものを揃えておいてくれ」
エヴァの言葉を最後に、その場は一旦解散となった。
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