第90話、戦いの幕開け。

「なるほど……では、タケ殿も何が起きたのかは見ていないと?」


 俺はザイアーク国王から呼び出された。白昼堂々の大捕物のあげくに、酒場の爆破だ。さすがに王様も見過ごしてはくれなかった。説明に来たのは俺だけ。俺の向かいには、陛下と第一王子が座っている。厳めしい顔の陛下とは対象に、第一王子は笑ってる。

 どうせ、またやらかしたのかとか思っているんだろうな。

 ったく、やってくれるぜ。現場は街中ということもあり、大勢の野次馬が集まった。現場検証で数十人の兵士が使わされたが、原因は不明。もっとも、俺にはわかっている。

 意識を失わせた他の工作員の衣服の中から、手榴弾が見つかってるからだ。恐らく、自決用に持たされたか、集団に囲まれた際に突破口を開くためのものだろう。

で、まんまと、自爆されてしまったというわけだ。

 幸いだったのは、教会の二人に意識がなかったことか。これで、教会で自爆されでもしたら、多数の死傷者が出ただろう。あそこは、孤児院も併設しているからな。

 騒ぎが大きくなりすぎたために、陛下直々の聞き取りとなった。


「ああ。俺は教会にいたからな。工作員の仲間に魔法使いもいるかも知れねぇ。警備を厳にした方がいいんじゃないのか? それよりも、他の二人は目を覚ましたのか?」


 当初の予定通り、残りの二人は王城の牢へ移送された。

 そういや、爆発の騒ぎで、やつらの写真うつしてねぇや。くそっ、失敗した。

 今は、豚(第四王子)が拷問してるんだっけか、大丈夫なのかねぇ。殺してねぇだろうな。気が短そうだからなぁ。せめて殺すなら、ヤツらの写真を撮ってからにしてほしいな。


「フッ、言われんでも街に私服の兵を放っておるわ。それでだ、残りの二名なのだが……」


 えっ、なに、その間は。おいおい、まさかだろ?


「何か喋りましたか?」


 おいおい、陛下、なに喉に餅でもつっかえたような顔してんだよ。


「うむ、カサノーバのヤツがの……」


「豚がなんだって?」


 随分じらすなぁ、まさか――。


「不敬罪で首を刎ねおった」


 うはっ。ダメじゃねぇか! だから言わんこっちゃねぇ。どうせ、「豚、触るな!」とか言われて切れたんだろうな。クソッ、これで写真もボツか。さすがに首ちょん画像なんてアップできねぇぞ。人権問題に発展しそうじゃねぇか。


 俺を呼び出したのは、二人が死んで、情報を得られなかったからか。第一王子の表情が愉快そうだった理由はこれか。いい性格してやがる。


 何も進展のないまま、俺は王城を後にした。

 結局、ヤツらが何の目的で、いや違うな。目的は民主化の先導だ。知りたかったのは、ヤツらの計画がどこまで進んでいるのかだ。豚のおかげで台無しだけどな。

 騒ぎが大きくならなければ、口を割らせて、LIVEで放映したものを。しくったぜ。にしても、なぜ、あの場に三人固まってたんだ?

 工作なら別々の場所で――ん、もしかして、俺の暗殺?

 いや、それはあり得ないだろ。俺に魔法を授けたのはWooTobeだぜ。当然、結界を使えることも知ってる。そんな相手を暗殺。んん、ないな。よほど、侮ってなければあり得ない話だ。だとすると、なんだ。まさか、影から様子をうかがってる別働隊がいたとか……。分からねぇ。取りあえず、振り出しだな。



*     *     *


「はぁ、はぁ、はぁ」


 一人の浮浪者が、ザイアーク王都を駆ける。

 何かから逃げている様に見える浮浪者は、周囲をキョロキョロ見回す。誰も居ないことを視認すると、スラム街へと入っていく。いかにも挙動不審なその男は、一軒の廃屋へと飛び込んだ。ボロの外套を脱ぎ捨てると、中から真新しい皮製のジャケットが顔を覗かせる。内ポケットから黒い箱を取り出すと、突起を押した。ガガガガガ、っと、この世界ではなじみのない音が流れる。


「こちらデルタ、ターキーは死亡、ダラス、ロッキーは拘束された。どうぞ」


「詳細了解、敵の戦力は、どうぞ」


「敵は空を飛んだ。M1では追尾不可能と思われる。どうぞ」


「追尾不可、了解。弱点は見つかったか、どうぞ」


「ソロでは無理だ。結界がある。だが、女連れだ。女を狙えば――どうぞ」


「了解した。こちらも行動を開始する。ゲートが開いたら、作戦に移れ。どーぞ」


「了解」


 男は箱を懐に仕舞うと、バッグからアルミの缶を取り出し、プルタブをめくる。


「ぷはぁ、生き返ったぜ。やっぱコーヒーはこれだな」


 満足そうな面持ちを浮かべると、バッグに入っている銃を組み立てはじめる。この世界の人間には用途不明だが、見る者がみれば、口径5.56ミリ、装弾数30発のM16だと気づいただろう。素早く組み立てると、誰も居ない場所に銃口を向け呟く。


「ターキーの仇は俺が討つ」


 男は、タケの一部始終を見ていた。そして思う。アレは自分の手には負えない。だが、ヤツが入っていった屋敷には弱点があると。それをうまく使って、タケを始末しようと。


 斯くして、戦いの幕が開かれようとしていた。

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