猫眠

 眠い。

「カスミ、また授業中に寝てたね」

 帰り支度をしてるところに、悪友のリョウコが喋りかけてくる。

「叩かれるまで寝てるなんて、病気じゃないのー?」

「あー、うん、まだ眠い」

 あくびが出る。


「なんか最近変な夢を見るんだ」

 長い長い薄暗い螺旋階段を下りていく夢、降りていくと二人の爺様が居て、何か話をしてたと思う(内容までよく覚えてないけど)、それが何日も続いた後、爺様たちにそこから更に下に降りていく許可をもらって、今は終わりそうもない階段を下りていく夢を見ている。


「なにそれ?夢のなんかの本でも読めばわかるんじゃね?欲求不満とか」

「欲求不満じゃねーよ、と言うかさ、もうじき底につきそうなんだよねー」

 そう、長い階段を下りて、出口であろう大きな門が見えてきてる。

「じゃぁさ、底についたら何があったか教えてよ、楽しみにしてるから」

「お前、他人事だと思って、同じような夢見てこっちは嫌になってるのにさ」


 家に帰って、机に向かって眠気がさえない。

 ふっと、机の引き出しを開けて中の物を見る。


 中には、写真とブローチ、写真は飼い猫だったシロと写したものだ。


 雪のように白い雄ネコで、賢い子だった。

 優しい子で、落ち込んでた時は、そばに来て慰めてくれた。

 外に出たきり戻ってこなくなって、ずいぶん経つ、ネコは死に際を見られたくないって話もあるから、そうゆう事なんだろうと思っている。

 でも、もう一度くらい会って別れの挨拶をしたかったな。


 ブローチは、海外旅行に行った叔父が買ってきてくれたものだ。

「お前も、こーゆーのを着けるようになるんだから、貰っとけ」とかなんとか。

 珍しい所で採れた、縞瑪瑙と言うので出来た物らしい。


「そういえば、コレを貰ってからだなぁ」

 私はつぶやきながら、ブローチを手に取って眺めてみた、古い品物らしいけど、特に変わったところはないと思う。

 しばらくブローチを眺めていると、また睡魔が襲ってきた。


 長い螺旋階段を降り切り、大きな門を開ける。

 そこは、草原、大きな川、古都のような大きな街、風景は世界のどこかにあるような、それでいて何処にもないような、不思議な風景が広がっていた。

 一歩足を踏み出した途端。

 ガクンっとして、目が覚めた……目が覚めた?

 頭が痛い、目が覚めたの?


 部屋の窓が開いていく。

 大きさがネコぐらいのが入ってきた。

 体は色鮮やかな幾何学模様で、大きな目が付いた顔はすごく派手だ、脇腹に宝石みたいなのも付いている。

 見てるとクラクラして気分が悪くなってくる。


「妙な気配がするト思っタら、オ前ソンな物ヲ持っているノか」

 喋った! なんか怪しいけど喋っている!

「丁度いイ、奴らに手土産がデきた」

 ジリジリと妙な生き物が迫ってきた。


 立ち上がり後ずさるけど、頭がクラクラしてうまく動けない。

 誰か助けて! 声を出そうと思っても、口がうまく動かない。

 助けて! 誰か助けて!


 不意に、窓から白い塊が風のように入って来て、怪しい生物に体当たりをして吹き飛ばした!

 毛を逆立て牙をむき、怪しい生物を威嚇する姿を見て、涙が出てきた。

「し  ろ」

 うまく動かない口で、名前を呼んだ。

 シロが風のように動く、怪しい生物の攻撃をかわし、噛みつき引っ掻き、それでも何度か反撃を受けたが、最後に後ろ足で蹴られ、壁にぶつかり怪しい生物は動かなくなった。


 トテトテとシロは私に近づいてきた。

「カスミは、相変わラず泣き虫だナぁ」

 シロが目を細めて喋りかけてきた。

「なんだよぉ、シロ喋れるの? てか声渋すぎだよ」

 私は、涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔でシロを抱きしめた。


 それから、私が落ち着いたのを見計らって話し出した。

「まさか、カスミが許可ヲ得て、ドリームランドまで来ルとは思ってナかったよ」

 ドリームランドに行けたのは、その縞瑪瑙が、ドリームランドのレン高原産だから。

 カスミが襲われたのはドリームランドの入り口で、あいつ等の斥候に感づかれたから。

「あいつらって?」

「”土星からの猫”っテ呼ばれテるよ、ぼく等ノ敵だよ、ぼく等も見張ってイたからね、間に合ってヨかったよ」


 それから、シロが居た頃の話をした、懐かしくてまた泣いた。

「カスミは、もうアそこに来なイ方がいい、トても危険だからネ」

 そう言って、シロはブローチを咥えて出て行った。

 窓に乗った時に、もう一度こちらを向いて尻尾を振って行った。

 私はまた泣いた。


 目が覚めた時、私は机に突っ伏していた。

「夢だったのかな?」

 と思ったんだけど、ブローチが無くなっていたり、壁にへこみがあったり、服にシロの毛がついてたりしていた。

 泣き腫らした顔はちょっとひどかった。

 怖い思いをしたけど……またシロに会えてうれしかった思いの方が大きかった。


 シロの言っていた【ウルタール】、いつか私も行けるかな?

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