洞窟測量士、や(め)るってよ

ちびまるフォイ

仕事の向き不向き

「なんだって!? 新しい洞窟ができたと!?」


洞窟測量士は耳寄りな情報を聞いて思わず立ち上がった。

その声量が大きかったのがわざわいし、店にいるほかの測量士にも聞こえてしまった。


「し、しまったーー!!」


洞窟測量士たちは我先にと新しい洞窟の測量へと向かってしまった。

店に残ったのは、枯れ木のようなバーテンダーのみとなった。


「よぉ、あんたは測量士に行かなくていいのかい?」


「俺みたいな弱小測量士は出遅れた段階ですでに負けさ。

 ほかの洞窟測量士みたいに、地図を高値で買い取ってくれるツテもなければ

 洞窟を正確に記すことができる道具だってないんだもん」


「弘法筆を選ばず、って言葉知っているか?」


「測量士として二流だって自覚してるから筆を選んでるんだよ……」


はぁと長い溜息をついた。

こうなったら、せめてもの八つ当たりにこの店の空気を悪くしてやる。


「カウンターでため息つくなよ、客が逃げるだろ」

「どうせほかに客なんてこないでしょ」


「たまに国の生物調査の学者が来るんだよ」

「なにその根暗集団」


また「はぁ」と聞こえよがしなため息をつくと、バーテンもさすがに限界のようで

測量士の鼻先にずいと地図を突きつけた。


「これは?」


「新しい洞窟の場所だ。まだ誰も言っていない未踏の洞窟だよ」


「え、いいのか!?」


「カウンターで辛気臭い顔して居座られるのは迷惑だ。

 その洞窟の測量地図を作って、店のツケを払いやがれ」


「ありがとう、マスター! ツケといて!」

「今回は払えよ!!」


測量士は新しい洞窟へと意気揚々と向かった。

ダンジョンのように人や魔物の手が加えられている場所とは異なり、

洞窟となると自然が作り出した迷宮のようになっている。


それだけに洞窟測量士の作る地図は母権者に高く売れる。


測量地図があるのとないのとでは雲泥の差がある。

だからこそ、洞窟測量士にとって未踏の洞窟は金山と同義だった。


「ここは分かれ道なのか。よしよし、いい感じに入り組んでいるぞ」


洞窟の構造が複雑なほど地図の需要は上がっていく。

今回の洞窟はまさにアタリで、測量士はどんどん先へ進んでいく。


ただし、順調なのはここまでだった。


「な、なんだあれ……?」


暗がりに赤々と光る2つの目。洞窟の奥には巨大なドラゴンが待っていた。

測量士は気付かれないようダッシュで洞窟を出てきた。


「あ、危なかったぁ……もう少しで消し炭にされるところだった……」


洞窟測量士というものはおよそ戦いには向かない。

そもそも測量道具が多すぎて武器など持ち込む余裕はない。


けれど、あのドラゴンの先にまだ先があるのかと思うと

洞窟測量士としてもはがゆい気持ちになってくる。


「冒険者を雇うのもなぁ……」


冒険者は弱い者を守るかわりにお金を要求する。

そんなヤクザ稼業を雇えば、洞窟の奥まで測量できるかもしれないが

お金を使って洞窟を測量して、地図を売ってお金を稼ぐんじゃプラマイゼロ。


悩んだ末に、またあのバーに戻ってきてしまった。


「おいおいおい!! それじゃ、諦めて戻って来たのかよ!?

 せっかく耳よりの情報を教えてやったのにそれはないぜ!」


「いや、ちゃんと測量はしてきたよ」


「バカ言え。最後まで書かれていない地図に価値なんてあるものか。

 そんな未完成品、冒険者は誰も買わないぞ」


バーテンダーはあきれていた。

そこにメガネをかけた生物学者たちがやってきた。


すかさず測量士は声をかけた。


「いやぁ、まいったまいった」


「どうかしたんですか?」


「いやね、さっき洞窟の測量をしにいったんですが

 そこでこれくらいの大きさのドラゴンを見たんですよ。

 あれは間違いなく希少種のドラゴンですね、ええ」


逃げ帰った洞窟で見かけたドラゴンの大きさを測量で示した。

なお、1.5倍くらい話を盛っているのはご愛敬。


話を聞いた生物学者たちは目を輝かせた。


「なんだと!? あの絶滅したと言われている希少種!?

 しかも、これだけの大きさのドラゴンがいたんですか!!」


「そうですねーー。いや、もうびっくりですよーー」


「すぐに調査に向かいましょう!!

 各研究機関に伝令を出せ!! 冒険者を召集しろ!!

 雇う金? そんなもの、いくらでも出す! 希少種の調査に出し惜しみはするな!」


学者たちが準備を始めたところに、測量士は未完成の地図を見せた。


「あの洞窟へいくのでしょう?

 ちゃんとゴールの、ドラゴンまでの行き先が書いてありますよ。

 ただ、ちょっとお値段ははりますが……」


「いったはずだ! 貴重な研究に金の糸目はつかないと!!!」


学者たちは迷わず地図を人数分と冒険者ぶんを買い取り洞窟へ向かった。



「マスター、それじゃツケはこれで払えるね」


「お前……洞窟測量士辞めたら?

 絶対別に向いている仕事ありそうだわ……」


洞窟測量士はまたどこか未踏の洞窟へと向かっていった。

危険がありそうなときは町の人の力を借りるという。



< おい! 洞窟からお宝を運ぶから、手を貸してくれ!!

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