沈子
沈子は雪の降っている間眠いから、冬の間はたいくつだ。
メグと沈子を向かい合わせて人形遊びに耽るのにももう飽きた。メグというのは沈子くらい背丈のある熊のぬいぐるみです。
カラメルは手に息を吐きつけて、腋の下に両方とも挟み込んだ。冬眠中の沈子は体温も虫の蛹みたいに低くて、暖を取る役に立たない。白い髪を掴むと灰のように柔らかく灰のように温度がない。
「役立たず。役立たず沈子。あんただけ夢で私と遊ぶんだ。もっと楽しいことをするかも。ずるい」
部屋の壁には時計が十一個かかっている。カラメルのしわざだ。べつに、時計が十一個あれば相乗効果で時が早く進むと考えたわけではないのだが、そう考えなかったというわけでもなかった。暇だと呪術でもやるほかないのだ。
凍りついた窓の向こうには、見えはしないが忌々しい雪がしんしんと降っているに違いない。
沈子が眠っている間、カラメルは一人ぼっちだ。鳥一羽、鼠一匹訪れない。無為もひじきを身籠るのが佳境で遊びに来ない。
沈子の趣味の一つである特殊なエロ写真のコレクションを盗み見るのも秒で飽きた。なにしろ、彼女が買い取るのは女性がケーキを尻で潰す写真とか、裸の女性が重量挙げをしている写真、女性の運転している車がぬかるみにはまった写真、といった代物ばかりで、何が面白いのか全くわからない。
遊び相手は時間しかなくて、息をして退屈を紛らすしかないのだ。それとも、家に火でもつければ気が晴れるかもしれない。あるいは、沈子を凍る海にぶち込んで飢えた魚に食わせるか。
家に火をつけるというのはいいアイデアに感じたので、夏に使わなかった花火を持ち出して、家のなかで遊ぶことにした。
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