10#導きの赤い風船
「レッシュさーん!本当にこのルートでいいの?」
「確か・・・」
「あぶないっ!!」
「おっとぉ!!すまん!」
やっと、先に飛び立った子ツバメ達に追い付いた親ツバメは、南の国への何万キロに及ぶ長旅をしていた。
だが、パパツバメのレッシュは、相当の方向音痴だった。
あのショッピングセンターに『帰還』にも、実は昨年まで使っていた巣を乗っ取った先客ツバメのマロに付いていったからたどり着いたからだった。
「ツバメさん、何してるんの?」
一羽のノスリが、親子ツバメ達に話しかけてきた。
「あ・・・あの・・・南の国って・・・」
「何寝ぼけてんだ?ここは何処だと思ってるんだ?」
「あ、」
「『あ』じゃねえよ!ここは空港だ!飛行機がビュンビュン通って危ねえぞ!!
俺だってな!!」
ダーン!ダーン!ダーン!ダーン!
「ひゃっ!!」「銃声?!」
ツバメ親子は仰天した。
「ほら見ろー!俺ら『鳥』はここじゃ、邪魔なんだよ!邪魔!!こっから出るぞ!!」
通りすがりのノスリは、ツバメ親子をけしかけて命からがら空港の敷地から脱出した。
「俺の名前は『パラダ』。良く俺達ノスリやトビとか他の鳥の仲間も、うっかりと不注意で飛んでて飛行機のエンジンに『バードストライク』事故で命を落としてるんだ。君達ツバメもな。」
ツバメ親子は、ノスリのパラダの言葉にゾッとした。
「だから、俺はここで警告の『ボランティア』をしてる。」
「で、君、知ってる?南の国はどこ?」
「それくらい、自分で探せ!!」
ノスリのパラダはそう言い捨てると、翼を拡げて空高く飛んでいってしまった。
「けち!」
雄ツバメのレッシュは、吐き捨てるように呟いた。
「何言ってるの?私達を警告する為に言ってきたんでしょ?あのノスリは。
逃げまひょ!!早くしないと、ノスリの警告みたいになるわよ!!」
「はーい!!」
雌ツバメのフーレに怒られたレッシュは、慌てて我が子を召集すると、そそくさと空港の敷地から命からがら脱出した。
「ふーーーーーー・・・あぶねえ!!あぶねえ!!」
ツバメ親子一行は山を越え、川を越え、人間達の街を越え、遂に海岸までたどり着いた。
ぎゃあーー!!ぎゃあーー!!ぎゃあーー!!ぎゃあーー!!
「カモメさん、カモメさん。」
なんだい?
偶然出逢った一羽のカモメに、ツバメのレッシュが聞いた。
「ツバメの飛ぶ先の『南の国』って、何処だか知ってる?」
「知るかっ!!」
セグロカモメのトフミは、そう吐き捨てるように言ってそそくさと飛び去っていった。
「全く・・・ケチなカモメだなあ。」
「しょうがないでしょ?相手も知らないんだから。」
ツバメの親子は、目の前に拡がる広大な大海原を見渡して途方に暮れた。
「ねえ、ここはどの方角かしら?」
「それこそ、『知るか!』だよ。仕方ないから、適当に飛んでみて探し回るしかないねえ・・・」
「骨が折れそうだけど・・・そうするしかないわ・・・・・」
「大丈夫よ。ママ、パパ。皆ついていくから。ね、みんな!!」
子ツバメ達は、皆頷いた。
「まあ・・・」
ママツバメのフーレは、子ツバメ達の決意に目頭を熱くした。
「子ツバメ達!ついてこいよ!!くれぐれもはぐれるなよ!!」
「はーい!」「解った!」「うん!」「はいっ!」
子ツバメのネイ、ブゥ、ルゥ、ストゥは皆パパツバメのレッシュに向かって気前よく返事をした。
ざざざ・・・
ざざざ・・・
岸壁に留まるツバメ親子の目の前で、大海原の荒波が次々と打ち寄せていた。
「じゃあ!皆!この大海原を渡って、南の国に行くぞ!!」
親子ツバメ達は、息を思いっきり吸い込んで、頬を膨らますと翼を拡げ、岸壁を飛び立った。
しゅーーーーーーーーっ・・・
しゅーーーーーーーーっ・・・
ツバメ達は飛ぶ。
大海原を渡る。
しゅーーーーーーーーっ・・・
しゅーーーーーーーーっ・・・
ごおおおーーーーーー!!
ざっぱーーーーーーーーーーん!!
ツバメ達の目の前に、巨大な・・・
「でっかーーーーーい黒い風船が泳いでるーーーー!!」
「我が子達!違うよ!!巨大な風船が泳いでるんじゃないよ!!あれは、シャチだよ!!」
「シャチ・・・?!」
「シャチだーーー!!」
「シャチでけーーー!!」
「シャチ!シャチ!シャチ!」
「シャチさーん!こっち向いてーーー!!」
子ツバメ達は、波しぶきを揚げぬて泳いでいく巨大なシャチに大歓声をあげた。
「フーレちゃん?」
「なあに?レッシュさん?」
「あのシャチに、南の国の行き先を聞いてくる!!」
「ええっ?!ちょ、ちょっと!危ないわよ!噛みついて来たらどうするの?!」
しゅーーーーーーー・・・
雄ツバメのレッシュは、牝ツバメのフーレの静止を振りきってシャチの目の前へ飛んでいってしまった。
しゅーーーーーーー・・・
しゅたっ!!
「なんだぁ?この柔らかいプニプニした身体は?」
ツバメのレッシュは、シャチの巨大な頭を右往左往に歩きまわった。
ぶおおおーーーーーー!!!!!
「?!!」
目の前の噴気孔から、勢いよく水飛沫と共に突風のような吐息が吹き出し、ツバメのレッシュは仰天して思わず転げ落ちそうになった。
「よっこらしょ!」
ぐぎゅっ!!
「痛たたたたたたーーーーー!!」
ざっぱーーーーーーーん!!
「うわーーーーーーっ!!」
レッシュが脚の鉤爪を頭を掴んだ痛みで、シャチは海面から這い出てきた。
ツバメのレッシュはバランスを崩して海面に墜落する寸前に、体制を取り直して、しゅーーーーーーー・・・と、シャチの巨大な目の周りを飛び回った。
「あーーーーーー!!こんにちわ小鳥さーーーん!俺はーーーシャチの『パーシー』でーーーーーーす!!
君はーーー!!」
「俺はツバメのレッシュ!!シャチなら解ると思うんだけど・・・」
「なんだーーーーい!!」
「今から南の国に生きたいんだけど・・・方向はこっちでいいのかなあ?」
「ぶぁっはっはっはっはーーーーー!!!
俺、今から北の寒ーーーい国に行くんだーーーー!!
南の国に行きたいなら、逆方向だよーーーーー!!
引き返ししなくちゃねーーーー!!
じゃあ、俺は急ぐんでねーーー!!
ばーははーーーーーい!!」
ざっぱーーーーーーーん!!
シャチのパーシーは、そういい残して激しい水飛沫をあげて再び海に
潜って行ってしまった。
「うわーー!!シャチさんってやっぱり、でっかい風船だったねぇーー!!」
「誰が膨らましたのかなあ?シャチさん!!」
「どんぐらい空気が入ってるのなかあ?」
「パンクしたらやばそう!!」
子ツバメ達は、シャチが潜っていった周辺を飛び交い興奮のしどうしだった。
「大丈夫?レッシュさん?」
牝ツバメのフーレが、シャチの水飛沫でびしょ濡れのレッシュを迎えにきた。
「皆!!すまん!!南の国は、今来た方向の逆方向だ!!」
「えーーーーーーーーっ!!!???」
親子ツバメは引き返した。
今度こそ、南の国へ向かって。
しゅーーーーーーー・・・
しゅーーーーーーー・・・
しゅーーーーーーー・・・
しゅーーーーーーー・・・
しゅーーーーーーー・・・
しゅーーーーーーー・・・
「ママー疲れたーーー!!」
「お腹すいたーーー!!」
「どっかで休みたーーい!!」
「まだ着かないのーー!!」
子ツバメにも、親ツバメにも、段々と疲労の限界に差し掛かってきた。
「レッシュさん?!」
「なあに?あの風船???」
「レッシュさん?!あんたまで、シャチとかイルカとかサメとかクジラとかを『風船』って呼んでるの?!」
「違う!!本当に『風船』なんだよ!!」
「風船!!」「ふうせん!!」「風船が飛んでいる!よー!!」「風船綺麗ぃ!!」
子ツバメ達も、ワイワイとはしゃぎ回った。
「えっ?えっーーーー!!えええっ?!こ、これは?!」
牝ツバメのフーレは、目の前に突如現れた1つの赤い風船にビックリした。
「こ、この風船・・・確か・・・覚えているわ・・・?」
このツバメ親子の前に立ち塞がるように飛んできた風船は、ツバメの巣を塞いだあの赤い風船そのものだったのだ。
可愛いウサギの絵も、ツバメの糞で汚れた表面まで瓜二つだったのだ。
「そいえば、あの赤い風船は、あの赤い大犬が割っちゃったんじゃなかったっけ?
人間の店員に追いかけられた時に、パンクしちゃったんじゃ・・・」
「あれ?この風船何か変だ。ゴムの匂いじゃなくて、獣の匂いがするよ?」
ぷくっ。
赤い風船の表面の一部が、いきなりポッコンと団子のように膨らむと犬の鼻の形になった。
くんくんくんくん・・・
黒光りする犬の鼻の如く、赤光りする風船の犬鼻は、鼻の孔の形をはらませて匂いを嗅いだ後、元通りにしゅっ!と縮むと、吹き口の栓が半開きになって
ぷくぅーーーっ・・・!
と、空気が入り洋梨のようにパンパンに膨らんだ。
・・・僕についておいで、ツバメさん達・・・
「誰?」「風船が話している?!」
親ツバメは困惑した。
「パパ!」「ママ!」「風船の言う通り!」「行こうよ!」
子ツバメは、親ツバメに説得した。
「フーレちゃん、我が子と同じ意見だよ。あの風船の言う通りにしようよ。
南の国へ導いてくれるらしいんだから・・・!!」
「解ったわ!!じゃあ、風船さん!南の国までナビゲートお願いね!!」
牝ツバメのフーレが風船にそう言うと、その風船はまるで犬がじゃれるようにツバメ達の周りをフワフワと飛び回った。
・・・あの風船、もしかしたら・・・?
親子ツバメ達は、不思議な赤い風船に付いていった。
朝でも、
夜でも、
嵐の中でも、
豪雨の中でも、
潮化の日でも、
赤い風船は、ツバメ親子にはぐれずに南の国へ連れていってくれた。
時に、子ツバメ達と遊び、
時に、親ツバメ達も加わって、
時に、ぷしゅーっと萎み、
時に、ぷくーっ!とはち切れる位膨らんで、
親子ツバメに降りかかる行く先々の困難から護って、
やがて・・・
「ママ!見てみて!!」
子ツバメのルースは、大はしゃぎした。
「え・・・あーーーっ!!」
親子ツバメ達は、目を見開いた。
土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!土食って虫食ってしぶーーーーーい!!
「これは・・・!!皆!!仲間達!!逢えた!!やっと逢えた!!」
「来たのよ!!やっと来たのよ!!南の国!!」
それは、ツバメ達の群生地。
ツバメ達の避暑地。
世界中のツバメ達が集う、南の楽園・・・
「みんな!!遅くなってごめん!!やっと帰ってこれたぞーーーーー!!」
「逢いたかったわーーーー!!こんにちわーーー!!!」
雄ツバメのレッシュも、牝ツバメのフーレも、大粒の涙を流して、ツバメの群れに飛び込んでいった。
「ありがとう!!風船さーーーん!!」
「あれっ?風船さんがいない・・・」
「風船さーん!!何処にもいるのーー?!」
「ママー!パパー!風船さん居なくなっちゃった!!」
子ツバメ達は、一斉にツバメ仲間達と再会のダンスを楽しむ親ツバメ達を呼び込んだ。
「そういえば・・・」
「レッシュさん!!空の上見て!!」
「ああああ!!あれは!!」
親子ツバメ達をこのツバメの国に導いてくれた、赤い風船は、遥か上空に遠く遠くと昇っていった。
やがて、赤い風船は豆粒のように遠く昇り視界から見えなくなった。
「もしかして・・・あの風船は・・・」
「あの赤い犬の魂だったかもしれないね・・・」
「やっぱり、あのとき人間に捕まって殺されちゃったのかなあ・・・」
「そして、その最期の命をあの赤い風船に託して・・・」
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