第16話
桃はノートパソコンを取り出し、画面をこちらに向けた。
「次の土日、『noviceCTF』ってところで、CTFオンライン大会をやるの。それに一回エントリーしてみない?」
「土日?」
「そう、次の。二十六、二十七」
「何時間?」とゆあんがたずねる。
「二十六の昼の十二時から二十七の十二時、だから二十四時間だね」と桃は画面を覗き込むようにして言った。
「二十四時間!」
その長さに二海は声を上げた。そんなに長時間のものだとは思っていなかった。しかし桃もゆあんも別に驚いた様子もない。
「そう。あれも、『AJSEC Junior』の本番も二十四時間なの。だからリハーサルにぴったりだし、私たちが今どのくらいできるのか計るのにいいと思うんだよね」
「わりと長いよね。『SEC CON』のなんて三日? だっけ?」とゆあんが言う。
「そうそう。ほとんど寝ずにやるんだってさ」と、桃はまるでディズニーランドの話でもするような調子で言った。
「でも日曜までかかるとなると、学校は使えないな」
「行き帰りの時間のロスも出るし、それぞれ家でやればいいと思う。二人とも、家にネット環境あるよね?」
二海とゆあんはうなずいた。
「問題のレベルもそう難しくなくて、『AJSEC Junior』と同じくらいだと思う。特別な対策とかはしなくていいから……じゃあもう申し込んじゃうね」
桃はノートパソコンを机に置き、しゃがみこんでかたかたとなにか始めた。二人はそれを覗きに回る。
「メールアドレスはいいとして……人数も三人だから問題なし……」桃は手早く『noviceCTF』のページの入力フォームを埋めていった。
「あ」
しかし最後の項目に来たところで、よどみなく入力していた桃の手が止まった。
「チーム名の入力欄がある」
顔だけ後ろに向けて、桃がそう言った。
「そういや決めてなかったね」
「『CTFクラブ』じゃないの?」と二海はたずねたが、「いや、学校の中ならそれでいいけど、CTFの大会に『CTFクラブ』で出たらバカみたいじゃん。バスケの大会に『バスケクラブ』って名前のチームが出るようなもん」とゆあんに突っ込まれてしまった。
「どーしようね。完全に盲点だった。普通は校名とかかなあ。『桐ケ谷女子CTFクラブ』とかでいいかなあ」と、桃は画面に視線を戻した。
「いいけど……」ゆあんは含むところがあるようだった。「……でもさ、その『noviceCTF』って海外のなんでしょ? ページ英語だし」
「そうー」
「なんかもうちょっと、馴染むというか……それっぽい感じのやつのがよくない?」
「一理ある。でも! 思いつかないそれ」
桃が言い、ゆあんは考え込んだ。二海は二人の話の焦点がわからなかった。
「他のチームはどんな名前なの?」
二海の言葉に、桃は別タブで申し込み済みチームの一覧ページを開いた。『Black Sky』だの『newbies』だの『__init』だのや、『hsap』や『k8』、『GNY』など意味をなさない文字列のもの、『烹豆芽菜』という中国語のものまである。見たところ、ちゃんとした学校名や地名などをつけているチームはいないようだった。ゆあんの言う『それっぽい』の意味がなんとなく理解できた。
「わりと自由なんだけど、逆に迷う」と桃が画面をざっざっと速くスクロールする。
「そしたら……頭文字は? さっきの『桐ケ谷女子CTFクラブ』の」と二海は提案した。
「だと……K、J、CとCで、KJCCか。いいんじゃないかな? どう、ゆあん?」
「ああ、それなら……」
「じゃ、決まりね! 送信、と」
桃がエンターキーを押すと、『Thank you for your registration!』と書いてある画面に切り替わった。
「よし、終わり! じゃ、とりあえずの目標を週末にしぼって、やってきますか」
桃は立ち上がって、スカートのひだを直した。ちらりと見えたその横顔は、じっとある一点を見つめているようだった。それはなぜかひどく厳しい印象で、、二海は思わずじっとそれを見つめてしまった。
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