第4話  確率的存在の問題なの♡




 とっても長い階段。


 つづら折で20回。


 行って帰って降りてゆく。

 

 多分、高さ出言うなら50mは下がっているから、ビル出言うなら10階分くらいの高さを降りている感じかな。


 こりゃあ、帰りの登りも大変だわ。


 ともかく広くて長くて、深い。


 でも手すりが付いていたり普通の照明の他に足元照明とか付いていてとても安全だ。


 一段一段も浅くて広いからとても安全。

 

 時折すれ違う人とかもいて、ここの階段ならきっと目的は間違いなく『スライムの森』の筈、ってわけもないけど、何と無く互いに挨拶とかする。


 声をかけるって感じではなくて、ペコリって軽い会釈。


 ほとんどの人はする。でもしない人もいる。


 ちょっした登山のすれ違いみたいな感じ。


 ゆっくりゆっくりとどこまでも続いて居る様な階段を降りて行く。


 そして、最後のつづらおり折りを降りて私は目的の場所に着いた。


 折り返して、下がりきると、突然現れる、階段よりも明るく広い光景。


 霧なのかな、白く煙った広大な室内に、乱立する無規則に積まれた石の塔。

 

 地下1階とは言え結構な深さ。


 外でさらし者担っていた彼女の声も、札幌の街の喧騒も、1階を降りてしまうだかで、全く聞こえなくなる。


 まるで別世界。


 異世界かも?


 徒歩で行ける身近な異世界だね、確かに。


 ただ、あるのはダンジョンの中の独特とも言いえる静けさに、目の前に広がるとても広大な空間。


 ここが北海道ダンジョン地下1階『スライムの森』。

 

 ちなみにこの奥にギルドの本部の建物がある。


 見えそうなものだけど、と霧と石柱が邪魔で見通せない。


 ここって、真四角な大きな石が高くも低くも様々な高低差で並んでいて、まるでそれが深い森の中に茂る木々に様で、ダンジョンにあって『森』って呼ばれている所以なんだって、話には聞いて、読んで知ってたけどやっぱり実際に見ると実感する。


 確かに鬱蒼としていて、なんかジンワリと湿っている感じはある。


 温度も高からず低からずで、何と無くだけどお肌と喉には良い気がする。


 床とかは濡れてはいない様だけど、全体的には薄霧がかかっている感じがする。


 そんな雰囲気でも全体的には不気味な感じは皆無で、結構な数の人がいる。


 囁く様に話す声。


 その中に驚く声。


 そして、どうやら喜んでいるみたいな声。


 概ねこの三種類の声が混ざってあちこちから聞こえて来る。


 ひとまず、私もレクチャーを受けなければと思う。


 確か、お話によるとギルドのガイドさんが新人ダンジョンウォーカーには懇切丁寧に指導してくれるらしいので、是が非でも私もと、そんなギルドの人を探してみる。


 辺りをキョロキョロと見渡す。


 いないなあ。


 仕方ない、小移動。


 再び、キョロ  キョロ  キョロ。

 それを何度か繰り返す。


 捜索範囲を拡大すると、いるにはいる。


 緑色の腕章に『スライムの森ガイド』って書いてる人が何人かいた。


 でも、みんな誰かしらの指導をしていてとても忙しそう。



 この時期は、私みたいな本日デビューな新人ダンジョンウォーカーも多いので、ガイド役のギルドの人はみんなそれぞれに付いてしまっていて、どうやら手すきのガイドさんはいないみたい。


 ザッと見渡して、皆さんそれぞれに指導をされていて、結構探し回ったけれど、本当にガイドさんがいない。


 ああ、いたよ! というか、もうすぐ空きそうって思って近寄るけど、待ってる人がいる。


 どうしよう。


 こう言う時って、順番を待っていれば良いのなあ。


 あ、よく見ると、それぞれのガイドさんとダンジョンウォーカーの方々の近くには既に待っていると思われる人が何人もいる。


 並んだ方がいいの?


 こうして見ていても、ギルドのガイドさん、1人1人にじっくりと時間をかけてるから、今から並んで私の番って回って来るか、ちょっと不安。


 きっと時間がかかりそう。


 仕方ない、1人で頑張ろうかな、って思って、物干し竿ウエポンを構えて見たものの。スライムってどこにいるんだろう?


 生まれてこの方、一度だってモンスター、ここの場合スライムに遭遇した事もないので、どのへんから出て来るのか、そしてスライムってどんなのか、私には皆目見当が付かない。


 ただ、国民的大RPGゲームの某有名ドラゴンクエストとかのスライムくらいしか想像できない。

 

 ひとまず探したらいいのか、それとも出てくるまで待っていれば良いのかな?


 さて、何から手をつけたものかと、途方にくれていると、


 「もし、そこのスピアらしき武器を構えたお嬢さん」


 と声がかかった。


 あ、ギルドの人かも、って期待を抱いてその声の主を見て簡単に裏切られったってわかるの。

 

 ギルドの人って、とてもカッコいいスタイリッシュなギルドの銘の入ったジャージか鎧的な防具なんだけど、その方、普通に学校のジャージだった。校章とか入ってるもの。しかも色合いもスタイリッシュとは程遠い、小豆色な半端な色で、いかにも学校側が学年を分ける為だけに作ったわかりやすいそんなカラーリング。


 なんだギルドの人じゃない上に、あんまりダンジョンウォーカーっぽくもない人だった。


 多分、歳は私よりも上、だから高校二年生かな、三年生かな、そんなお姉さんだった。


 「こんににわ、私は、桜林さくらばやし 美穂みほ、失礼とは思いますが、もしかしたら新人さんですか?」


 と御丁寧に自己紹介、さらにTPOな挨拶をされる。


 「はい、私は日向ひむかい ちからです、今日から初ダンジョンです」


 「そうなんですか、おめでとうございます」


 「ありがとうございます」


 お互いが自己紹介して、改って挨拶すると、同じタイミングでどちらともなくぺこりとお辞儀をした。


 そして美穂さんは言う。

 「今、ギルドの皆さんはお忙しいい様ですから、よければ私がご案内しますよ」

 

 おお、渡に新日本海フェーリー。(※北海道でも日本海側に住む人は『渡りに船』といった諺がこのように変化します)


 「いいんですか?」


 「ええ、スライムの森なら私がご案内できますよ」


 上品そうに微笑んで、美穂さんは言った。


 その笑顔の心強さときたら、もう、全面的によろしくお願い申し上げます。と叫びたいくらい。


 「是非お願いします」

 と私は言うと、美穂さんはさらに笑顔を深くして、


 「よろこんで」


  そして彼女は言う。


 「これから言う3つの事を大切にして下さい」


 指を一つ立てて、

 「一つ、札幌ダンジョンはスライムに始まりスライムに終わります」


 二本目の指を立てて、

 「二つ、スライムをバカにしない、たかだかスライムだとは思わない、そして出

来れば倒したスライムに敬意を念を感じて下さい」


 いよいよ三本目の指を立てて、これで最後、みたいな顔をして、

 「三つ、スライムは愛です」


 え? この美穂さんってヤバイ人かな、なんか一番良い笑顔だ。何かを信じてしまっている人の顔だ。


 でも直ぐに顔の前で手を交差して、ブンブン振りながら、

 「ごめんなさい、今の忘れて」

  とイヤイヤをする。


 美穂さん、変な人だった。でも、年上なんだけど可愛いって思った。


 「ちょっと気持ちが入っちゃったの、ごめんね、全部忘れても良いから」


と耳まだ顔を真っ赤にしてる。


 急に声をかけられてびっくりしたけど、ちょっと美人さんだったから身構えちゃったけど、なんか急に親近感が湧いて来た。


 よくは分からないけど、きっとこの美穂さんもダンジョンが好きなんだって、それだけは伝わってくるから。


だから私から質問。


 「美穂さんはダンジョン長いんですか?」


 「ええ、もう直ぐ6年目ですよ」


 「じゃあ、ベテランさんなんですね、冒険者さんなんですか?」


 この北海道ダンジョンでは、学校とか行かないで生活全てを全振りしてダンジョンに掛ける人をそんな風に言う。


 噂によると、そんなベテラン冒険者ともなると、ワールドワイドにご活躍するインターナショナルティックなエクゼクティブサラリーマンの上を行く年収を稼げるそうだけど、私には関係の無い世界だと思う。


 美穂さんは可愛らしく首を横に振って、

 

「私、ここしか知らないのよ」

と言う。


 ここってスライムの森の事だろうか?


 「私ね、特に運動神経が良いわけでも武道の心得がある訳でも無くて、ましてスキルなんて持ってないけど、北海道に生まれて、札幌に育っている以上、スライムくらいは倒さないとって思っていて、特に部活とかも趣味とかも無いから、毎日毎日、ここでスライムを倒していたの」


 このダンジョンには「一日スライム3体」ってノルマがあって、概ねなんだけど、1日にダンジョンに入るダンジョンウォーカーの総数×3の数のモンスターの討伐ってのが義務みたいになっている。

 もちろん、日によって入るダンジョンウォーカーの数って違うし、結構アバウトな数字目標なんだけど、この数値は概ね日々の総数の目標としては達成できているらしく、一つの意識付けとも言われているんだって。


 だからみんな守ったり守らなかっらりバラバラなんだけど、この美穂さんはきちんとそのノルマを淡々とこなしていたんだなって思った。


 なんかちょっと感心してしまった。


 凄いよね、この人6年間、スライムだけを倒していたんだ。


 「だから、私は強くなんかないし、スライムの森だけの女なの」


 とか言ってるけど、日々のこうした努力って続けるのは大変だよ。


 真面目にスライムの数を減らして、次に起こるかもしれないダンジョンオーバーフローの発生を予防してくれてるんだね。


 かつて、この地位ににモンスターを全く倒さない、ダンジョンの出入り口を埋めてしまって、ダンジョンそのものを無くしてしまおうとしたことがあったんだけど、その時、倒されないモンスターがダンジョンの中で溢れて、ダンジョンの中のモンスターが地面を割って吹き出して事件があるの。


 それが過去2度に渡って起きた『北海道ダンジョンオーバーブロー事件』。


この札幌の街にモンスターが溢れかえったって言う事件なの。


最後に起こってから歳月は流れているものの、今だにこの札幌の街に傷跡とか後遺症を残しているっていう話なんだ。

 

 もちろんその為のダンジョンウォーカーなんだけどね。


 でもこうしてコツコツと地道な努力をしている、札幌単位での縁の下の力持ちな美穂さんの存在って、決して小さくはないと思う。


 美穂さんて、初対面で悪いけどなんかぼーっとしている雰囲気とかあって、よく言っておっとり系の美人さんだから、ダンジョンよりも図書館とか会ってそうな感じで、スライムとはいえアクティブにモンスターを倒すって言うのなかなか似合わない。


 そして、美穂さんは咳払いを一回して、

 「じゃあ、ちからちゃん、教えますね」


 と仕切り直してくれた。


 「よろしくお願いします」

 さあ、いくぞ!


 そして、 美穂さん床を見つめて、2歩3歩動いて、


 「ここね」


 と美穂さんは持っていた杖みたいな武器で床を指す。


 すると床が、若干の色を変えて、薄緑色のシミ、大きさにして直径30センチくらいの歪な縁のシミがゆっくりと時間をかけて現れる。


 「これがスライムです」

 

 ええ?


 どう見てもシミだよ。


 と美穂さんと、その床のシミを交互に見てしまった。


 「スライムはね、確率的存在なの、この子は半分存在して、半分は存在していないのよ」


 わかったような、わからないような。

 

 「攻撃を受けて、当たる事で存在が確定するの」


 スライムの森の主とも言える美穂さんのレクチャーは始まった。

 さっぱりわからない私は、ひとまず気合いとかで乗り切れるかなあ、なんて考えていた。


 いいや、攻撃しちゃえ。


 えい!


 伝わってくるのは、床を突いた感触。そしてそれが生み出す乾いた音。


 シミはびくともしてない。


 今は存在していないのね。


 それだけはわかったわ。


 



  



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