連れ去るモノ
初めての月面着陸を果たした、アポロ計画から数十年。
この国でも有人宇宙船を打ち出し、地球の周回軌道に乗せることに成功した。
無事帰還した英雄たち、だがその姿を人々が見ることは無かった。
着陸した宇宙船から、担架で運び出される姿が映し出され、飛行士たちの『体調不良の為』と発表が有った。
病院の一室、部屋には四人。
この国初の有人宇宙船の飛行士の一人である彼は、ベッドに横たわっている。
ベッドの脇に三人。
一人は、白いシャツに黒の背広に黒ネクタイ、黒の革靴を履き、部屋の中なのに黒レンズのサングラスを着用した男性、顔は白人男性だと言う他は特徴が無い。
もう一人は、この国の人間、いかにも『事務が得意です』と言った感じの七三分けで黒メガネ、中肉中背の中年男性。
後の一人も、この国の人間、こちらはいかにも中間管理職じみた風貌の、小太りの壮年の男。
黒ずくめの男が感情の無い声で、黒メガネに話しかける。
「後手に回りましたな、忠告はしたはずですが……彼らが、接触してくる可能性は高かった、そしてこのようになった」
黒メガネの男が、それに答える。
「えぇ、そちらを通して、彼らと会見をする前に起こってしまいましたからね。
……ですが、こちらとしても彼らと契約が結べましたし、これからは独自で連絡も取れそうです」
「その辺りは我が国との連携を崩さないように、お願いしたいですな」
黒いソフト帽をかぶり黒ずくめの男は、病室を出て行く。
黒ずくめの男が、病室から出てしばらくして、残された男たちは口を開く。
「同盟国の大国が、彼らとパイプを持っていてくれてよかった、話が来たときはバカなことをと思ったんだがな……」
「宇宙人に、エリア51に、MJ12に、メン・イン・ブラック……都市伝説マニアなら泣いて喜びますよ」
「ところで、英雄たちは無事に戻ってこれそうなのか?」
「彼らからの連絡では、一か月ほどで戻ってくるそうです」
小太りの男は、ふぅ、と一息つき、話を続ける。
「それは良かった、まさか”脳みそ”で宇宙旅行とはなぁ」
黒メガネが、「そうですね」と返事をした後。
「宇宙飛行士たちも望んだそうですし、彼らとしても”気に入った個体”の了解をとった上でしょうからね、それと……、”蔑むべき個体”の脳も取り出してしまうらしいですから、注意しませんと」
「嫌われれば地獄の旅路か……、くわばらくわばら」
「『ユゴスよりのもの』……我々も、あの国のように、彼らに対しての対策組織を早急に組織していますので……」
そう言って、二人も病室から出て行った。
残されたのは、一人の宇宙飛行士。
彼は他の宇宙飛行士の仲間と共に、その脳を特殊な円筒の中に入れられ、『ユゴスよりのもの』の手によって、星間宇宙の旅に出ている。
自らが望み、彼ら『ユゴスよりのもの』も手を貸した。
人智を凌駕した宇宙の深淵に触れ、暗黒の渦たる大いなる混沌の叡智に触れ、底知れぬ虚ろな恐怖に対峙し、人として人間としてこの世界に戻ってこれたかは、また別の話である。
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