第37話

「チョコレートファッジとベリーベリーベリーでお待ちのお客様ー」

「はい」

「続いて、チョコレートミントダブルのお客様」

「私です」

「ピーチメルバとレモンハニーのお客様」

「はーい」


 三人はそれぞれのアイスクリームを受け取ると、店の外の丸テーブルに席をとった。


「あー、ひさしぶり」


 ピンクのプラスチックの小さなスプーンで、ゆあんはチョコレートミントをすくっては口に運んでいる。


 桃はカップに入った自分のぶんを写真に撮ってから、アイスクリームを一口食べた。その間、二海は上のチョコレートファッジが落ちないよう慎重にアイスクリームを削っていた。


「ゆあん、その両方とも同じ味なのいいの? しかもチョコミント」

「『しかも』ってなに? チョコミント反対派?」

「いや、そういうわけじゃなくて。他の味も試してみたくならない?」

「これが食べたかったんだもん」


 二人が話している間に、二海はようやくスプーンに取れたアイスクリームを舌の上にのせた。冷たい甘さが広がる。夕方になっても、暑さはまったく引いていなかった。もう下のベリーベリーベリーも端のほうなどが溶けかけていた。


「でもさー、さっきの話の続きだけど、他の人誘うってのは難しくない?」


 一個目のチョコミントを四分の三は平らげたゆあんが、二海に向かって話しかけた。三人は先程までコンピューター室にいて、AJSEC Juniorの反省と、新しい目標であるAJSECに取り組むにあたって何をしたらいいかを話していた。結論というほどのものはまだ出ていなかったが、三人ともが同意したことがあった。それは、三人では問題に取り組む時間が足りないということだった。一チームあたりの人数に制限はないので、人さえいれば一人あたりの問題数を減らすことができる。確実な対策だ。しかし問題なのは、その『人さえいれば』というところだった。


「あんまりいないでしょ。私らが言うのも何だけど」

「まあね……」と桃もレモンハニーをすくいながら同意した。「二海ちゃん見つかったのも相当運良かったからなあ。あ、そうだ。またあのWiFiトラップしかけようか」

「やめといたほうがいいよ」と二海は即答した。「あの、ほら、ときどき掲示板に部員募集の貼り紙貼ってあるんでしょう? あれをやってみたら……」

「効果ないよ、あれ」ゆあんがすっぱり言った。「あれ見てよし入ろー、ってなると思う? 絶対ならない」

「そうなると、うーん、片っぱしから声かけるとかだなあ。でも私の友達だいたい部活入ってるし……」

「それにただ入らせればいいってもんじゃないからね。少なくとも最初の一問だけでも解けるレベルには育てないと」

「あ、でも、私も何も知らないところから入ったし……」

「いや、何もじゃないよ。二海はWebページ作ってたんでしょ? で、サーバーとかFTPとか、そういう概念は知ってたわけじゃん。ふつう知らないもん。私も妹いるけどさ」


 そこまでゆあんが言ってから、


「え、ゆあん妹いたの? 全然知らなかった」


 と桃が声を上げた。


「いたよ。何その意外そうな顔」

「一人っ子だと思ってた。え、妹の写真有る? 見せて」

「何それ。いや、そういう話じゃなくて、妹は中二なんだけど、『サーバーっていうアプリがあるの?』とか言ってたからね。情報の課題全部こっちに押し付けてくるし。だから、つまり、CTFに興味がある人間って少ないってこと。ぜんぜんできない人間いれたらかえって効率落ちるでしょ」

「そうなんだよねえー……あ、二海ちゃん、アイス垂れてる」

「わ、ほんとだ、コーンがしみてる」


 とりあえず友達に声をかけてみようということにして、三人はアイスクリーム店を出た。しかし友達といっても、二海には思いあたるような人はいなかった。どうしようか、と一人になってからも二海は考え続けた。


「あ」


 その人物を思いついたのは、家までの道を歩いているときだった。友達ではない。それでも、他には誰も挙げられなかった。

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