手荷物

 空港は人で連休の事もあり、入出国の人でごった返していた。

 俺も、手荷物の検査のため、保安検査場への長い列に並んでいた。

 なかなか進まない列に皆イライラ顔だ。


 不意に何やら騒がしくなる。

 またどこぞの間抜けが、要らないものを持ち込んで注意されているんだろう。

「チッ、何やってるんだか」

 覗くと、物騒なことになっていた。


 奇声を発し走り回るもの、大声で泣き叫ぶもの、呆けたように座り込むもの。

 混乱の輪が広がっていく。

 並んでいた人たちも、危険を察知して列を離れ逃げ出している。


 俺は、慌ててその場を離れる人たちの波にもまれながら、保安検査場に向かっていた。

 何が起きたのか?危機感より、好奇心が勝ってしまった。

 そこには、黒ずくめの服を着た人物が一人、大きなカバンの中に何かを仕舞っている、よく見ようとさらに近づいていく。


 なにやら黄金色に光る塊を鞄にしまうところだった。

 俺に気がついたのか、男がこちらを向く。

 痩せ細った身体、のっぺりとした顔にギョロギョロとした目が付いている、そいつは俺を見つけるとニィッと目を細めて笑った。


 怖気がして、気分が悪くなる。

 不気味な男がこちらに向かってくる。

 ブツブツとつぶやく声が耳に入ってきた。


 いあ いあ はすたぁ はすたぁ くふあやく ぶるぐとむ ぶるぐとらぐるん ぶるぐとむ あい あい はすたぁ


「そんなに、見たいなら見せてやろう」


 男が鞄から、を出してきた。

 は、ぬめぬめと光る黄金のような金属で出来た、名状しがたい形をした像だった。

 無理に形を表現すれば、”触手に覆われた直立したトカゲ”とでも言えばいいのか。

 俺は、それを見た途端、激しい目眩に襲われ、暗い泥の中に沈みこむように意識を無くした。


 目を覚ました時、白い部屋のベッドに寝て居た。

 消毒液臭い部屋は病院のようだった、大きな窓があり、俺が起きたのを見てせわしなく動いている何人もの人が見える。


 軽い頭痛がして手で顔を覆う・・・? これが俺の手?

 ベッドから飛び起きようとした、が、無様に転がり落ちる。

 、俺の足が。


 俺は号泣した。

 ヌラヌラと粘液で光る青黒い触手を抱え込み、獣の叫び声のような声を上げながら。

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