第4話彼女の目的

キーンコーンカーンコーン♪

午前中の授業の終わりのチャイムが鳴る。


リービーのせいで授業に全く集中できなかったよ。毎日これが続くとなると、今度のテスト赤点じゃないのか?

そんな不安が頭をよぎる。


だが、今はそれよりも、リービーのことだ。恋愛を成就させるって言ってたな。そもそもなんで俺のところに来たんだ?それに恋愛を成就させて、どうするつもりなんだ?他に何か目的でもあるのか?


俺はリービーとの出会いの場面を回想する。確かあの時は空が光って、彼女が落ちてきたよな。


…とすると、別の世界からやってきたということか?女神の世界みたいな場所があって、そこからやってきたのか?


あと、本人は男の子だと言っていたけど、ホントに男の子・・・なのか?

握手しただけだが、あれが男の体つきなのか?それに…彼女には胸の膨らみ・・・・・があったような…


そして、一番の問題は…リービーのことを三人称で話すとき、”彼”を使えばいいのか。”彼女”を使えばいいのかということだ。


文章化するうえで大事なことなんですよねぇ!きっとこの物語を小説化することがあった時に作者も困っていると思うんですよ!まぁ見た目女の子だし、彼女に統一するか。うん。それがいいよね?


ということで、俺はリービーのことを”彼女”扱いすることにした。

あっ、勘違いしないでくれ!文章上彼女扱いするだけで、リービーのことを彼女として認識しているわけじゃないからね!勘違いしないでよねっ!(ツンデレ)

つまり、彼女だけど彼女じゃないんだ!


自分でも何言ってるか、よくわからなくなってきたよ…


そんな考え事をしていると、隣から俺を呼ぶ声がした。

その声の主は、もちろん隣に座っていたリービーだ。


「航!一緒にお昼食べようよ!ボクお弁当作ってきたんだ。」

「俺は智也と食べるから。リービーは女子と一緒に食べればいいんじゃないか?例えば、くるみ達とかと。」

(というか男の娘の作った弁当を食べる気がしないのだが…)


「そんな事言うなんてひどいよっ!パートナーになってくれると約束して、ボクの体に触れてくれたじゃない!」

「誤解招く言い方っ!体に触れたって、握手のことだよね?」

「それに…可愛いって…言ってくれた…じゃない…」

急に女の子らしく話すリービー。


「確かに言ったけどもっ!それは本当のお前(男の娘)を知る前の話だから!」

「ひどいよっ!ボクの体(男の子ということ)を知ったら、捨てるの?」

「だから、言い方っ!それ、わざとやってますよねぇ!」


その時、周りからクラスの人たちがヒソヒソ話しているのが聞こえた。

『可愛いって口説き落として、パートナーになったってこと?』

『リービーさんの体を一度知ったら、ポイ捨てする最低ナンパ野郎って事じゃない?』


おいおい、全然事実と違うんですけどぉぉおお!スゴイ勘違いが起きているんですけどぉぉおお!


このままだと、女たらしの最低ナンパ野郎になってしまう。

俺は諦めると、深々とお辞儀をしながら、こう発言するのだった。


「ぜひ、リービーさんのお弁当食べさせてくださぁぁああい!」



俺と彼女は屋上に向かう、二人きりで話をしたかったからだ。

屋上への通用口を開ける。今日はいい天気なのに、すごいブルーな気持ちだよ…。


適当に場所取りをし、俺たちは座った。

「あの…さっきの会話だけど、わざと女の子っぽく話してないか?」

「わざとだよ。」

「なんでそんな風に話すんだよ。お前男の子なんだろ!」


「それは、航が悪いんじゃん!航のパートナーになったのに、一緒に居ようとしないから!」

「食事くらい別でも、いいだろ?」

「ダメだよ!航の恋愛を成就させるためには、航のことをもっと知る必要があるんだよ!じゃないとボクの実力じゃ…」

少し顔を曇らせるリービー


「実力?」

「な、なんでもないっ!」


俺はそれ以上ツッコんで聞くことはしなかった。彼女の曇った表情を見て、踏み込んではいけない、そんな気がしたからだ。


「リービー。そろそろ弁当食べるか。」

彼女はうつむきながら、ただ一言だけ

「うん…」

と答えた。


これはわざとやっているわけじゃないだろうけど、やっぱり女の子っぽいんだよなぁ。

異性として魅力的に見えるということは、やっぱり俺の深層心理では男好きな面があるのかなぁ。


「はぁ」

俺はため息をつく。



その時彼女は明るい表情を取り戻して、話し始める。

「ボクね、ユーネお姉さんに料理教わって、頑張って作ったんだよ。」

「ユーネ?」

「ユーネお姉さんはボクの近所に住んでる人。小さいころから、よく面倒見てくれるんだよ。男の子に弁当作りたいと言ったら、教えてくれたんだ。”その男の子の心を鷲掴みにしちゃうお弁当作りましょう”ってね!」


「なんで鷲掴み!?そのユーネさんは俺たちの性別が同じって知っているんだよね?」

「もちろん」

「なんでユーネさんは男の子×男の娘のカップリング望んでいるですかねぇ!!心配になってきたよ…」


「味はユーネお姉さんの保証付きだから、大丈夫だよ!」

「別のことを心配しているんですけどっ!」


俺は少し深呼吸をして、心を落ち着かせる。

ふと、俺は思いつく。

今、ユーネさんの話も出たし、リービーの世界のことを聞くにはちょうどいいんじゃないのか。

俺はこの機会に少し尋ねることにした。


「なぁ、リービー。お前がいた世界について教えてくれないか?女神の世界みたいなとこからきたのか?」

「パートナーとしてやっていくには、お互いのことをもっと知る必要があるよね。わかった。話すよ。この世界にはいくつか異次元の世界があってね。その中の一つに神様と呼ばれる存在が住む世界があるの。」


「神様の世界?」

「うん。神様の世界の中には、いろんな神様が住んでいるんだけど、ボクは愛情をつかさどる女神の国からやってきたんだ。ボク達神様はその世界から、この人間世界のバランスをとるためにいろいろと手を加えることがあるんだ。」

「人の運命を変えたりということ?」


「うん。だけど、神様も万能じゃなくてね。特殊能力で人の運命を変えたりすることはできないんだ。例えば、高校に受かりますようにと神頼みするとするよね。神様は受かるようにきっかけづくりをつくることはできるけど、具体的には勉強時間を増やせる機会を与えたり、勉強に集中できる環境を作る機会を与えたり、だけど本人がその機会を活かそうとしなければ、神様でも受からせることができないんだ。」


「結局のところ、神頼みも本人の努力の面が大きいということか。」

「そう。それでボクが来た理由は、この世界の愛情のバランスが崩れているからなんだ。恋愛する人が少なくなって、この世界の愛情エネルギーが少なくなっている。」

「愛情エネルギーって?」


「恋愛成就したり、家族の愛情が深まった時に放出されるエネルギーのこと。それが少なくなると、ボク達愛情の女神は存在できなくなる。愛情を生み出す女神にも愛情が必要って事だね。」


「そうなのか。だいたいリービーの世界のことは分かった。女神にも家族はいるのか?というか母とか父とかそういう関係性はあるのか?」

「基本的にはこの人間世界と同じだよ。家族もいるし、車みたいな乗り物もあって、朝と昼も存在する。特殊な能力が使えること以外は同じと考えてもらっていいよ」


「ありがと。いろいろ教えてくれて。これからも少しづつ聞くかもしれないけど」

「うん!大丈夫だよ!あっ、それよりも早く弁当食べて。もうこんな時間!」



長話をしたせいで、お昼休みもあと残り10分だ。

急いで俺は弁当のふたを開ける。

だけど、弁当の中はグチャグチャだった。なんかのソースがご飯についたり、なんかのおかずの煮汁も他のおかずについて混ざっていた。


彼女は一瞬悲しい表情をすると、すぐ笑って話し出す。

「ごめんね。航…そういえば、最初に出会った時、ボクは着地に失敗して転んでしまったよね…たぶんあれが原因だね…そうだ!食堂に行ってパンでも買ってこようよ。」



俺は彼女の言葉を静かに聞いていた。彼女は確かに笑っている。だけど…だけど…なんで悲しそうに笑うんだよ…

弁当くらいでなんで、そんな落ち込むんだよ。それに、なんで…


”無理して笑顔を作るんだよ”


男の娘がなんだ!美少女が悲しそうにしているのに…俺は…俺は…

俺は箸を取り出すと、一気に口にかきこむ。


「航?!こんなに混ざってたら、おいしく…」

驚いた表情をするリービー。


「フーヘファンガ…(ごくんっ)ユーネさんが味は保証したんだろ?美味しいものと美味しいものが混ざっても、美味しいものだろ?」


「航…」


俺は弁当の中身を全部食べ切って、伝える。

「ごちそうさまっ!あぁ~おいしかった!」

そして、俺は今日お昼に食べるつもりで買ったメロンパンを彼女に渡す。


「リービーはこれを食べろよ。俺はもう食べられないから。」

彼女は受け取るとただ一言だけ


「ありがとう…」


と言った。

その言葉を言い終わる前に、彼女の頬には一粒の涙が流れていた。

そして、泣いている顔を見せまいと、俺の胸に顔をうずめる。

俺はそのあいだ、透き通る空に流れる雲を見つめているのだった。

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