第89話、タケ、狙撃される。
残雪の跡からは、新芽が顔をだす今日この頃。ここザイアーク王国にも春がやってきた。
交通が回復した王都の商人たちも、忙しそうに馬車を走らせている。
時間稼ぎでWooTobeに圧力をかけた俺は、ザイアーク国王へ謁見を申し込んだ。
次に工作員がきたとしても、俺一人では見つける事は難しいからな。
何といってもここは30万人都市。タイミング良く見つけられるとは思えねぇ。
春になれば、人の往来も増えるからなおさらだね。
そこで、ザイアーク国王の諜報員を使い、民主主義のウワサを広めているヤツがいたら、知らせてくれるように頼んだってわけ。
この国の兵に捕まえてもらうって手もあるが、剣VS銃じゃなぁ。
また逃げられそうなんで、手出しは無用って事で話は通した。
で、さっそく諜報員から、侯爵家に知らせが入った。
「それじゃ、麗華さん、行ってくるよ。ここに来るとは思えないけど、結界はかけておいてね」
「はい、タケさんも気を付けて。ムチャしちゃダメですよ」
いやぁ、新婚夫婦みたいじゃね? ちゃんと鍵を掛けるんだよハニーなんてな。
浮ついてらんないな。おおぉし、今日こそ引っ捕らえてやる!
諜報員に案内され、目的の場所に着く。あたかもそこは、前にヤツを見かけた酒場だった。あいつら情報をばらまくのに、酒場しか知らねぇのかよ。
俺も知らねぇけど。
店に入る前に、
何食わぬ顔で中に入ると、夢中になって工作してやがった。もっと周りに注意しろよな。酒場の出口には、2名の諜報員が立ちふさがる。
おいこら、余計なことすんなって言ったじゃん。人質にされたらどうすんだよ。
って、あらら。言わんこっちゃねぇ。気づかれちまった。
「あぁん? おまえ、なにもんだ?」
睨み利かせてもムダ、ムダ。結界あると、心にも余裕が生まれるねぇ。てか、ウソっ、人に3発も撃ち込んだクセに忘れてんのかよ。あっ、2発か。1発はかすっただけだったな。
「えっと、あなたに撃ち殺された幽霊です」
「チッ」
何がチッ、だよ。せっかくかわいく決めたのに。
唾、吐いちゃうぜッ。ぺっぺっ。
「――舐めんなッ」
俺の唾液を顔面にうけて、いきり立つ。そのまま懐に手を――。
「そんなことさせねぇよ。
男の足元から、漆黒の蛇があらわれ対象者を拘束する。ほいっ、一丁あがりってね。それにしても、呆気ねぇ。皮の外套から黒光りする銃が床に落ちる。
「コイツは俺がもらっとくぜ」
こんなもんここの陛下に渡ったら、あとが面倒だからな。毎回、登城するのに結界張るとか罰ゲームかよ!
「クソッ、ざけんなッ」
ふっ、いくら暴れたってムダだって。おそらく銃で撃ち込んでも切れねぇよ。上半身でとぐろを巻かれ、いい気味だぜ。さて、コイツを王城へ連れてってっと。確かあの豚が拷問するんだっけか? できんのかねぇ。
死ぬ前にちゃんと写真撮っておかねぇとな。ネットで晒さねぇと。
拘束された男を引っ立てようと、諜報員が入ってくる。男を挟み込むようにして、諜報員が外に出たときにそれはおきた。パァーン、パァーン。
「――ッ」
どこからともなく発射された銃弾は、二人の諜報員に当たる。2人は頭を打ち抜かれて即死だった。っておい。思わず壁に隠れちゃったじゃねぇか! だせぇぇ。
俺の威厳を返せ! おっと、こんなことしている場合じゃねぇな。
ここから見渡せる場所っていうと、ちょうどいい角度に教会があった。
お約束だな、おい! ひと目に付く所で使いたくはなかったが、仕方ねぇ。
「
俺は低空飛行で店から飛び出すと、一気に上昇する。おっと、いたっ! 鐘をならす踊り場に身を伏せてやがった。飛行する俺をみて、目を白黒させてやがる。
正気を取り戻したのか、銃を構えると、弾丸を2発撃ち込んでくる。おっと、飛行したままだといい的ってか。だが、結界に阻まれた弾丸は後方へ。
「ウソだろッ」
「ウソじゃねぇよ。ここが魔法の世界だって知ってんだろ」
「チッ」
ったく舌打ち好きだねぇおたくら。男はとっさに逃げようと、踊り場の階段へ走る。下で待ってもいいが、逃げられたら困るな。俺は男目掛けて一気に降下する。
「どろっぷきーっく!」
加速度をつけ体重の乗ったキックが決まる。男は――あらら。一気に1階まで落ちやがった。まぁいっか。気絶しているのか死んでるのか知らんけど、ピクリとも動かない男を魔法で拘束ようと近づくと――。
「おっと、動くなっ、妙なマネすんじゃねぇぞ。一歩でも動いたら、この女を殺す」
男が落ちた礼拝堂の隣にあるドアが開き、中からもう一人の男が現れる。男の前には若いシスターが立っていて、頭に銃を突きつけられていた。チッ。抜かった。
3人組だって分かってたのに――。俺は背中を向けて、黙って両手をあげる。
あっ、ついクセで両手あげちゃった。
「よし、そのまま、腕は頭の後ろだ!」
取りあえず言うとおりにするか。俺は要求通りに、腕を頭の後ろで組んだ。
「よぉし。そのまま地面に伏せろ!」
おぅおぅ、刑事ものの三文芝居みてぇだな。おっと、ゆっくり膝から着いてっと。この体勢だとしゃがみ難いな。それにしてもどうするか。膝を着きながら、妙な考えが脳内に浮かんだ。
結界は、距離が離れると使えねぇ……あれ、あれあれ、本当にそうか?
これまで、麗華さんが慣れるまでは、俺が結界を張ってた。その時は、麗華さんに触れてやったけど……。もしかして。いやいや、ミスの許されないこの場面でそれはねぇだろうよ。でもなぁ、やってみる価値はあるか。
「何グズグズしてやがる。さっさとしろ!」
へいへい。指先に集中して、聞こえないように呟く「
「ムッ、お、おいっ動くなッ!」
地に伏せる勢いのまま、地面を転がる。よし! シスターに結界は掛かってる。
俺は、転がった勢いのまま、すかさず立ち上がる。
パァーン、男がシスターの頭に発砲する。が、結界に阻まれ弾丸はそれた。男が呆気に取られている間に、俺は魔法を詠唱した。
「
ピンクの靄が、男とシスターを包み込む。男は糸が切れたように、力無く倒れた。へぇ。結界VS睡眠では結界の勝ちか……。
「よし! 終了!」
他にも仲間がいる可能性もあるけど、この3人が先だ。意識を失っている男2人を念入りに魔法で拘束すると、俺は教会からでた。もう1人ここに運び込むか。
シスターは何がおきたのか分からず棒立ちだ。そりゃ、棒を頭に当てられて、脅されてもね。意味不明だよな。銃なんて知らないんだから。
教会から出て、酒場に近づくと――轟音とともに、酒場が吹き飛んだ。
「えっ――」
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