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「深呼吸してみて」
「しん、こきゅう?」
「はいっ、すってー、はいてー」
半べその星子ちゃんは言われるがまま深く息を吸って吐いた。それはもう大真面目に。
もう一度深呼吸させると、少しだけ落ち着いたように見えた。
「誰だって初めての事をする時は怖いよね。きっと今までそんな怖さを沢山経験してきたと思う。例えば、短大に入ってこっちで一人暮らししたときとか」
「・・・はい、その時もすごく怖くって」
「だよね。ご近所さんなのに喋るようになるまでなかなか時間かかったもんね」
顔を合わせても星子ちゃんが凄い速度で視線を外していたから。
「それでも俺たちはこうやって話せる中になったし、短大だってちゃんと卒業できたでしょ?」
「はい」
「初めが怖いのは仕方ない。動物だって初めての場所は怖いものなんだから。でもその怖いって実は、ただ知らないから怖いだけなんだよ」
「知らないから、怖い?」
「ちゃんと知れば怖くない。簡単に言うと自信を持てると怖くなくなる」
「自信?」
「まだ会社に入ってすぐだから知らない事が沢山あって自信が持てないと思うけれど、色んなことを経験して、成功も失敗も繰り返して自信を付ければ自然と怖くなくなるよ」
「花菱さんもそうでした?」
「もちろん。俺だってバーテンダーになってすぐは水一杯サーブするだけでも怖かったんだから。でも今こうやってオーナーになっているくらいだから」
知れば、怖いは消えてなくなるものだから。
「で、でも」
「でも?」
「今はどうしたらいいんですか・・・? 自信なんて到底持っていませんけれど」
大丈夫大丈夫。
「そう言う時はね、振り切ってやっちゃうんだよ」
「えっ結局投げやりじゃないですか!」
「投げやりでもなんでもまずは全力でやってみることが大事。経験がない代わりに、星子ちゃんには若さがあるでしょう? 誠意を、頑張っている姿をみせれば心は動かされるものだから。まずは笑顔だよ、頑張って」
「うぅぅ、頑張ってみます」
「うん、頑張れ! 頑張ったらご褒美に好きなドリンクサービスするから」
「本当ですか・・・?」
「言ったでしょ。頑張っている姿には心が動かされるって」
星子ちゃんはぎこちなく笑ってみせると小さく頭を下げて電車に乗り込んで行った。
クタクタになるであろう星子ちゃんが簡単に想像できる。店に来てくれた時にはうんとサービスすることにしよう。頑張れ、新社会人。
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