月夜の晩に

 今夜は月が綺麗だ。

 大きな満月が、夜空に浮かんでいる。

 大きな大きな月が、地面に落ちてきそだ。


 月明かりに照らされて、大きな看板が光っている。

「痴漢に注意!」「夜道は一人で歩かない!」


 今日は月明かりで、見通しがいいが普段は街灯もない暗い路地だ。

 そんな場所に俺は居る、何故かって? それは俺が痴漢だからだ。

 いや、正確には露出狂だ、いやいや、どうも聞こえが悪い。

「裸で局部を露出して人に(主に女子)に見られて性的興奮を覚える」人だ。


 帽子にサングラスにマスク、裸にコート一枚着込み、闇に潜む。

 最近は、見回りの警官や地域の防犯パトロールも回っているが、俺のリビドーは止められない。


 おっ、前から女性が歩いてくる、危ないなぁ、これは危機意識を与えてやらねばなるまい。

 俺はおもむろに、女性の前に飛び出し、コートの前を全開にする! ふぉおぉぉおおおお!! エクスタシーー。

 さぁ! 叫ぶのか? 罵るのか? 冷たい目で見るのか? それとも恥ずかしがって逃げるのか? さぁさぁ!


 だけど、その女性は何事もないようにこう言いだした。

「あらあら、こんな綺麗な月夜にわざわざ闇に潜んで、そんな事して喜んでいるのね? あなたの欲望を人に見せて、どんな顔をするか楽しんでるのね? 私にどんな顔をしてほしいのかしら? どんな顔をすればあなたの欲望が満足するのかしら?」


 その女性は、とてもとても美しい姿をしていた、美しく輝く月すら霞むほどに。

 吸い込まれるような黒い瞳に見つめられ、俺は動けないでいる。

 彼女の顔が、俺の眼前まで迫ってくる。


「じゃぁ、こんな顔はどうかしら?」

 俺の目の前で、グニャリと顔がゆがむ、粘土細工を崩したように、そして真っ黒な闇が渦巻くような得体の知れないモノになっていく。


「ぎゃやぁああああああああああ!!!!」

 叫び声を上げ踵を返して逃げ出した。


 どれだけ走っただろうか、前に二人の警官が見えてきた、パトロール中なのかもしれない。

「助けてくれ!」

 俺は警官の足にしがみつき、大声で助けを求めた。

「かカカ怪物が化け物が! 助けて助けて」


「おい! お前、何て格好をしてるんだ、怪しいヤツだな」

 しまった! 俺の姿がやばい、いやそんな事より。

 俺は顔を上げ、警官にさらに泣きついた。

「かかっ怪物が、顔がぐにゃって無くなって」

「何を馬鹿なことを言っているんだ、酔っぱらっているのか? しかも裸で」

 俺は必死になって訴える。

「ホントなんだ! 信じてくれ!」


「おいおい、顔が粘土みたいに、ぐにゃってなったって?」

 警官たちの顔が歪んでいく。

「それで、顔が無くなっていったって?」

 ぐしゃぐしゃになった顔が渦を巻くみたいに、まるで闇が渦巻くように。


「うぁああああああああああ!!!!」

 俺はまた逃げ出した、今度はアパートの部屋まで止まらない、息が上がり心臓が破裂しそうになる、急いで鍵を開け自分の部屋に転がり込み、仰向けに転がり荒い息をする。

「あんた何やってるんだい! まぁまぁ丸出しにしてみっともない!」

 げっ! かぁちゃん! え? 何で部屋の中に居るんだ?

「そんな格好して警察のお世話になりたいのかい?! みっともないマネはよしとくれよ」

 え? 鍵かかってたよな? 開けて入ったよな? こいつ誰だ?

 呆けて見ていると、俺のかあちゃんそっくりの顔が、グニャリと醜く歪んでいく。

 俺は、意識を失った。




 楽しげな鼻歌が聞こえる、だがそのメロディはひどく不調和で冒涜的な音階で聞くものを不快にさせるものだった。

「あぁ、楽しかった」

 楽しそうな声でつぶやき、悪戯好きな千貌にして無貌の神は、月明かりの中散歩を続けるのであった。



 ********

 はい、「のっぺらぼう」ですね(*'ω'*)

 あと「痴漢は犯罪です、痴漢ダメ絶対」

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