11#帰還!!

 また春が巡ってきた。




 去年、親ツバメ達が育てた子ツバメ達は、それぞれ独り立ちして、各々の場所で南の国で見付けた伴侶と巣を構え、親ツバメがそうしたように、跡継ぎを育む準備を進めていた。


 


 親ツバメのレッシュとフーレは、再び去年育んだショッピングセンターの天井の照明の隅に巣を構える為に戻ってきた。




 「レッシュさん!あれ!」


 「なにあれ?!フーレちゃん!」




 親ツバメ達は、去年構えた照明の隅に、外敵の進入防止と糞の落下防止に巣台が、設けられていたのだ。




 「いいの?ここでいいの?」


 「いいらしいんじゃね?人間が俺らの為に、作ってくれたんだからね。巣を作るのに持ってこいだし、この巣の出っ張りがもし、下から風船が昇ってきても巣の出入り口を塞ぐこともないし。」


 「こりゃ、お誂え向けだね!さあ!ここにふたりの愛の結晶を!!」


 「愛の結晶?」「うん!愛の結晶だよ!雛を!跡継ぎを!」




 親ツバメ達は、せっせと泥や藁など巣材を運んでは人間のこさえてくれた台にちゃっちゃとツバメの巣を作り上げた。




 去年、親ツバメ達の巣を壊そうとした店員の店は、閉店したらしく、シャッターが閉まっていた。




 ・・・・・・




 ・・・・・・




 ぶしゅーーーーーーーーー!!




 今年もまた、ショッピングセンターでは恒例のヘリウム入り風船配りの時期になった。


 ツバメの巣の下では、人間の子供達がカラフルな風船を各々手にはしゃいでいた。


 



 ふうわり・・・





 「うわっ!」


 親ツバメのフーレが、ツバメの巣に雛の餌を運んでいる目の前で誰がの子供の手から離れた黄緑色の風船が横切って高い天井に張りついた。


 「さすが巣の前の台だね。今度は巣の出入り口に塞がなくなったから風船が邪魔にならないね。私たちを思う人間に感謝しないと・・・ん?」





 ぷすっ・・・




 ぱぁーーーん!!




 「ビックリしたーーーー!!風船割れちゃったーーー!!雛達大丈夫かなあ・・・」




 ぴー!ぴー!ぴー!ぴー!





 「大丈夫大丈夫!!さすが私達の雛だわ。

 図太いのはパパ譲りね!!」


 「な・・・なにが・・・??」


 巣台の片隅で、羽根が抜ける位ビックリした表情の雄ツバメのレッシュが、目を見開いてオドオドした声を言った。


 「あっ!これね。巣の台にはみ出た釘が。はははっ!」


 「フーレ・・・と、とぼけたって分かるぞ!!心で笑ったね・・・お、俺が風船が割れる音が苦手なの知ってるなあ・・・?」





 わん!わんわん!!ばうっ!ばうっ!





 「あ、あのときのわんこ・・・」


 「ほ、本当だ!!」





 雄ツバメのレッシュと雌ツバメのフーレは、犬の吼える声を聞いて下を覗くと、割れた筈の黄緑色の風船を口でぷぅーーーっ!!と膨らませながらニッコリとツバメ達を目配せをして微笑む、あのアイリッシュセッター犬のアヴがいるのを発見した。


 「帰ってきたんだね!!ようこそ、わが家へ!!」


 セッター犬のアヴはそう言うと、無数のカラフルな風船を結び付けた尻尾を振った。


 「生きてたんだー!!」


 「おーい!逢いたかったよ・・・」





 ふっ・・・





 「あれ・・・」


 「いない・・・」




 もう一度、セッター犬のアヴを見ようと振り替えると、アヴの姿はもういなかった。





 きゃん!きゃん!きゃん!




 「チャーリーちゃん!もう・・・ツバメさんに吠えたらダメでしょ!ツバメさんビックリしちゃうでしょ?」


 


 そこに居たのはセッター犬ではなく、飼い主にリードで引っ張られる可愛いマルチーズ犬だった。




 「そうだよな・・・」


 「あのわんこ、もう居ないんだ・・・」


 親ツバメ達の目から、涙が溢れていた。


 「でも・・・」


 「生きているよね、私達の心の中で。」


 「いつも、見守ってくれる。」


 「私達、赤い風船を見る度に思い出すだろうね。あの易しい野良犬に・・・」


 「もしかしたら、あのわんこ自体が『赤い風船』だったかも知れないね・・・」


 「あのわんこは、『赤い風船』の精だったかも・・・フワフワと軽やかに私達を笑いかけてくれた・・・」


 「ありがとう!!わんこのアヴさん!!私達の『赤い風船』!!」


 親ツバメ達は、深呼吸をするとまた雛の餌を探しにショッピングセンターの中から飛び立った。





 しゅーーーーーーーーー・・・




 しゅーーーーーーーーー・・・




 ぴー!ぴー!ぴー!ぴー!ぴー!ぴー!ぴー!ぴー!




 やがて雛は、風船が膨らむようにスクスク育ち、親ツバメ達と何だ変わらなく位に大きく育ったある日のこと、巣台の立った雄ツバメのレッシュが、ツバメの巣がはち切れる位育った雛の前で胸を張って言った。



 「我が子よ!!今日は、俺が『特技』を披露する!!」




 「わーーーーい!!」





 「ここに取り出したる、まだ膨らませてない水色の水風船!!」


 「えっ?今回もやるの?」


 「そうだよ!!フーレちゃん!!今度は、君のも用意したから!!」


 「えっ?!私も膨らますの?!この水風船!!」


 「そうだよ!!1度一緒に風船膨らまし競争をしたかったんだー!!」


 「んまぁ!!」


 


 「ママー頑張ってー!!」


 「パパー頑張ってー!!」


 雛達はやんややんやと、声援を送った。




 ・・・やだーーー!!風船なんか膨らませたら、私の美貌が崩れちゃう・・・!!


 ・・・でも、風船を膨らませなきゃならない状況だし・・・いいわ・・・!!




 「じゃあ、せーーーーーのっ!!あっそうだ!!

 (その瞬間、雌ツバメのフーレが「ズコーー!!」とずっこけた)

 我が子よ!!」


 「はい!!パパ!!」


 「ただ、俺らが風船を膨らますのを見ているだけじゃダメだよ!何で膨らますか?それは、ここを羽ばたいて飛び立つという『勇気』を持たせる為にやってるんだ。風船が割れるまで膨らます『勇気』と同じようなものだからだよ!!

 (雌ツバメのフーレ、「割れるまで膨らまさなきゃいけないのぉー!」と卒倒する)

 風船を膨らますのも、羽ばたいて空を飛ぶというものと同じ『思いっきり』が必要なんだ。

 解った?」


 「はーい!なんとなく!!」


 雛達は目を輝かせた。


 「じゃあ、今度こそいくどーーー!!せーーーのっ!!」


 やがてこのツバメの巣の雛も巣立ち、遥かな南の国へ何万キロの旅に向かう。


 南の国でつがいをめとっては、また一緒に何万キロの帰還をするだろう。


 そしてまた何処かの街の片隅でツバメが巣を作り、雛達を育むだろう。





 ツバメの巣を見かけたら、どうか優しく見守って欲しい。





 そして次の年、そのツバメ達が巣に戻ってきたらこう言おう。


 「おかえりなさい、ツバメ達。」









 ~『ツバメと風船』~


 ~fin~

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ツバメと風船 アほリ @ahori1970

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