第97話、王都防衛戦③

「クソッ、なんだあれは! とにかく撃て、撃って、撃って、撃ちまくれ!」


 麗華の魔法に押しのけられた男たちは、銃を構え直すと一斉掃射した。だが、いずれの弾丸も、砂の混ざった風の壁の前では無意味。ある弾丸は風の壁に勢いを殺がれ、あさっての方に弾かれた。また運良く壁に入れた弾丸も、風の勢いによって巻き取られていく。


「クソッ。これじゃ埒があかん!」


 部隊長は、そう吐き捨てると後方のM1に、片手をあげて合図をする。


「もう止めてください。無益な争いは私も好みません」


「ほざけっ!」


 麗華の忠告を無視し、尚も銃を撃ち続ける男たち。その間に、M1の砲口が麗華を捕らえた。ドォーン、ドォーン、ドォーン。10発/分で発射された砲弾は真っすぐに麗華の元へ――。だが、そのいずれも風の壁にぶつかると爆発する。


「ダメか……」


 部隊長がそう呟いたとき、それは起きた。先程まで麗華の前に展開していた風の障壁が止んだのだ。そのチャンスを男たちは見逃さない。


「よぉし、撃てぇ!」


 男たちの自動小銃は再び火を放つ。男たちの居る場所は、薬莢に点火された煙が立ちのぼる。しばらくして、煙が晴れると――そこには無傷の麗華が立っていた。


「チッ、化け物め」


 男の声を聞き止めた麗華が声をあげる。


「誰が化け物ですか! 失礼ですよ!」


 憤った声をあげると、麗華は男たちへ手を向ける。と、次の瞬間、後方からまたしてもM1の砲口が火を噴いた。麗華は、砲口から発射される瞬間に横飛びしていた。狙いを外した砲弾が、強固な市壁に当たり爆発する。市壁には、大きな穴があいていた。


 さすがにあれはマズいわね。銃の方は何とかなるけど……。麗華は、風の障壁が消し飛んだ理由を考える。そして一つの結論に達した。

 やっぱり爆発の威力が大きいのね。それで風の流れが変わったんだわ。そうと分かれば、最初に倒すのは戦車ねッ。私はまだ瞬間移動は使えない。とすれば、これしかない。


下級身体強化魔法バディストレンジ!」


 麗華が魔法を唱えると、赤い膜が体を包み込む。よしっ。麗華は魔法の効果を確認すると、M1に向けて駆け出す。


「M1をやらせるなッ、撃ちまくれ!」


 背中を向けた麗華に狙いを定め、弾幕を張る。だが、当たった、と思った瞬間全ての銃弾は弾かれ落ちた。そうしている間にも、麗華はM1に近づく。

 そして麗華の魔法の射程に入った。


下級豪雪の息吹ブリザード!」


 麗華が唱えると、周囲の温度が一気に低下する。そして、それはM1を包み込んだ。黒光りする鋼鉄の車体が一気に冷やされる。徐々に薄い霜が降り、それが固まりだす。M1のハッチが半分開く。中から脱出しようとした男が、瞬時に凍り付いた。麗華は背後を振り返り、銃を構える男たちに冷たいまなざしで告げる。


「もう諦めて投降してください」


男たちは皆、その場に銃を置いた。満足そうな面持ちで麗華は頷くと、視線を正門へと向け呟く。


「タケさん、今いきますからねッ」


*     *     *


 サラフィナに発射された砲弾は、彼女の体に吸い込まれる。が、当たる瞬間に、体の動きがぶれる。いや、実際には体を斜めに傾けた。すると――わずかに角度をずらされた砲弾はそのまま門へ。サラフィナの後方では、崩れかけていた門が完全に吹き飛んだ。

 その一部始終を見ていた、ザイアークの兵から歓声があがる。

 一方で、迷彩服の男たちは蔦に絡め取られながら、目を見開く。が、次第に蔦の締め付けが強くなり、ボトボトと銃を落としていった。

 サラフィナは無表情で、M1へと歩いて行く。次々に砲弾は発射されるが、全てかわしていく。そうしている内に、彼女はM1の上部に飛び乗った。そこのハッチに手を当てると詠唱をはじめる。


下級電光線魔法サンダーオプト!」


 朝焼けに染まる大空に、雷雲が立ちのぼる。それはM1の上空に達する瞬間――サラフィナはM1から飛び降りた。着地とほぼ同時に、荒れ狂う稲妻がM1へと襲いかかった。バチバチとM1の電子部品を焼き尽くす。稲妻に覆い尽くされた鉄の塊から、煙が立ちのぼる。

 サラフィナはこれで終わったとでも言うように、体を翻すと市壁に沿うように消えていった。



*     *     *


「ハリー! 今だぁ!」


 俺が吹き飛ばされ、無様に転んでいる間に、迷彩服の隊長が叫んだ。

 ハッと、気を取り戻した宗っちが、俺に手を向け詠唱する。


「我、時空の女神シンデレーラに願う、かの者へ星々の裁きを――下級隕石魔法ミーティア!」


 俺が立ち上がろうと手を着くと、上空は真っ赤に染まった。空から灼熱に燃えさかる隕石がたくさん降ってくる。

 俺は、とっさに縮地を用いてその場から離れた。背後に次々と落下する隕石。俺は冷や汗をかきながら、宗っちとの距離を縮めようとするが――。

 ドォーン、ドォーン、ドォーン、ドォーン、ドォーン、ドォーン。ドォーンと、またしてもM1からの砲撃が始まる。

 今度は、直撃は避けたい。そう思った俺は、宗っちからM1にターゲットを変えた。よし、まずは一番近いやつから――。

 一台目。下級瞬間移動魔法テレプスでM1の上部に移動する。そのまま対象に下級飛行魔法をかけ浮き上がらせる。三メートルは浮き上がった所で、片側に荷重をかけひっくり返す。そのまま魔法を解除して、地上へ落下させた。

 よし、次だな。二台目にまた瞬間移動で飛び乗ると、今度は重力操作魔法グラビティをたたき込む。ズンッ、と嫌な音の後、M1の大砲部分まで地面にめり込んだ。

 よし、ラスト――。その間、宗っちは俺が飛び乗るM1に魔法を行使し続ける。

ひっくり返ったM1には、電撃が降り注ぎ。地面にめり込んだM1には、氷の刃が突き刺さる。あらら、味方に攻撃して何してんだか……。


「くそっ、くそぉぉー」


 宗っちの怨念めいた叫びがこだまする。


 そして、三台目のM1に飛び移った時に、宗っちが放った魔法が着弾する。轟々と燃えさかる戦車。それを見て勝利を確信したのか宗っちが歓喜の声をあげる。


「やったぞ!」


 迷彩服の男たちも「おぉぉ!」とか言っちゃってるし。俺はその頃、光学迷彩を使って姿を消した状態で、宗っちの隣にいた。


 で、つんつん。と、肩を突っついてみた。


「んっ?」


 仲間の誰かから、肩をたたかれたと思ったようだ。宗っちは晴れやかな面持ちを向けるが……俺が光学迷彩を解くと――。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」


 化け物でも見たような表情で走り出した。俺もそれを追う。走りながら、結束魔法で宗っちを捕まえる。足に黒い蛇が絡まり、宗っちは転んだ。


 ぷっ、笑い所を弁えてるね。さすがナンバーワン。


 他の迷彩服の男たちにも、結束魔法を行使済みだ。よし。これで終わったな。

 漆黒の蛇に拘束された宗っちの元へ、俺は駆け寄った。


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