第66話タケ、赤面する。
麗華の家庭教師をサラフィナが引き受けてくれたことで、肩の荷を、おろした俺が一安心して紅茶を飲んでいると、アロマがおもむろに口を開く。
「それで聞きにくい事なのですが――タケさんとレイカさんはどのようなご関係なのでしょう、もしかして、お付き合いされていたとか?」
「タケ様が一方的に思いを寄せていたという事もありますよ」
見た目は年頃の女2人集まれば姦しく、色恋の話に移る。
ゆったりとした様子から突拍子もない話題を吐き出され、しかもサラフィナにまで便乗されて、思わず紅茶を吹き出す。
「ぶっ――そ、そんな事あるわけないじゃないですか! そもそも麗華さんとは今日初めて会ったんですから」
吹き出した紅茶は幸いにも咄嗟に押さえた俺の手にかかる。
それを無造作にズボンで拭きながら慌てて説明すると、本当に? といった視線をアロマとサラフィナに向けられる。
突然、俺が吹き出した理由をなんとなく理解した麗華が、俺の返答に同意するように頷くが、まだ二人は納得していないようだ。
仕方がないので、娯楽の伝道師の仕事で知り合っただけで、実際は麗華の兄とも会ったことがないことを伝える。
実際に俺が生配信する所を見ているサラフィナはそれで納得してくれたようだが、生配信を見たことがないアロマには分かりづらかったようだ。
「アリシアから少しだけその様な話を聞いてはいましたが――それはどの様なものなのでしょう?」
俺をサラエルドの街に迎えに来るにあたり、アロマはアリシアから俺の情報を聞いていた。当然、俺が迷い人と呼ばれる異世界人であることを含めて――。
それでも、娯楽を提供する伝道師といった仕事には、全く理解が及ばなかったらしい。
この世界に通信だとかチャット、動画配信なんてものが存在しない以上は仕方のないことだ。俺が日本で生活していて、テレパシーだとか、思念で会話すると言われても理解できないのとそれは変わらない。
だからノートパソコンを開いて実際に見てもらうことにした。
今、4人が囲むテーブルの上には14インチのモニターを搭載したノートパソコンが載っている。
俺はそれをアロマとサラフィナ、麗華に見えるように配置して、俺が以前に撮影した動画を再生していた。動画を見たことのある麗華とサラフィナは特に驚くことなく紅茶を口に運びながら見ているが、動画を初めて見たアロマは瞳を大きく見開き画面に齧り付いていた。
アロマの表情を見ていると、コロコロ変わって面白いくらいだが、それも再生時間が終了することで終わりを迎えた。
興奮冷めやらないといった様子のアロマに、俺は感想を聞いてみる。
兄貴やアリシアも似た反応だったからな、アロマも似たようなものだろう。
「アロマさん、こうやって実際に俺が記録した映像を、俺の世界の人々に見てもらうのが俺の仕事です。この映像を見て気に入ってくれた人は、文字だけで会話ができる場所にも来てくれて、活動を援助してくれる人はお金を振り込んでくれます。俺に初めて援助してくれた人が麗華さんのお兄さんであるタカトさんなんです」
我ながらうまく説明できたと思う。
対してアロマの反応は――。
「ようするにレイカさんのお兄さんが、タケさんのパトロンな訳ですね」
「タカトさんが、俺のパトロン?」
ん?
パトロン?
そうだっけ?
俺からすると、タカトさんはスポンサーのつもりでいたけど、よく考えると――スポンサーは自分の名や活動目的を広めるための広告主になるわけか……。
別にタカトさんの会社の宣伝活動をしていた訳じゃないから、アロマの言っているパトロンが正しい。
パトロンと聞くと夜の蝶を支えるおじさんのイメージしかなかったわ。
「そうですね。その考え方で合っていると思います」
「なるほどね――それでレイカさんとも会ったことがなかったって訳ね」
サラフィナも今の説明に納得したようで言葉を挟む。
「パトロンだなんて、大げさなものではないと思いますよ。だって、タケさんの動画を見ている時のお兄様は本当に楽しそうでしたもの」
麗華が1人だけ否定しているが、当人の身内だからな。
でも、あの時に10万ポイントを投げ銭してもらったから今の俺がある。
あれがなければ、サラフィナの店で門前払いされ、兄貴が殺害された後で途方に暮れていたことだろう。
俺がサラフィナと出会えたのも、治療院でバイトできたのも、この世界で生活できる自信を付けられたのもタカトさんのおかげだ。だからこそ――俺は麗華をこの先も守り、助けていきたいと思う。
だから、俺の言うことは決まっている。
「動画を見てくれた人を楽しませるのが俺の使命ですよ」
俺がそう言うと、麗華はクスクスと声をもらし、屈託のない笑みを披露してくれた。
動画の中で散々格好つけた言葉を言ってきたが、誰も見ていなかったからできた。誰1人、俺の事を気にしない。不審者だと思われても言葉の中身までは理解していなかった筈だから。
でも、さすがに女性3人に囲まれた状態では恥ずかしすぎた。
顔が火照るのを誤魔化せないほどに――。
そんな女性陣を横目にしながら、俺は早くその話題からそれて欲しくてある提案をする。
「せっかくですから生配信の様子でも見てみます?」
まさか、照れ隠しからでた発想が大きな火蓋の幕開けになるなんて――。
俺はこの時、思っていなかった。
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