第41話

「それは残念」


 と、そのいきさつを説明した時、桃が言ってくれたのがなぐさめになった。


「もう一人いたら、今一番手の薄いReversingとかPwnとかに回ってもらえばいいかなと思ってたんだけど」


 学校からの帰り道、小さいうちわでぱたぱたと自分をあおぎながら桃は言った。うちわは先週駅前で配っていたもので、新発売のエネルギードリンクが印刷されている。


「Pwnとかって、ゆあんのやってるやつでしょう? 難しくない?」

「うん、でも今の一人しかできるのがいないっていうのはよくないじゃない? 変な話、ゆあんが風邪でも引いたらその瞬間にアウトだからさ」

「それはそうだね……」


 そう言いながらも、二海は『CTF攻略ガイド』で読んだReversingやPwnの記述を思い出していた。スタックだのCPUだのポインタだのアセンブリだの、耳慣れない言葉はおそろしく見えた。しかも、わからないところが出てきたときに、ゆあんにそれをたずねるのには抵抗がある。『こんなのもわからないの?』ぐらいは言われることを覚悟しなければなるまい。まだまだ二海にとっては高いハードルだった。


「でも、里々さんが入ってくれたのはよかったよね」

「そう。さすがってかんじで、すごい飲み込みがよくって。『明日、このプログラムで解くやり方教えてー』って言われたのびっくりした。そこまでいくのにあと何日かはかかると思ってたから」

「……あー、でも、明日クラスで佐々岡さんになんて言おう」


 二海はあまり思い出したくないことを思い出した。先程までは思いつかなかったのだが、今になって思い至るようになったのだ。


「二海ちゃんが悪いわけじゃないでしょ」

「でも、声かけたのは私だから……」

「まあ、なにかあったらAに駆け込んでおいでよ。慰めちゃろ」


 桃はそう言ってうちわで二海を扇いだ。髪の毛がぶわりと乱れて顔にかかり、二海は思わず笑ってしまった。

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