瑠璃色の幸せ

 とある国のスラム街。

 とある家族が住んでいました。

 とある国の人々が出すゴミの山、劣悪な環境の中、母親は亡くなり、妹もなくなり、少年は父親と二人で地を這うように生きていました。


 大きな大きなゴミの山。

 少年は、そこから使えるものを探し出し、家族の生活の糧の足しにして暮らしていました。


 ある日、少年はゴミの山の中から、小さな小さな蛇を見つけました。

 瑠璃色に輝く鱗は血に染まり、いくつもの傷が付き、片目はつぶされていました。

 獣にやられたのか、他の子供たちに慰み者にされたのかわかりませんが、このままでは死んでしまうかもしれません。


 少年は、その瑠璃色の美しい小さな小さな蛇が、このまま死んでしまうのは、可愛そうと思いました。

 少年は、そっと小さな小さな蛇を両手で包むと、他の人に見つからないような場所に隠しました。

 家からなけなしの傷薬をくすねてきて、小さな小さな蛇に塗りました。


 食べられるような虫を捕まえて与え、傷が塞がるまで薬を塗り続けました。

 小さな小さな蛇は、日に日に元気になりました。


 ある日、元気になった小さな小さな蛇を両手に包むと、少年は町はずれの森に走って行きました。

 大きな木の下に、小さな小さな蛇を下ろすと、優しく微笑み言いました。

「もうあんな所に来ないようにね、キミは色々な所に行けるんだから」


 小さな小さな蛇は、去っていく少年の背中を見つめ願いました。

「あぁ、かぁさまかぁさま、われらすべてのかぁさま、ねがわくば、あのやさしいこにしあわせを」


 次の日、少年の暮らしは一変しました、父親が大金を手に入れたのです。

 父親は、スラムから抜け出し家を買い商売を始めました、商売は繁盛し家は裕福になりました。

 少年は、学校に通えるようになり、靴を履き新しい服を着られるようになりました。

 新しい母親も来ました、優しく接してくれました。


 少年は幸せでした。


 ある日の夜、少年は父親の大声で目を覚ましました。

 様子を見に行くと、父親と母親が何かを殴りつけています。

「あぁ」

 少年は泣きました、父親と母親が殴りつけていたのは、少年が助けた蛇だったからです。

 姿は大きくなりましたが、潰れた目と瑠璃色の綺麗な鱗で確信しました。

 血まみれの蛇をさらに叩いている父親に抱き着き、やめるように懇願したのですが、恫喝され泣きながら部屋に戻りベットで涙を流しました。


 泣き疲れ眠りについた少年は、夢を見ました。

 美しい女性が出てくる夢です、これはきっと女神様だ、少年はそう思い平伏しました。

「顔を上げよ、人の子よ」

 少年は顔を上げ、女神様の姿を見ました。

「我が子を助けたお前に、我が子の願いで幸を授けた、だが、我が子はお前の親に打ち殺されてしまった」

「死してなお願う我が子の願いにより、人の子よ、お前のは助けてやろう」

「眠れ、人の子よ」

 女神は悲しそうな顔をして、目を伏せました、その瞳は、金色に輝く蛇の瞳でした。


 朝、少年が起きてこないのを心配して、母親が起こしに来ました。

 声をかけても部屋から出てきません。

 母親が叫び声を上げ、それを聞きつけた父親も部屋に来ました。

 少年が寝ていたはずのベッドには、まるで蛇の脱皮した後のように少年の姿を残した皮だけが残されていたのでした。


 唖然とする父親、泣き叫ぶ母親、朝の家の中は騒然としています。

 そんな騒然とした家の中に、玄関のドアを蹴破り強面の男たちが家に入って来ました。

 男たちは少年の両親にひどいことをして、どこかに連れて行きました。

 父親が以前手にしたお金は、男たちから盗み出したものだったのです。


 庭の草の陰から小さな蛇が、その様子を見ていました。

 やがて悲しいそうにうつ向くと、這ってその場から消えていったのでした。

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