第81話、タケ、説明する。
「では、侯爵様はご存じないと」
あの後、執事さんを通して侯爵にアポをいれた。街であった事件の報告をしたが、その返事はいいものではなかった。
「あぁ、貴族が外に出るときも、この時期の靴底は変わらんよ。まして、靴底に模様を施すなんてぜいたくは、王家でもおこなってはいまい。それに、なんだ、その銃というのかね。もし、そんなものがあるのであれば、王城で無法を働いたときに、使われているとは思わないかね?」
あぁ。確かにその通りだと、俺もおもう。あんだけ好き勝手やって、王家のメンツをつぶしたんだ。影から射殺されていても不思議じゃない。それができないから、王家は俺に譲歩したんだからな。くそッ。やっぱりアイツらの仲間か。
「分かりました。それだけ確認できれば十分です」
最近、めっきり顔色がよくなったのに、あぁ、侯爵も大変だな。きっと陛下に何て説明しようとか悩んでそうな顔だな。
「うむ。時に、タケくんはその者たちの心当たりはないのかね?」
だよな。当然、そういうと思ったさ。どうすっかな。侯爵だけなら麗華の事も知ってるから話してもいいかな、と、思うけど。さすがに陛下には内緒だったし。
「侯爵様と話して、確信にいたったといいますか……おそらくは私の同郷の者かと」
あぁぁ、机に突っ伏しちゃったよ。迷い人が他にもたくさんいるなんて、思いたくもないよな。膨大な魔力をもち、一人で国家と対立する集団なんて。悪夢いがいの何ものでもない。
「はぁ、話はわかった。陛下には――市壁が壊れてました。と、報告しておくよ」
その間はなに、口が裂けてもそんな脅威がいるとは言えませんって感じかな。侯爵には悪いけど、アイツらのする事は、俺にも分からないからな。ごめんよ。
侯爵の執務室を退出した俺は、談話室で待っているであろう3人の元へ。
「お待たせ」
あぁ、すっかり紅茶も冷めちゃって、これから離婚調停でもするんですかっ。雰囲気わるっ。無言で座れと催促されてるみたいじゃん。まぁ、座るけどさ。
席につくと、3人の視線を一気に集める。いやぁ、そんなに見つめられても。
「それじゃ、タケ様、説明してくださいませんか」
はぁ、やっぱりこの場を仕切るのは、おまえか。サラフィナ。
エルフが迷い人を保護しているのは知ってるけど、おそらくWooTobe運営が故意的に送り込んだヤツらだろうからな。はぁ、迷い人とはいえないか。
「街でうわさをききました。そいつを追いかけて、やられました。で、逃げられました。以上!」
「ふざけてるんですか! まじめに答えてください」
「そうですよ、タケさん。こっちは心配してるんですから」
あぁ、そうなるよね。サラフィナこわっ。そしてムキになった麗華さんもすてきですね。アロマは、これから何が始まるのか、興味津々って感じね。いつも留守番だからなぁ、情報に飢えてんのね。
「じゃぁ、最初から」
「当たり前です」
当たり前ですじゃねぇよ。いきりやがって。齢300年の婆ぁの癖に。一番ちびっ子の癖に。声には出せないけどね。そんな責め立てられたら、なえるじゃん。
「散歩しに街にでたら、帝国の話が聞こえてきたんだ。それだけなら、特に気にも留めなかったんだけど。会話してたヤツの靴が、変だったんだよ」
「変なのはタケ様の方です。まだごまかして――」
「そんなんじゃねぇよ! ごまかしたりなんかしてない。その靴がそこいらで見かける靴なら、気にしねぇ。だけど、その靴に紐がなかったんだ」
「紐の付いてない靴なら珍しくはありませんわ。私のハイヒールもありませんし」
「あぁ、いや、そうじゃなくて。雪の中を歩く靴って、普通は脱げないように、足首に紐を厳重に巻くでしょ。それがなかったんだ。で、気になったんで、そいつの後を追いかけたら、靴跡が幾何学模様っぽかったんだよ」
「幾何学――なんですの? それ」
「タケさん、それってまさか――」
「麗華様も何か心当たりが?」
やっぱな。麗華さんも気づいたか。当然だな。サラフィナとアロマは知らないんだ。日本の、いや、地球で作られる靴がどんなのだか。そもそも、侯爵との話で分かったんだけど、この世界に幾何学模様なんて言葉はない。
確かに、似たような彫刻の施された建築物はあるけど。珍しい模様だとか、そんな呼び方でしか表現されてない。当然、靴底にそんな模様を刻む意味もしらない。
「幾何学模様ってのは、まるとか、四角、三角とか、線を織りなした模様のことね。彫刻の珍しいものとか言われてる細工って言えばわかるかな?」
「そんなぜいたくな靴があるんですの?」
「タケ様、まさかその方々も――」
はは、アロマはまぁいい。サラフィナも感づいたっぽいな。麗華さんは先の話を待ってるみたいだし。続けるか。
「うん、俺と麗華さんの世界の靴だよ。それで追いかけたんだ。そしたら市壁まで追い込んだというか、誘い込まれたというか、着いた先に、他にも仲間がいて、銃 で撃たれた。いやぁ、いきなり撃ってくるんだもん。参っちゃうよね」
「なんで、同郷かもしれないのに――」
「タケ様、参っちゃうよねじゃありません。それだけの傷をおって」
「銃ってなんなんですの」
うん、麗華さんの言いたい事はわかるよ。こんな異世界でばったり会えば、同郷なら助け合うのが普通だと思うし。だから、そんな驚かないで。まぁ、驚愕の変顔もかわいいけどね。サラフィナとアロマはいいか。
「まず、サラフィナとアロマさんに銃の説明をするね。銃とは、火薬という発火物を用いた飛び道具で、その破壊力は――凄まじいものによっては、一撃で人間の体がバラバラに吹き飛ぶくらいの代物だよ。相手の銃は、弱かったけどね」
あぁ、引かれてるわ。3人とも吹っ飛ぶの辺りからドン引きだわ。
「で、俺もいきなりだったんで
ははっ、みんな呆れた顔しちゃって。かわいいんだから。
「それで、
「そうだよ、サラフィナ」
「なんで、危ないことに行かなくても――」
「麗華さん、大丈夫だって。最初は油断してたからやられたけど、相手が銃を持っているって分かれば、対策は取れるから。実際に、その後は
結界と光学迷彩を使って負けたらさすがにヤバいけど、銃を使ったって事は、相手は魔法を覚えていないはず。なら行ける。
「続きを話すね。追いかけたら市壁にたどり着いたんだけど、壁に穴が空いててさ、外にトンネルが掘ってあって、逃げられちゃった」
「逃げられちゃったって、逃がしちゃっていいんですよ、危ないですから。はるばる異世界まで来たっていうのに、そんな悪い事してる人たちです。追った先に罠だってあったかもしれないんですよ」
「うん、ごめん。麗華さん。俺も過信しすぎてた。自惚れてたと思った。反省してる。だから、そんな顔しないで」
泣き出しそうな麗華さんに、俺のハンカチを――って、ハンカチ血まみれじゃん。ダメだこりゃ。
「はぁ、話は分かりました。相手の迷い人たちにも何か、事情はあるとは思いますが、私たちエルフは犯罪者を匿うつもりはありません。見ず知らずの人に、そのようなまねをしでかすのであれば――容赦はしません」
うーん、容赦はしないと言っても、エルフの総力とか知らないけどさ、逆にやられちゃったりしないのかな。相手がWooTobe運営で、しかも武器まで持っている外国人ってことは、最悪、マシンガンとか戦車もあったりしてな。まさかね。
「うん、その時はよろしく。俺も敵対するなら――今度は容赦しねぇ」
「何か物騒なお話になってきましたわね」
「はい! そうなったら私も頑張りますね。ちょっと怖いけど」
やっぱり親子だねぇ。侯爵と同じ顔してるよ。アロマ。
麗華さんは、ちょっとって言ったときの表情がめちゃくちゃかわいいね。
にしてもやばいな、サラフィナ。マジ怒ってるし。不遇な扱いを受けている迷い人の味方だからなぁエルフは。この世界ではあり得ない武力をちらつかせるヤツには容赦なさそうだ。俺も気を引き締めて、魔法の強化しねぇとな。
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