第83話、タケ、創造魔法を操る。
サラフィナの猛特訓から数日たった。
外は相変わらずの大雪だ。どんだけ雪降るんだ。北海道かよ。
そんな訳で、屋敷からでることもなく、暇な時間をこれまで撮りためた動画の編集にあてている。ネットにつながらない現在、やる意味すら感じられないけどね。
「んーネットねぇ。WoTobeが俺を飛ばして、ネットも使えたってことは、やりようによっては、できるのか?」
一人、部屋でぐちる。
だいたい、どうやって?
そんな事ができたら、異世界転移だってできちゃいそうだけど。
少なくとも、日本からこっちへ飛ばせるってことは、マナはあるんだろうし。
こっちからマナを引っ張って、発動させてる。それはねぇな。
先日の特訓で、魔法の多様性について学んだ。
「ようするに、詠唱ってのは、スイッチボタンみたいなものだ。で、その中の回路の役割がイメージってわけだ。そのイメージの方向性さえきちんとできれば、正しく魔法は発動する」
重要なのは回路にあたるイメージ力。まだ試してはいないけど、飛行魔法はただ浮くだけの魔法って認識だと、それだけで終わる。でも、飛行機のように、方向性をもたせれば――移動に使えるかもしれない。この前、ここの庭を焼いた魔法も、温度を下げたイメージだったら、きれいに雪を溶かせたかもしれない。
「んー、電波、ネット回線、Wi-Fiねぇ。
あっ、でもアイテムボックスを覚えたときに、
「どうだ!」
うっぷ。部屋閉め切ってんのに強風が吹いてる。なんだ、これ。
その時、バンッと、勢いよくドアが開いた。
「タケ様、何事ですか!」
あぁ、やっぱりな。血相をかえてサラフィナが飛び込んできたわ。部屋中マナが吹き荒れてれば当然か。
「うーん、魔法の制御は大体できたから、ちょっと空間魔法を――」
あらら、またジト目かよ。流し目は冷淡じゃダメなんだぜ。そんなので惚れるのはドエスだけだからな!
「
まぁ、ここは正直に言った方がいいかな。でもなぁ、サラフィナ、ネットとか良く思ってなさそうだしな。んん、よく思ってないのはWooTobeの景品交換か。ならいけるかな?
「あ、うん。このパソコンさ、ネットにつながってないから不便なんだよ。で、ネットにつながる魔法を作っちゃおうかなぁって」
あぁぁぁぁぁ、体から冷気が噴出してるよ。返答を間違ったか。
「そ・れ・で・タケ様。ネットにつないで何をしようとしたんです?」
おぉぉぉぉぉぉぉー。こぇーよ。完全に目が座ってるよ。これ返答しだいでは、パソコンブレーカーとかありえるんじゃね? ここは間違えられない局面だな。
「別にポイントで何かしようってわけじゃないんだよ。そもそも、WooTobeから接続が切られた段階で、削除されてると思うから」
「では、何につかうのです?」
何にって、決まってんじゃん。あんな動画や、こんな動画で自慰するため。なんて言えないわな。
「うん、俺がここに存在した証を向こうに送りたいんだ。親にも何も言わずに消えちゃったようなものだからね。でも、俺が動画をアップさえできれば、無事ですよ。元気ですよって知らせることは出きるじゃん。麗華さんも含めてさ」
これでどうだ!
これでダメなら――サラフィナの目を盗んでやるしかねぇ。
おっ、肩の力も冷気も消えた。ってことは説得成功か。
「ふぅ。仕方ありませんね。ご両親を安心させたいって理由なら。その代わり、決して楽に中級魔法とか、上級魔法を覚えようとしないでくださいね。わかりましたか!」
ギクッ。まさか、すでに中級魔法を覚えちゃってます。なんて言えないよな。あぁ。口が裂けても言っちゃだめだ。しかも、4つも使えるなんて言ったら……おぉぉぉ考えるだけで鳥肌が――。
うん。よほどのピンチじゃない限り封印決定だな。
「うん。約束する」
おっ、助かった。でも、サラフィナが首肯したってかわいくないからね。あれだけの威圧を放っておいて。そんな余裕、こっちにはないし。
「それで詠唱はどんなものを使ったんです?」
「ほぇ? え・い・し・ょ・う」
「はぁ、呆れますね。いいですか、先日も言いましたが、魔法を発動させるには詠唱は必須です。イメージを練りにねって、それを形にするのが詠唱ですから」
ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
すっかり忘れてたぁぁぁぁぁ。イメージしか組み込んでなかったわ。
めっちゃがっかりしてる。落ちこぼれの教え子に、テスト出したら赤点以下だったような。落胆ってこういう表情なんだな。どっかで見た顔だと思ったら、あれだ、会社やめた後の母親が俺に向けた顔だ。
はぁ、ボタンを押さずにエンジンがかかるわけねぇ。だからかぁ。集められたマナが部屋の中で行き場を失って暴れたのは――。失敗した。くそっ。あれ、でも、新規で魔法を作るなら、魔法名とか詠唱ってどうすんだ?
「サラフィナさん――」
「なんでさん付けなんですか? タケさん」
あぁ、ついに様から降格かぁ?
「俺の魔法に
あっ、珍しい。眉間にシワよってる。やっぱ齢300歳が表情筋にでてんのか?
「ええと、この言葉はタケ様に使いたくないのですけど……」
おっ、なんだろう。これ、どんな展開、そんなもん自分で考えろかな、それとも300年早いわ。とかかな。ちょっとドキドキしてきた。
「なんでしょう。サラフィナさん」
あっ、なんだか悔しそう。顔の表情筋にシワがってもういいか、それは。
「エルフに
おおおおぉぉぉ、サラフィナに勝った。苦節4カ月。初めて勝てた。ふふ、これからはタケ様とお呼び。
「タケ様、何か言いたそうですね」
うっ。感づかれた。
「いえ、何にも。それだとどうなんだろ。好きな言葉でもいいのかな?」
「魔法を発動させる言葉は、その作用に近しいものでなければダメだと思います。回復させるのに解毒と詠唱した場合、イメージが固まっていても恐らく発動しないのと同じですね。試したことはありませんが……」
試したことがないんかい。まぁ、普通はむやみにマナの暴走を引き起こすようなマネはしないよな。回線をつなぐ。接続する。日本語じゃダメかな、接続って英語でなんていうんだっけ。えっと、デバイス、なんか違うような。あっ、コネクションだ。はは、高校で英語勉強していてよかった。
中学で習う単語です。
「わかった。今からやってみるから見ててよ。暴走はしないと思うけどね。じゃあ、行くよ――
イメージは実家のIP電話回線。ノートパソコンからLANケーブルを伸ばす感じで、光通信の端子へつっこむ! おっ、白い靄がノートパソコンを囲んだ。と思ったら、細い糸が形成されて――空高く飛んでいった。
部屋の中にマナが停滞している感じはない。
初の
「タケ様、どうですか?」
サラフィナも一度で成功させるとは予想外だったろうな。あ、二度目だ。
「うん。ちょっとネットに繋いでみる」
俺はノートパソコンの左下にある接続ツールをひらいてみる。
「おっ、未接続だったのに、接続中になってる! 成功した! 成功したよ。やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
大はしゃぎして、その勢いでサラフィナに抱きつき、俺は沈黙した。
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