第5話 スライムキラー・・・なの?

 カンカン、床をつき続ける私。


 全然シミは落ちない。


 じゃなかった、スライムは消えない倒せない。


 床にじわりと広がって、ゆっくり動く緑っぽく光ってるけど、床の色と混ざってちょっと汚い色になってる。


 もう拭き取ったほうが早んじないかな?


 「あ、そうだ、ちからちゃん、何かを感じていない?」


 「はい、そろそろ手が痛くなって来ました」


 「それはきっといい素手でだからね、手袋とかしないと、指太くなっちゃうかも」


 そう言われて、ああ、と思い出して、ポケットから『綿の小手』と言う商品名のゴムの滑り止めイボ付の手首までの長い軍手を取り出し装着する。


 確かに『持っている』だけではなくて『装備』しないと意味が無いって事を実感する。流石ね、ベテランな美穂さん。的確なアドバイスをありがとう。


 と心に思うだけで言葉には出ないので、再びカンカンしようと構えると、


 「ちょっと、待って」

 て、止められてしまう。


 そして、ちょっと考えるって顔して美穂さんは、


 「違うのよ、手の痛みとか、そうじゃ無いくて、何か、こう、敵が現れた! って感じがしないかかしら?」


 どうだろう?


 スライムって言われてる『染み』をジッと見る。


 ズッと見る。

 

 目の前には敵であるモンスターと言う名のシミはあるんだけど、そんな風に思うかな?


特には何も感じないなあ。


 「こう、なんかね、ドドン! とか ババン! 的な、心に衝撃みたいな?」


 美穂さんの言っている事が全く解らない。


 でも、折角言ってくれてるので一度冷静になって考えてみる。落ち着いて自分にと言わせてみる。


 何か感じない、なんでもいいの、なにかを…


 その時、なにか、こう、ビリビリって、スマホのバイブ機能が振動知るみたいに胸の下あたりに感じたの。


 普通に、サイレントモードかなって思ったけど、このジャージ胸ポケット無いから、何事? って思って美穂さんみたのよ。


 「これ?」


 「どんな感じ?」


 「ビビって感じですね、ドンとは違います」


 美穂さん、とても頷いて、私の顔を見つめて、


 「そうかも、きっとそう」


 美穂さんは言った。


 「胸がちょっとヘンかも、緊張してる所為のかなあ?」


 あ、でも肋間神経痛かもとか思った、お父さんが良くそんな風に胸を押さえてストレスだストレスって言ってるから。病院行った方が良いのかな?


 ?


 って顔して美穂さんをみると、


 「今ね、ちからさんの近くにスライムが出てくるわよ」


 って言った


 「それは体の変量ではなくて、このダンジョンでとても大切な感覚なのよ」


 あ、ホントだ、うっすらと暖色系統の色の染みが床に浮かび上がって来る。


 「あ、ちからさん、イチゴよ、倒しやすいかも、ラッキーかも」


 え? スライムって味あるの? じゃあ今私が突いていたのはメロン味?


 思わず思考停止に陥って、

 「美味しいんですか?」

 と素で聞いてしまった。

 

 「食べないわよ〜」


 って微笑む美穂さんに、そりゃあそうですよね。って思ってから、


 「美穂さん、この染み消えません」


 と愚痴をこぼしてみる。


 いや、多分、私の攻撃と言うか突き方が悪い所為ではないかとは思うのだけども、それにしても、なんの手応えもなく、まるでお爺ちゃんの家に行った時にあまりに暇を持て余して、仕方なくやっている雪割をしている感がする。


 そこにはスライムと言えどモンスターと戦っているって感じがしなくて、そしてカンカンと叩く私の攻撃に効果があるとは思えないんだもん。


 「良いわよ、良い線いってる、それで良いの」

 と美穂さんは言った。


 とても安心できる笑顔。


 そして、私が突き続けている緑のメロンスライムの方を杖で指して、

 「いい、ちからちゃん、見てて」


 と言って、一突き。


 その瞬間、メロンなスライムは、『バシュシュシュ〜!!!』という音を立てて、消えて行く。


 え? 今の何???


 「倒す、って気持ちを持ち続けて、そして、ここだ! って所を突かないと、スライムさんは、その存在を確定してはくれないのよ」


 と美穂さんが、ちょっと恥ずかしそうに、私に告げた。あ、誇り高い感じかも、私の一方的な見方だけど、出来ない私の出来る人への印象だけど。


 ちょっと遜った物の見方かもしれないけど、そこにはベテランの『腕』的な何かを感じてしまったの。


 そして、また、あのスマホのバイブ的な振動を胸に感じてしまう。


 方向は不思議にわかる。


 ここだ。


 足元に新しいメロンスライムが現れた。


 私の視線を追う美穂さんは、

 「ちからちゃん、遭遇感覚は完全に理解したみたいね、じゃあ、これは私が倒すから、ちからちゃんは、イチゴに行ってみて」


 うん。


 頷いて私は、美穂さんに言われるがまま、イチゴスライムの前に立つと、その横では、美穂さんが、また一撃でメロンスライムを倒していた。


 シュワワワ〜っと、緑の染みは消えて行く。

 

 いや、ちょっと、コレすごくない? 

 

 一撃だよ!


 もうこれって偶然じゃないよね。美穂さんはこのスライムを一撃で倒せる人なんだ。


 私は尋ねる。


 「美穂さんって、スライムキラーなんですか?」


 その言葉に、ちょっと考えてる、さらにもうちょっと考えてる。


 そして美穂さんパァ! って初めて見る様な明るい顔をして、ブンブン頷く。激しく同意する。


 「そうなのかな?、私、スライムキラーかな?」


 「スライムキラーですよ」


 「かな?」


 「ですよ」


 なんだろう、長年の疑問が解かれた様な、そんなスッキリとした笑顔になった美穂さん、


 「私、スライムキラーだった」


 と誇らしげに、今度は微塵も恥ずかしがらないでそう言った。公言した。


 胸を張ってた。あ、美穂さん結構な巨乳な人だ。ちょっと凹んだ。


 「私も『職業クラス』とかあったね、ちからちゃんのお陰で発見したよ、今気がついたよ」


 と思わぬ所で感謝された。いえ、それほどでも………。


 そして今度は私の番だ。


 スライムキラー先生のご指導の下、カンカンカンカン突き続ける。


 イチゴスライムがバシュシュシュ〜と消えたのは、それから一時間後のことだった。


 確かにスライムを倒したって感触がフィードバックしてくるなあ、これがモンスターを倒すって感覚なんだ。


 よかった、スライムとは言え、モンスターで生きてるかも、だったから、流石に倒すとか殺すは怖いなあ、って思ってたけど、全く罪悪感が湧いてこない。


 ちょっとホッとした。


 「やったねちからちゃん、さあ、次も倒しましょう! 次々といきましょう!」


 ってスライムキラー先生は言った。


 え? 


 帰っちゃダメですか?


 「ノルマは1日、3体ですよ」


 って言われる。


 スライムキラー先生は厳しいなあ。


 

 




 




  

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北海道ダンジョンウォーカーズ(外伝) 青山 羊里 @YouriAoyama

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