第52話タケ、ザイアーク国王に謁見する

 塔に幽閉されてどれ位経ったのだろう。

 後ろ手に縛られたままで、用を足すこともできない俺は、砂を固めたベッドに寄りかかり一夜を過ごした。丁度腰の位置に手首があって尻は痛いが腰への負担は軽減された。


 それにしても腹減ったなぁ。


 俺がここに連れてこられてから、見張り役の兵士が3人変わった。

 3交代制って意外と良心的じゃねぇか。

 生活は不規則になるけど拘束時間は短いからな。

 12時間拘束のサービス残業3時間とかより余程マシだぜ。

 俺が働いていた会社は、中堅の商社でしかも業務部だったからそんな苦労した事ないけどねッ。そんな話はどうでもいいな、終わった話だ。


 見張りが3人交代したって事は、8時間労働なら丸1日経過した事になる。


 サラフィナとかアロマとか心配していなければいいけど……。


 ちなみに魔法で縄を壊そうかとも考えたんだけど、ここでは魔法を発動させる事ができなかった。なんかこの部屋に似つかわしくない模様だなって思ったんだよ。 この足元に書いてある直径1mの模様がさ。

 恐らくだけどこの塔は魔法師を閉じ込める為の牢なんだろうね。


 この輪っか何ていうんだっけ?

 あっ、そうそう魔方陣だ。


 何て書いてあるのかは分からないが、これが邪魔して魔法が発動しないみたい。

 膨大なマナをいかせない時点で、詰んでるわけだが……。

 俺はそこまで悲観してないんだよね。

 最悪はサラフィナが助けてくれると思ってるからね。


 そうして4回目の見張り交代が訪れた。

 あれ?


 そういえば、ここの兵士って交代の度に食事もって上がってくるんだな。

 俺の分は無いみたいだけど。


 そんな事を考えていると、ギギギギィッ、と塔の最下部の扉が開く音が聞こえてくる。

 コツコツと数人の足音が響き渡り、お待ちかねの迎えがやって来た。

 迎えに来たのは、ここに連れてきた騎士と同じ格好をした騎士5人。

 なんだか増えてないか?

 牢の鍵が開けられ、声をかけられた。


「出ろ。ただし妙な真似はするなよ。呪文を詠唱しようとしたら後ろからグサリだからな」


 はぁん、俺が回復魔法を使える情報が広まって、攻撃魔法も使えるのではと危惧したって訳か。今更おせぇよ。

 この部屋でなければ魔法は使える。

 詠唱なんて俺には必要ないからな。俺の魔法に呪文は必要ないのだよ。

 背後に3人、両脇を2人に囲まれた俺は、らせん階段を下り、王城へと歩く。


 塔を出ると空気がうまかった。

 やっぱジメジメした所は駄目だね。

 ハウスダストって知識を広めたくなるぞ。


 要人を警護するような扱いで、一歩一歩ゆったりと前へ進む。

 実際は、両脇を掴んでいる騎士に引っ張られ、背後では抜剣した騎士に剣先を突きつけられている訳だが……。


 城内を歩けば、その物々しさにすれ違う人たちからは白い目を向けられる。

 しばらく歩かされた先に、一際大きな両開きの扉が見えてきた。


 謁見の間ってやつだな。


 謁見の間の扉には恐らく近衛兵なのだろう。両側に一人ずつ兵が立っている。

 俺を中心とした集団を目に留めた兵が扉を開く。

 真っ赤な絨毯を歩かされ、玉座から10m離された所で止まった。

 俺を両脇から押さえつけていた騎士が、その場で俺を跪かせ、良く通った声をあげる。


「罪人、タケをお連れいたしました」


 跪かされているせいで、俺からは王の顔を見ることはできない。

 正面の王と思われる男が「うむ」と短く答えたのが聞こえた。

 両脇の騎士が一歩下がる。

 その隙に顔を上げようとすると――。

 背中に短剣を突き立てられ「頭が高い、頭は下げたままでいろ」と小声で呟かれた。

 成り行きに任せようと思って、そのまま次の言葉を待つ。

 すると――。


「その方がカサノーバに対し、暴力を振るったという者か」


 誰だ? カサノーバ?

 1000人の女性と関係を持ったという歴史的人物と似た名前だな。


「王が尋ねておるのだ! 申し開きがあるなら言って見ろ!」


 玉座より一段低い場所に立っている、宰相と思われる白髪頭のおっさんに怒鳴られる。怒りっぽいとハゲるぜおっさん!

 俺は顔をあげ王を見つめる。


「何だその目は――王に対し向ける目ではないぞ!」


 また宰相から怒鳴られた。

 この目は生まれつきなんだけどね。

 俺だって生まれるなら二重で切れ長のカッコいい目が良かったよ!

 再び騎士に頭を押さえつけられ、俺の顔が絨毯に沈む。

 正面の王から含み笑いが漏れるのを、俺は聞き逃さない。


「まぁ、下民の者では礼儀がなっておらんのも致し方ないというもの。のぉ、タケとやら、聞けばその方、治療魔法では右に出る者なしと言うではないか。此度の件、不問に付す故、王家に仕えてみる気はないか?」


 俺は驚き再び顔をあげる。

 もしかして悪いのは第四王子だけで王家はまともなのか?

 そう思ったのだが、王に視線を合わせると嫌らしく唇が吊り上がるのが見えた。

 判断に迷った時はこれだな。


「雇用条件も明確にされてないのに即答はできかねますが……」


 俺がそう言うと、宰相は顔を真っ赤に染め、王もぷるぷると顔を震わせていた。


「なんたる無礼、せっかく王が慈悲をかけると言って下さったのに、条件を出すとは――」


 えっ?

 何でキレてんの?

 仕えるって普通は就職するって事だよね?

 就職するなら給料とか時間とか待遇とか聞くのは当たり前だよね?

 まさか王に仕えるってのは奴隷になれって事じゃないよね?


 宰相がそう答えると、続いて王もシラけたとでも言うような面持ちを浮かべ口を開いた。


「その方、カサノーバへの無礼だけでなく、王である余をも愚弄するか!」


 もういいや。めんどくせぇ。


「だから誰だよカサノーバって――というか、王家に仕えるのにまさか無報酬でなんて言わないよね? 奴隷じゃないんだから、待遇とか聞くのは当たり前じゃないの?」


 俺は自分を中心に、下級重力操作魔法グラビティを発動させた。


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