第53話タケ、尋問される①
その異変は俺からもっとも近い場所にいた、5人の騎士たちを皮切りに徐々にその影響を及ぼす。
騎士たちには通常の3倍の重力がのし掛かり、俺の背後で、ガシャっと音を立ててくずおれたのが見なくても分かった。
騎士の体重が60kgなら180kgの負荷が掛かった状態だ。
これよりももっと負荷をかける事もできるが、さすがに何の罪もない者にそれをする気はない。
さっき俺にしてくれた事のお返しとばかりに放たれた魔法に、玉座に座る王も、周囲に参列していた宰相、近衛兵たちも驚きを隠せない。
「何が起きてるッ!」
「王をお守りしろ!」
謁見の間の両側に控えていた近衛兵が王を守る様に取り囲む。
「王、これは魔法攻撃です。使用したのはおそらく――」
宰相が王へと助言し、俺を指差す。
俺を見る者の目線が変わる。
畏怖の色を含んだ視線を向ける者、歯を食いしばり敵意をむき出しにする者。
焦りと緊張が混ざった空気の中、俺は立ち上がると王へと言い放つ。
「俺の国では王とは国民が選び、善良な政治を行う者は長きに渡り国を統治する事ができるが、逆の場合はすぐに交代させられる。王を選ぶのが国民であることから、王が選んで下さいと頭を下げることがあっても、国民に頭を下げさせるなんて真似はしねぇんだ。あんたが自国民に対しそれを強要するのは構わねぇ。だけど俺はこの国の人間じゃねぇ。何か誤解があるようだが、これ以上ふざけた真似をするなら――それ相応の覚悟をしろよ」
俺が啖呵をきると、王を取り囲む近衛兵が驚きの表情を浮かべ、王と宰相は顔を真っ赤にして震え始める。
だが、さすがは王といった所か。
「ハッハッハ。王である余にそこまでぞんざいな態度を取るか。カサノーバが泣きついてくるのも分かるというもの。だがここは余が納める余の国だ。無礼は許さんと申したらどうする?」
王が試すような視線を向け問いかけてくるが、その答えは決まっている。
「それじゃ、逆にお聞きします。あなたは他国へ赴いたら一々、その国の王族に媚びへつらい頭を下げるんですか? さっき俺にさせたように跪くんですか? あなたが言っているのはそれと同義だ。それを強要すると言うのなら――実力行使してでも拒否するまで」
「詭弁だ! 外交で他国へ赴いても――」
俺の言葉に宰相が過敏に反応するが、俺がジロリと一睨みしただけで言葉を止める。
「まぁまて、宰相よ。烏滸の沙汰ではあるが、この者ほどの力があればそれを容認する必要があるというもの。王である余が国を統治できるのも力あってこそ、力のあるこの者とは親密にしたほうが国益に繋がる。そうは思わんかね宰相」
「王のお心のままに――」
宰相は不承不承とでもいった面持ちながらもそれに頷く。
「さて本筋からそれたが、お主が王子であるカサノーバに対し行ったとされる罪は如何ともし難いが、それに対してはどうするのだ? 仮にもカサノーバも王族である以上は放免とは行かぬが……」
この王様も食えねぇおっさんだぜ、俺がこれ以上実力行使に出ないと判断して弱みにつけ込む気満々じゃねぇか。
だが、残念だったな。そもそも前提とされる暴行自体が虚偽なんだよ。
「暴行を行った事実がないのに「はい私がやりました」なんて認められるわけねぇだろ?」
王は何か考え事をする素振りの後、身近の近衛兵に指示を出す。
「カサノーバをここへ」
それからしばらく待たされた後に、そいつはやって来た。
「父上、お呼びでしょうか」
背後の扉から入ってきて、声を発したのは――よく肥えた豚だった。
というか何が「父上だ!」俺に対しての口調と真逆だな。
声だけ聞いたら誰だかわかんねぇぞ!
第四王子ことトライエンド侯爵家の婿養子のカサノーバは、俺の姿を認めると唇を吊り上げ口を開く。
「貴様、なぜ王の御前で立っておるのだ! 頭が高い、面をさげよ!」
はぁ、またこの展開かよ。
もういいから――
俺の正面にきて文句を言ったカサノーバは、ぐひっと奇妙な声を漏らし床に叩き付けられる。
安心しなよ。ちゃんと5倍に調整しといたから。
俺は優しいからな。
100kgを超す体重の5倍の重力がかかったカサノーバが、息も絶え絶えといった様子で床にへばりつく。
呆気なく死ぬかと思ったが、人間って中々死なねぇ生き物なんだな。
床の上で器用に這いつくばり、何とか呼吸を保てている。
さすがに王も慌てているが、これ自業自得でしょ?
さっき他国の者に対しての礼節を解いたばかりだよ?
「これではカサノーバに問う事もできぬ、済まぬが魔法を解いてやってはくれぬか」
王が焦った声色で、願い出たので効果を2倍にまで引き下げる。
2倍なら膂力のあるものなら立って動ける。カサノーバは不摂生が祟って動けないようだが。
「僕にこんな真似をしてただで済むと思うなよ! 父上、こやつを即刻死刑に!」
うん。反省はしていないみたいだけど、口は開ける余裕ができたみたいだな。
カサノーバが喋れるようになった事で、王からの質疑が再開される。
「カサノーバよ、そちから訴えがあり近衛兵を向かわせたのだが、この者がそちに暴力を振るったのであったな?」
カサノーバは、何を問われているのか思考すると、さも自分が正しいとでも言うように訴え出る。
「はい、父上。間違いございません。僕はこの者に暴力を振るわれ足を負傷したのです。証人は足の治療を行った魔法師と使用人です」
いけしゃあしゃあと嘘を並べ立てるカサノーバを、冷めた眼差しで俺が見ていると、王が更なる証人をこの場に呼んだ。
最初から俺を断罪するつもりだったのだろう。
すぐに中年の魔法師とトライエンド侯爵家で見かけた若いメイドが呼ばれる。
王は玉座からその二人を眺め、よく通る声で問う。
「カサノーバから、そこに控えている者に暴行を加えられたと申し出があったが、それは事実か?」
王からの問いかけに二人は畏まりながら首肯する。
「事実であるなら、どのようにして危害を加えられたのか申してみよ」
俺が本当に豚に危害を加えたのなら、それを説明する事は可能だろう。
だが、二人は言い淀んだ。当然だな、俺はただ座っていただけだ。
勝手に椅子に蹴りを入れて、勝手に怪我をしたのだから。
「うむ、言えないと言うことは現場を目撃したのではないと言うことか? それともその内容に相違があると言うことか?」
再び王が尋ねると、メイドの少女が恐る恐るといった様子で口を開く。
「恐れながら、申し上げます。カサノーバ様がこちらのタケ様に一方的に蹴り掛かったのでございます。その結果、負傷を――」
「黙れ! 使用人の分際で口を慎め!」
メイドがありのままを告げている最中にカサノーバが口を挟む。
カサノーバに罵倒され押し黙ってしまうメイドの少女。
「黙るのは豚、おまえの方だ!」
俺は口を挟み、カサノーバに5倍の重力を課した。
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