第67話タケ、胸騒ぎがする。

「これでよしと。いいですか麗華さんは絶対に喋らないでください。当然、カメラの前に出ることも禁止ですよ。WooTobe運営が動画を見ている事はさっき話しましたが、そこに麗華さんが映り込めば麗華さんをこの世界に転移させた犯人にバレてしまうからね」


 俺はこの部屋にある花瓶立ての上にノートパソコンを設置し、テーブルに備え付けの椅子に座る俺とアロマの2人が映るようにした。

 麗華は先に述べた理由から、サラフィナは自分の顔を晒したくないといった理由からカメラの視界から外れた場所で見学だ。


 生配信をする事は、1時間ほど前に動画のトップページで通達した。

 そこに新しく書き込むと、チャンネル登録してくれている人に知らせが行くシステムになっている。

 1時間前という短い時間にも関わらず、生配信に参加してくれている人数は1万人を超えていた。


「じゃ、始めますよ」


「はい、楽しみですわ」


 隣に腰掛けるアロマに開始を伝え、俺は生配信を実行するボタンをクリックした。


「イェェェェイ! 地球からこの配信を見てくれているみんなぁ元気かぁ! 今日はザイアーク王国の王都にあるトライエンド侯爵邸から生配信だ! 隣に綺麗な女性が映っているが、この人は侯爵様の次女でアロマさんだ。皆も知っていると思うが、亡くなったキグナスの兄貴の彼女、アリシアの実の姉さんってわけだ。アリシアと似た顔立ちで白銀の髪がなんとも美しいぜ。おっと、だからってファンクラブとか勝手に作るなよ! 作るなら俺が第一号だからな」




ゲスト:タケちゃん、サラフィナさんはどうした!


ゲスト:タケちゃんじゃなくてアロマさんを良く写せ!


ゲスト:タケちゃん良かったね。日本じゃ女っ気なかったのに――お姉さんは嬉しいよ


ゲスト:ファンクラブ第一号は俺がもらう!


ゲスト:俺をアロマさんに紹介してくれ!


ゲスト:歳はいくつですか!


タカト:タケくん、先日は取り乱してしまって悪かったね。それで、あれから何か分かったかな?


佐藤:うちの人は無事なんでしょうか? タクシーはあの人が乗っていたものだったんですよね?


ゲスト:誰? 上の人


ゲスト:知らないヤツは黙って見てろ


ゲスト:王都での動画見てないのかよ、日本で行方不明になっていたタクシーが異世界で見つかったんだよ。その親族だろうに


ゲスト:空気よめ




 タクシーを城で見てから一度だけ生配信を行った。その時に、タカトさんとタクシーのドライバーをしている佐藤さんのご家族がチャットにやってきた。

 生存者がいるなら探してみるとは言ったものの――結果は麗華から聞いた通り。

 さすがに今回の生配信でその事実を伝えるのはリスクが大きい。

 チラリと麗華に視線を向けるが、彼女からはパソコンの文字は見えていない。

 俺と視線が合うと、首をかしげながら微笑み返してくれる。


 タカトさんに麗華の無事を伝えたいが、今はできないな。


 俺はレンズに向かって神妙な顔で伝える。


「タクシーの関係者の人には申し訳ないけど――残念ながら乗っていた人の消息までは分かってないんだ。分かったら必ず伝えるからそれまで待っていて欲しい」


 俺の言葉を聞いたアロマとサラフィナが訝しげな面持ちを浮かべる。

 この2人にはWooTobe運営がしでかした事件の一切は話していないから当然だが……。

 俺の隣でアロマがサラフィナに「麗華の事は話さないのかな?」と声をかけているが、リスナーにはこっちの人の言葉は分からないから問題ない。


 その後も、和やかな雰囲気のまま生配信は続き、食事の時間を知らせるメイドの登場で終わりを迎えた。


 食事を終えた俺たちは、麗華と共に談話室へ移動。

 俺が麗華の通訳を買って出る事で、麗華とアロマ、サラフィナの3人が会話を楽しんだ。


 その晩、俺は皆が寝静まった夜半にとある計画を実行にうつす。

 麗華を保護した事がWooTobe運営に知られた場合に備えるのだ。

 麗華からWoogleの件を聞いてから嫌な胸騒ぎがしているからな。

 会社を辞めてからというもの、そういったことに俺は過敏だ。


 だから――。


 万一に備え、現在残っているポイントを全て景品と交換してしまおうと考えたのだ。


 まずは移動の際に必要不可欠なガソリンを10万ポイント分。

 800リッターものガソリンが現れたが、俺が滞在しているのは1階なので、重量物を大量に出しても床が抜ける心配をしなくて済んだ。

 40リッターずつ分けられているガソリンをまとめて収納魔法で異次元空間にしまう。


 残りポイントが450万。


 まずはこまごまとした、寝袋、マイクロSDカード、コンパクトデジカメ、LED懐中電灯を2つずつ交換。今回スパイカメラは交換しなかった。

 使用してみて気づいたが、録画時間が30分を超えると熱くなり、録画が停止し、画質を確認した所、あまり写りが良くなかったためだ。


 まだ残りは440万ちょっとある。


 俺はサラフィナに禁止された、中級魔法に手をだした。


・中級魔法、聖者の行進

・中級魔法、爆沈大地

・中級魔法、虚無誘導

・中級魔法、大地絶叫

・下級魔法、水上遊歩

・下級魔法、常世幻夢

・下級魔法、縮地

・下級魔法、断罪別離


 中級魔法4つ、下級魔法4つ交換した所で眠気に襲われ就寝する。


 翌朝、俺の部屋に顔をだしたサラフィナに、昨晩、俺の部屋から魔力反応があったが何事かと問いただされたが、素知らぬそぶりでごまかした。


 アイテムボックスから物を取り出すだけでも魔力反応はあるからな。


 サラフィナが渋々ながらも深く追求してこなかった事に、俺はホッと胸を撫で下ろす。

 昨日のアロマとの動画は景品を交換した後で、ネットにアップした。

 深夜にネットに投稿したというのに、朝見た時には再生回数が100万回を超え、時間を置かずにウナギ登りにあがっていく。

 このまま何事もなければ、次のポイント振込日には前回の1000万を優に超えることだろう。


 ――それから3日。


 侯爵邸で麗華に言葉を教えながら、俺はまったりと過ごしていた。

 毎朝、動画の総再生数をチェックし、期待に胸を踊らせながら、一抹の不安を抱える。そんな微妙な生活も3日目になると、このまま何事もないかもしれない。


 そう思った矢先に、それは起きた。


 朝、いつものようにパソコンを開き、運営のサイトを見ようとしたのだが――。

 パソコンは普通に起動した。

 バッテリー容量もまだ十分ある。

 なのに――サイトを表示させるウェブブラウザーを開くと【インターネットに接続できません】の文字が……。

 慌ててパソコンの電源を一度切り、再起動するが、やはりネットに繋がらない。

 運営から何かしら反応があるとしても、順を追って、警告メールが届き、それに従わない場合はアカウントが凍結される。

 もしくは、アカウントの削除で済むと高をくくっていた事が甘かった――と、この時、俺は気づいた。

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