空から

 野球部やらサッカー部やらが、大声を出して騒がしい放課後の校庭を眺めながら、俺は帰り支度をしていた。

「おーいミツル、早く帰ろうぜ」

 友人のタカシが声をかけてきた。

「あー、うん、ちょっと待てて」

 慌ててカバンを担ぐと、タカシの後を追って教室から出ていく。

 靴を履き替え、外に出るとおかしなことが起こっていた。


「なんだこりゃ?」

 タカシが驚いている、そりゃ驚くわ、俺も驚いた。

 学校が、虹色に輝く光で包まれている、カーテンのようだ、オーロラ? なんだこれ?

「これ、外出れるのか?」

「わかんね、行ってみよう」

 泣いているもの、光の壁にパンチや蹴りをかましているもの、途方に暮れて立ち尽くすもの。

 校門の前には、出れなくなった生徒が集まっている。

 携帯も通じないらしく、女生徒が泣きながら叫んでいる。

 校内に残っていた先生たちも出てきた。


 それを眺め、「やっぱ出れないみたいだなー」とつぶやく。

 現状、何もできそうにない。

「仕方ないから教室戻るか」

 タカシが諦めたように踵を返し、「そうするかー」と俺も後に続いた。


 なんとなく、あきらめ気味に空を仰いだ、校舎の屋上で何か光っている。

「おい、タカシあれ見て見ろよ、屋上」

「あ?あんだあれ?」

「行ってみるか」と言うと、屋上まで走り出した、タカシも後を付いてくる。


 二人して、フゥフゥ吐息をつき「きっつー」とか言いながら、屋上までたどり着く。

 屋上のドアに手を付き回す、鍵がかかっていたはずだ、だけど、鍵は掛かっていなかった。

 そっと開け、二人でのぞき込む。


 屋上には石の柱? それが円形に並べられ、その中心に男が居た。

 でっぷりと太ったニキビ面、べっとりと張り付いた髪の毛、分厚い眼鏡の奥の腫れぼったい目を見開き、分厚い本を広げ、足元の幾何学模様の書かれた何重もの円から放たれる虹色の光に包まれ、天に向かって何かブツブツ言っているようだ。


「おい、あれってオカルト研の変人だろ?」

 ある意味有名人の彼は見たことある。

「何やってんだあいつ? 目がイっちゃってるぞ」

「わからん、俺に聞くな」

「あの石の柱みたいなの、よく見たら張りぼてみたいだぞ」

 演劇に使うようなアレだ。

「あいつ、見つからないようにこんなの作ってたんか、ある意味すげーな」

 そりゃ、屋上のカギを壊して開け、こんなものを誰にも見つからないように作っていたんだから、ある意味すげーよ、その情熱を別のものに使えば良かったのに。


 ひときわ大きな声で、アイツが叫んだ。

「いぁ!いぁ!よぉぐ=そとぉうす! その姿を現し、我に英知を与えたまへ!!」


 その瞬間、虹のベールで覆われた空が裂けた。

 その裂け目から見えたのは、夜より暗い闇、そしてそこに蠢くモノ。

 一つ一つが太陽のように強烈な光を放つ玉虫色の球体の数々、うねり躍動するおぞましい何か。


 めまいがと吐き気が襲ってくる、立っていられない、タカシの方を見ると膝から崩れ落ち震えている。


 ゴォ! と、大きな音を立てて、一陣の風が吹く。


 思わず目をつぶり、再び開いたとき目の前に広がったのは、まるでカジリ取られたような屋上。

 張りぼての円柱も、そこで騒いでいたキモ男も、屋上ごと消え、下を覗けば、机が散らかった教室が姿を見せている。


 虹色のカーテンが消えた空は、何事もなかったように青空が広がっていた。

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