幕間 俺達は冒険者
ホーパル外苑は【ホーパルの鍋蓋】と呼ばれる古代建造物に入るための秘密が隠された場所、と考えられている遺跡群だ。何かを祀っていた神殿のような建物が数多く立ち並ぶこの一帯は、冒険者にとって絶好の稼ぎ場となっている。
「うおらっ、バールロンドっ」
生息している魔物は全て植物系統に分類され、その死骸は万能薬の素材となるので薬屋が高価買取してくれるのだ。
「ショウ殿、それでは死骸が残らないではないかっ」
「あ、悪りぃ。気合い入っちまった」
まあ、俺くらいになると死骸も爆散させてしまうから関係ないけどな。
「ドーラ殿、ショウ殿の暴走を止めてくれと頼んでいたはずだぞ」
「すみません、夕食のことを考えていました」
俺達は今、このホーパル外苑でホーパルの鍋蓋に入るヒントを探しながら狩りをしている。コリーも俺も金には困ってないのだが、だからといって稼がなくても良い理由にはならない。稼げるときには稼ぐのは冒険者の鉄則だ。ここの魔物は足も遅く、攻撃力も乏しい。だが状態異常を引き起こす魔法やブレスを頻繁に使用してくるので、初心者には厳しいだろう。まあ、俺くらいになると【キャンセル】で全て無効にできるから関係ないけどな。
「役に立たねーな」
「魔物を爆散させた貴様が言うなっ」
ローマン迷宮でコリーを救出した後、俺は彼女たっての希望でローマンの翼に席を置いた。同時に騎士爵の爵位も領主から授かって、安定した月給を約束されている。冒険者時代と比べれば実に五倍の給料だ。
このパーティを構成するメンツは、俺とコリーと、モブのおっさん二人。そして万年ニートだったドーラさん。奴の怠け癖を何とかしてやろうと、俺が有無をいわさずねじ込んでやったのだ。荷物持ちも欲しかったし、奴の専用アイテムはピンチの時限定で役に立つからな。
本当は相田さんにも同行してほしかったが、あの歳だから何があるかわからない。それにコリーがくれた屋敷には気の合うババア仲間もいるから、あそこにいた方がきっと楽しいだろう。別の国へ行くようなことがあれば一緒に来てもらいたいが、この国にいる限りは余生を快適に過ごしてほしいと思う。とはいえ心配だから、スキルで【紐づけ】もしてある。もしも相田さんに危険が迫ったらソッコーで駆けつけられるようにな。
「わはは、そう熱くならず休憩にしようや」
良いぞモブ、そのコリーを擁護しない姿勢が気に入った。そのうち名前を覚えてやろう。俺達はボロボロに風化の進んだ神殿らしき建物の内部へと歩いて行った。内部といっても天井は崩落してるし、壁はほぼ崩れ落ちてるからフィールドと変わらないのだが、こういうのは気分の問題だ。
それぞれが適当に休憩をとる中、コリーだけは鍛錬を怠らず、今も二振りの剣を構えて見えない敵と戦っている。あいつは俺が元いた世界に産まれていれば、絶対に近寄りたくないと思われるタイプだ。容姿端麗で金持ちで性格も悪くはないのに実に惜しい存在だといえる。
「ショウ殿、聞いてくれ」
その実に惜しい生き物が近づいてきた。休憩時間はゆっくりしたいが、こいつを見ていると飽きないので少しだけ相手をしてやることにする。
「どうした殘念星人」
「な、それはどういう意味だ。もしかしてまたバカにしているのか」
「俺の故郷では英雄を呼ぶ時に星人をつける」
「英雄……! そうか、いや疑ってすまなかった」
いやいや、もっと疑えよ。
「何か用があったんじゃねーのか」
「そうだった。実はたった今、新必殺技が完成したのだ」
もうこの時点で不安要素しかない。こいつは以前も、風の精霊を剣にまとわりつかせて「竜巻剣」とか命名していやがった。竜巻どころか扇風機の風ほどにも効果がないゴミ魔法剣だったけどな。
「そうか良かったな、頑張れ」
「待て。新必殺技だぞ、見たいと思わないのかっ」
全く思わないし、こいつと長話をして同類だとも思われたくない。しかし流れ的にもっとも早く会話を終わらせるには、新必殺技とやらを見てやることだろう。
「じゃあ見てやる。やってみろ」
「貴様、その上からの物言いはやめてもらおう」
「何だと駄犬、見て欲しいのか欲しくないのかどっちだ」
「どちらかと言えば見て欲しい!」
こいつはホント、リーダーのくせにコメディ担当だな。因みに俺の担当は勇者だ。
「では行くぞ、至高なる輝きと混沌なる闇の共演。顕現せよ、光と闇の精霊剣!」
右手に掲げた剣が松明のように光り、左手に掲げた剣が闇を産み出した。相反する上級属性を扱えるのはお世辞抜きで凄いと思う。実は彼女、中級精霊との親和性も高く、光、闇、炎、氷、風、土と六つの精霊と契約している天才だったりする。大魔導師と呼ばれていたらしいゼペットじさんですら、光、炎、風の三精霊としか契約できていないことを考えればその優秀さが分かるというものだ。まあ、天才と何かは紙一重の「何か」寄りを地で行く奴でもあるけどな。
「なあ、おまえ本物のバカだろ。いやごめん、バカに失礼だった」
「何だとっ、貴様にはこの高貴なる必殺剣の真髄が分からんのか」
「真髄って何だよ」
「凄く格好良いかどうかだ!」
付き合ってらんねぇ。片方の剣が発した光を、もう片方の剣にまとわりついている闇が吸収してるので実質プラマイゼロ。要するに何もしない時と結果的に同じなのだ。
得意気に光と闇の精霊剣の凄さを語るコリーを鼻で笑い、俺は相田さんのことを考えることにした。今ごろ何をしてるのかな。もうすぐ出会って一周年だから、何か考えておかないとな。
「光と闇の精霊剣・改! これならどうだ?」
どんなプレゼントをあげたら喜ぶだろう。何をあげてもあの人は喜びそうだが、折角だし何か記念になるような物を贈りたい。俺達は冒険者だから、揃いの革鎧とかが良いかもしれない。背中に剣と魔法の刺繍でも入れたら格好良さそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。