第93話、ザイアーク王都、混乱に包み込まれる。
暁天の星々輝くころ、ザイアーク王都を取り囲む集団があった。東西門にそれぞれ一小隊、北の正門に三小隊が姿をあらわす。
各部隊の無線に通信が入る。
「こちらワシントン、準備はいいか」
「ポイント一、配置完了」
「ポイント二、準備はできてるぜ」
「ポイント三、各員配置は完了した」
「ポイント四、いつでもいいぜ」
「ポイント五、早いとこおっぱじめようぜ」
各小隊からの通信を受信した、遠方に待機する指揮官から指示が飛ぶ。
「よぉし、照明弾発射!」
五方向から一斉に、ダンッ、と聞き慣れない発射音が轟く。
それは、高度五百メートルに到達すると、ヒュゥーと音を鳴らしながら落下する。地上付近に近づいたそれは、百万カンデラの明かるさを発生させる。一カンデラは蝋燭一本分。実に百万本の明るさで王都の各門を浮かび上がらせた
「目標捕らえた。M1撃てぇ!」
ドォーン、ドォーン、この異世界では聞くことのない、爆発音が鳴り響く。と、ほぼ時間を置かずに東西の各門と、正門の三門が爆炎とともに吹き飛んだ。
各員の無線に受信が入る。
「こちらデルタ、ゲートの開放を確認。行動を開始する」
まだ薄暗い王都は騒然となった。驚いて家屋から飛び出す者、悲鳴を上げる者。街の守備を担当する警備兵もそれは同じ。
「なんだッ、今の音は――」
「分かりません――」
「た、大変です! も、門が、門が……」
詰め所で、当直に当たっていた兵が慌てて上司に報告する。上司は部下の言葉に誘導され門を見ると――。煌々と照らし出された門は跡形もなく吹き飛んでいた。いや、正確には、攻城筒を何度も打ち付けたように、内側にひしゃげていた。門を浮かび上がらせていた明かりはすぐに消える。
「――なっ」
そうしている間にも、野次馬がぞろぞろと、門へと押し寄せる。人だかりの中から、一人の男が声を荒らげる。
「民主化バンザーイ! 封建制度をぶち壊せぇ!」
まるで、そうなる事を予期していたかのように、民衆が叫び出す。
「王族と貴族の横暴を許すな!」
「俺たちは、俺たちの国を作るぞぉ!」
中には、何も知らされていない都民もいる。が、長い冬で
「入門料を廃止しろ!」
「税率をゼロにしろ!」
「横暴な貴族と王族は処刑しろ!
短時間のうちに民衆の叫びは、王都中に拡散されていく。大勢の人の圧力に、当直の兵だけでは抑えきれなくなっていった。
* * *
「へ、陛下! 大変です!」
ザイアーク王の寝室に、近衛兵が飛び込んでくる。
ザイアーク王はハッ、とした表情で瞳を開ける。室内はまだ暗い。部屋に備えられている蝋燭から、何とか室内の様子が窺えるだけだ。何が起きたのかと、布団の上に掛けていたガウンをまとうと、入室してきた近衛兵に問う。
「何だ、騒々しい。詳細次第では――」
近衛の表情は緊張に彩られている。息を切らし、顔面には大粒の汗まである。ただ事でないのは見て分かる。だが、些事であれば、許さない。といった心持ちで言葉を発するが――それは途中で遮られる。
「一大事です。王都の全門が破壊されましてございます。なお、それに乗じて――都民が蜂起しました!」
王は自分の耳を疑った。侵略国家が隣にあった事で、王都の門は強固にできている。籠城戦を決め込んでも、一日は余裕で持ちこたえられる。それが、わずかの間に破壊された。しかも、その隙に、民衆が暴動を起こしたとあればなおさらだ。
王の表情も焦りの色に変わる。急いでテラスへ走り、眼下の都市を見渡す。
果たして、そこには近衛が報告した通りの光景が広がっていた。
思わず、立ちくらみでよろけるが、寸での所で取っ手につかまり耐え忍ぶ。
「すぐに全軍をだせ! 暴動など許してはならん。それと、各門はすぐに修理に当たらせろ。職人が寝ていようが構わん。叩き起こしてでもやらせろ! 後は――トライエンド侯爵へ遣いをだせ! 今すぐにだ! わかったな!」
血相を変えた王の命を受けて、近衛兵は走り去って行く。その後ろ姿を見送りながら、王はサラムンド帝国で起きた革命を思い出していた。先日、タケから工作員の話を聞いて、まさかと思った。この国は、帝国なんかよりも、ずっと住みやすい国のはず。民から暴動を起こされる謂われはない。それが、どうして――、と。
* * *
「こちらデルタ、民衆の扇動に成功。これよりターゲットの補足に入る」
「デルタ、了解。こちらは門に集まった兵の
「こちらデルタ、了解。ハリーの準備をしておいてくれ。どうぞ」
「ハリーなら既に正門前に待機。安心しろッ」
「デルタ、了解!」
あらかじめ仕込んでおいた都民は、思った以上によく働いてくれている。第一声を自分が発した事で、作戦通りにそれは波及していった。ここまではサラムンドの時と同じ。後は、邪魔なヤツを仕留めればミッションコンプリートだ。
デルタはほくそ笑む。全身黒づくめの格好で、銃を肩に掛け、目的の場所へと駆けだした。目指すは、侯爵家だ。
街は、大勢の大衆と兵士が押し問答を行っている。その隙を縫うようにデルタは走った。狂ったように歓喜する人々の叫びが心地良い。
その背後から、よくやく朝日が昇ろうとしていた。
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