第82話、タケ、猛特訓する。
先日、王都から逃げ出した3人が、今日も来るとは思えない。だが、万一ということもある。俺たち4人はヤツらを見失った市壁の外に来ていた。
いつもと少し違うことといえば、アロマが居ることくらいか。いつも一人で留守番じゃかわいそうだし、今日の目的は討伐じゃない。様子見がてら、魔法を制御できるようになることが狙いだ。
「ここでヤツらを見失ったんだ」
国王へは、今日の午後に報告にいくと侯爵が言ってた。
どうせ市壁の修理に時間がかかる。面倒なヤツが来ないうちに、やっちまおう。
「よくこんなもの作れましたわね」
「魔法を使った痕跡はないようですが……」
「タケさん、この跡はもしや――」
やっぱ文明の栄えている地球から来たひとにはわかるか。
「うん、多分、小型の重機みたいなもので掘り進めたんだとおもう」
スキーの跡が残ってた場所まで、みんなを案内した。よく見ると、地面はガッチリと踏み固められていた。昨日は、そこまで余裕がなかったから、ただのスキーの跡だなとしか考えなかった。だが、そこは俺が地面をかかとで踏みつけても凹まないほど固められていた。
ただのスキーだったらこうはいかない。
「もしかして、その重機というのは、タケ様の自動車と同じなのでしょうか?」
頭の回転が速くて助かるねぇ。アロマあたりだとこうはいかない。
「俺のイムニーは雪原も走れるけど、積雪が40センチくらいが限界なんだ。対して、重機っていうのは、足場が悪くても走ることができる。もっとも、重機の重さに耐えられる位じゃないとダメだけどね」
はぁ、銃とか靴跡でほぼ地球の人ってのは確定だったけど、重機まで出てきたんじゃWooTobeの関与も確定か。地球じゃない、異次元の存在、なんてものがいれば、別だが、俺と麗華さんがいるんだ。アイツらで確定だな。
「それにしても、これはどこまで続いているのでしょう?」
いやぁ、麗華さんの小首をかしげる姿、めっちゃかわいいわぁ。パサッって揺れる髪もチャーミングだ。声に出しては言えないけどね。
「この方角だと、サラムンド帝国ですわね」
あぁ、知ってる。民主化の国に行ってみるかって考えたときに、場所まで調べたからな。森を突っ切る直線距離だと600キロ。この迂回コースだと1000キロはあるはずだ。さすがに、こんなトンネルが1000キロも続いているとは思いたくないけどな。そんなマネができるのは大企業か、軍隊くらいだ。大企業っていえば、WooTobeの親会社のWoogleも世界最大の企業か……。
ったく、嫌な予感しかしねぇ。
「タケ様、もしや、例の民主化も迷い人の仕業だと――」
さっすが、鋭いねぇ。ヤツらがこの王都でやってたのは工作活動だろう。サラムンド帝国の次はザイアークってか、ふざけやがって。
「サラフィナの考えてる通りだよ。酒場でヤツらが話してたのは、サラムンド帝国が民主化されて、どれだけ良いかって話しだったからね」
「それじゃ、その方々の狙いは――」
「あぁ、そうだよ麗華さん。間違いなくここ、ザイアーク王国の民主化だ」
他国の人間を勧誘するだけなら、こんな時期じゃなくてもいいはずだ。となれば、民主化がどれだけ素晴らしいかを、王都の都民に吹き込んでたわけだ。何のために――そんなもん決まってる。
ああ、サラフィナの魔力が一瞬ぶわって膨らんだぞ。かなりキレてんなぁ。麗華さん、手で口を覆ったらもったいないよ。薄いピンクの唇もかわいいからね。アロマ、そんな絶望的な顔しなくても大丈夫だって。俺たちが付いてるから。
「なぁに、大丈夫、心配しなさんな。俺たちが付いてるから」
サラフィナも、麗華さんも力強く首肯しちゃって。麗華さんはもっと頑張らないとねっ。無理しないていどに。
「分かりましたわ。タケさんたちにお任せしますわ」
* * *
「でだ、俺の魔法の欠点は――」
「制御不足、自信過剰、認識力の欠如ですね」
「えっ、そんなに?」
「はい。魔法をコントロールする上で必要なのは、イメージです。ただ闇雲に詠唱すれば、先日の侯爵邸のようになります」
「あぁ、あれは、父様カンカンでしたわね」
アイツらと敵対するなら、魔法を強化するしかねぇ。だが、どうすればいいのか今一わからねぇ。で、サラフィナに聞いてみたわけだが――。ボロボロじゃねぇか。確かに魔法を行使するときは、アレのどこに当たるといいなとか、適当に考えて詠唱してたけどさ。
「制御については昨日、何となくだけどわかったよ。
さすがに失敗したら足が吹っ飛んでたからな。あれで一皮むけたって感じだな。
「へぇ、それじゃ、ここでやってみましょうか。
「――えっ」
ブレスも調節できんのかよ。具現化した竜だぞ。あっ、でもそれを操ってんのは
俺だからできるのか? くそっ、ガリ勉ママみたいな目で見やがってサラフィナめ。おぉぉし、やってやろうじゃねぇの。
「どうしました? タケ様、まさかできないと?」
だからその流し目やめろって。おっかねぇ。冷ややかな視線に慣れてねぇんだよ。
「やる! やってやんよ。簡単だ!」
「では、ちゃんとここに具現化させてくださいね」
おぅおぅ、アロマと麗華さんが期待のこもった目で見てるよ「頑張れぇ」とか異性に応援されんの初めてだなぁ。えっと、まずは具現化からね。
「
よしっ。具現化成功!
「ダメです。やり直してください」
えぇぇぇー。ちゃんと具現化したじゃねぇか。何がダメなんだよ。
「えっと、何がダメだったの?」
「今、竜を具現化するときに、竜の大きさを考えましたか? 私はこのトンネル内に具現化するように言いましたよね。なんですこれは」
えっ、そんな事いった? あぁ、ここに具現化しろって言われてるわ。
「こんな大きな竜を作って、市壁から丸見えじゃないですか」
俺たちの目の前に、巨大な竜は顕現した。それは当然、膨大な熱量をもって雪のトンネルを破壊する。雪のトンネルは、炎の勢いで貫かれ、その姿は市壁から丸見えに――。ぐはっ、まさか実態化させる時から制御すんのか。
竜の具現化を解いた俺は、再度、詠唱を開始する。今度は失敗しないように、小さい竜をイメージして。高さ1メートルって所か。いけっ!
「
よし! 今度は成功したっ。
「ダメです。すぐ消してください」
「タケさん、熱いです」
「熱で息が……」
あれっ、これでもダメなの。なんで。ちゃんとミニチュアサイズの竜にできてんじゃん。何がわるいんだ? 麗華さんは後ろ向いて膝を折っちゃうし、アロマなんて苦しそうな表情って、あっち、あっちぃわ。
俺はまたもや失敗した。もしかして、熱量の向きも調整できるのか?
「タケ様、今のは何が悪かったのか分かりましたか?」
「うん、もしかして、熱量に方向性を持たせることもできる――とか?」
おっ、ガリ勉ママが笑った。珍しい。
「では、その通りにお願いします」
それから、何度も繰り返し、炎竜が実体化した時の熱量に、方向性をもたせることに成功した。その後のブレスの調整でもひと苦労あったが、丸一日の訓練でマスターすることができた。
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