第51話、タケ、拘束される

 客間にドカドカと音を立てて入り込んでくる3人の騎士たち。

 アロマは席を立つと、旦那でもある第四王子に詰め寄る。


「これはどういう事なのです? この方々はいったい――」


 第四王子はアロマに細い目を向けると、フンと鼻を鳴らして怒鳴る。


「随分と親しそうに話し込んでるじゃないか、この罪人と……」


 俺はこの侯爵家では当主の病気を回復させた恩人の筈なんだけどな、それがいつから罪人になったんだか……。アロマは眉を寄せ反論する。


「何かのお間違いでは? この方はお父様の治療をしてくださった恩人です。それを罪人などと……この方が罪人だという証拠はあるのですか?」


 そうしている間にも、3人の騎士が席に座ったままの俺を取り囲んでくる。


 さぁ、どうするかな。

 ここで暴れても一向に構わないが、それだと侯爵家に迷惑がかかる。ならばいっその事、その王城とやらに連行されてから暴れた方が、俺にしても都合がいい。

 どうせ侯爵の治療とアリシアに会ったらトンズラするつもりだったからな。


 アロマに証拠を出せと言われた第四王子は、廊下で肩を震わせている若いメイドを呼ぶ。


「このメイドが一部始終を見ていたぞ。この男に僕が倒され足を負傷する所を」


 アロマが本当ですか? と尋ねますが、メイドは怯えてしまって言葉が出ない。


「ほらな、このメイドもこの犯罪者にすっかり怯えてしまってこの有様だ。かわいそうに、余程怖かったんだろうね」


 食堂であった事に関して、前もって聞いているアロマは、尚もメイドを問い詰めようとするが、第四王子が気を利かせた振りをして戻って良い、と言うと、小走りで去ってしまう。


 客間の異変に気づき、サラフィナが向かいの客間から飛び出してくるが、入り口には第四王子が立ったままだ。

 第四王子の肩越しにサラフィナの顔が見える。

 俺はサラフィナに大丈夫とアイコンタクトで答える。


 だがそれがマズかった。


 俺の視線に気づいた第四王子が振り向き、サラフィナに気づく。

 サラフィナは三角帽を被っているが、若い姿のままだ。

 第四王子は、サラフィナを目に留めると、嫌らしく唇を舐め取り口を開いた。


「ほぉ、中々じゃないか。よし、決めた。今晩の相手はお前だ!」


 俺は呆気に取られる。ブサコンじゃなかったのかよ!

 すると、アロマがそれに口を挟む。


「お待ちください、この方は当家のお客様です。その様な真似は認められません」


 すかさず、アロマはサラフィナを隠すように、第四王子との間に割り込む。

 視界を遮られた第四王子は、アロマの肩を突き飛ばした。


「邪魔だッ!」


 サラフィナと第四王子の距離が縮まる。

 第四王子がサラフィナに手を伸ばし抱き寄せ、良く顔を見せろとばかりに三角帽をめくると――。


「おや? こんな婆さんの相手をしてくれるのかい? うふふ、楽しませておくれよ」


 いつの間に婆ぁの姿に変わったのか、サラフィナが妖艶な笑みを浮かべていた。


「――なッ」


 若い女だと思って抱き寄せた第四王子は絶句する。

 アロマもあいた口がふさがらない。


 さて、サラフィナの方は大丈夫だな。


 俺が椅子から腰をあげると、両脇にいた騎士に取り押さえられる。

 両手はそのまま背後に回され、縄をかけられた。

 両脇と背後を騎士に挟まれる格好で連行される俺。

 アロマが俺に近づくが、騎士に阻まれる。

 そんなアロマの姿を見て、第四王子はニヤリと唇を吊り上げた。


 俺が馬車に乗せられると、馬車はすぐに走り出す。

 窓には鉄格子がはめられていているが、外の様子はわかる。

 どうやら王城に向かっているようだ。

 王城へご招待って所か。

 くそぉ失敗したぜ。今俺が着ているのは侯爵のバスローブだ。スパイカメラはアイテムボックスの中なんだよな。さすがに縄で縛られている状態でアイテムボックスは使えない。


 そんな事を考えていると馬車は、王城にかかる橋を渡る。


「――へぇ」


 アーチ型の城門を潜ると、城壁から中央の城まで伸びる3つの橋を目に留める。その眺めに思わず声を漏らす。

 しいて例えるならば、首都高速道路のようだ――。


「フン、一般人にはお目にかかれない代物だ。今生の最後に良く目に焼き付けとくんだな」


 騎士の一人が、目を白黒させてその光景を眺めている俺に、慈悲ともとれる言葉をかける。

 それにしても今生の最後ね……わざわざ城内を案内してくれるんだ。

 あんただけは殺さないでおいてやるよ。

 後は知らんけどね。

 第四王子の不始末をここの王様がどう考えているのか、その結果如何だけどな。

 俺は目を瞑りながら、これから使うであろう魔法をリストアップしていた。


下級回復魔法-水属性(フェイルス)

【対象の怪我を回復させる】


下級氷魔弾-水属性(アイスペリオン)

【氷の刃で敵を切り裂き凍らせる】


下級水流砲-水属性(ワーダードレイン)

【高圧で放出された水で敵にダメージを与える】


下級氷壁魔法-水属性(アイスウォール)

【氷の障壁を作り出す】


下級氷跡弾魔法-水属性(サーチアイスペリオン)

【氷の刃が出現し、対象物に当たるまで追い続ける】


下級天変地異魔法-水属性(ゴッドディザスター)

【大雨が降り注ぎ、大地を水で満たす】


下級水竜魔法-水属性(ワーダードラゴン)

【竜の形をした水を操る魔法】


生活魔法洗浄-水属性(クリアオッシュ)

【汚れを落とす】


生活魔法水-水属性(ワーダー)

【水を出す】


下級炎魔弾-火属性(ファイアペリオン)

【炎の弾が音速で飛行し対象を燃やし尽くす】



下級炎跡弾魔法-火属性(サーチファイアペリオン)

【炎の弾が攻撃対象を追尾する】


下級炎爆魔法-火属性(ファイアスパーク)

【広範囲にわたり炎の爆撃を与える】


下級炎輪魔法-火属性(ファイアリング)

【広範囲に炎の輪が広がり、中心へ向け徐々に狭まる】


下級炎壁魔法-火属性(ファイアウォール)

【炎の壁を出現させる】


下級炎竜魔法-火属性(ファイアドラゴン)

【竜の形をした炎を操る魔法】


生活魔法火種-炎属性(フィア)

【火種をつける】


下級人造人形魔法-土属性(ゴーレムドール)

【鉱物を用いた自立ゴーレム人形を作成】


下級土壁魔法-土属性(サンドウォール)

【土の障壁を作り出す】


下級掘削魔法-土属性(ドリルワーク)

【大地に巨大な穴を作り出す】


下級地形操作魔法-土属性(グランドオプト)

【大地を整地したり歪めたりする事ができる】


下級風操作魔法-風属性(ウインドワーク)

【風を操作する事ができる】


下級飛行魔法-風属性(フライ)

【対象を浮かせることができる】


下級風刃魔法-風属性(ワインドブレード)

【風の刃で敵を切り裂く】


下級結界魔法-光属性(ガーダル)

【厚さ10センチもの光の結界で敵からの物理、魔法攻撃を防ぐ】


下級光学迷彩魔法-光属性(オプトフラージュ)

【他者から己の姿を隠す】


下級範囲結界魔法-光属性(エグザガーダル)

【結界魔法の広範囲版】


下級雷光線魔法-光属性(サンダーオプト)

【超高電圧の稲妻が豪雨の如く降り注ぐ】


下級聖光魔法-光属性(ホーリーライツ)

【聖なる光が降り注ぎ悪しき者を殲滅する】


下級解毒魔法-闇属性(ポアズンブレーク)

【いかなる毒をも解毒する】


下級結束輪魔法-闇属性(ユニオンサークル)

【漆黒の蛇が現れ対象者を拘束する】


下級消音魔法-闇属性(ミューチ)

【かけた対象の物音を消す】


下級睡眠魔法-闇属性(スリーピ)

【対象を深い眠りへと誘う】


下級臭滅魔法-闇属性(アロマデストロイ)

【臭いを消し去る魔法で猛毒のガスにも有効】


下級空間操作魔法-無属性(エアスペリア)

【異空間に干渉する能力だが、この魔法だけでは効果はない】


下級時間停止魔法-無属性(タイムブレイカー)

【ほんの1秒だけ時間を停止させられる能力】


下級物理法則無視魔法-無属性(ニュートノア)

【対象の物理法則を無効化できる】


下級瞬間移動魔法-無属性(テレプス)

【目で見える範囲に瞬間移動する事ができる】


下級隕石魔法-無属性(ミーテイア)

【広範囲に炎に包まれた隕石が降り注ぐ】


下級重力操作魔法-無属性(グラビティ)

【広範囲の重力を操る】


下級創造魔法-無属性(クリエイト)

【思い描いた物を構築する事が可能だが、この魔法だけでは効果はない】


アイテムボックス-無属性(インフィニティストラード)

【何でも亜空間にしまうことができるがその総量は魔法発動者のマナ量による】



 やべぇ。こうやってマジマジ見てみると、下級魔法だって言うのに世界征服も夢じゃねぇ錯覚に陥るわ。天変地異魔法とかこれで下級なのかよ!


 うん、ありえん。


 サラフィナが中級魔法を教えなかった理由は、下級だけでも人類最強になれるからかもしれないな……。

 迷い人の持つ膨大なマナがあってこそだろうけどな。


 あはは、楽しくなってきやがったぜ。


 そんな事を考えていると馬車は王城に隣接されている巨大な塔の前で停車する。

 ドアが開くと――。


「おい、降りろ!」


 高さ30mはある円柱の塔の下部には、鉄の扉が取り付けられていて、中に入ると湿った苔のような臭いがした。

 らせん階段を背後の騎士にどつかれながら登る。

 恐らく最上階だろうか、鉄格子が幾十にもはめられている扉の先に、今日の寝床はあった。

 手前の部屋にはテーブルと簡易式のベッド、トイレと思しき桶がおいてある。

 テーブルの上には水とコップが用意され、本までおいてあった。

 一晩過ごす程度なら悪くない。

 俺がそう思っていると、その奥にある厚さ5cmはある重厚な鉄の扉が開かれ、俺はその中に押し込められた。


 あれ?

 さっきの部屋じゃないの?


 部屋は3畳ほどの空間で窓はない。壁は塔と同じ石で出来ていてヒンヤリとしている。というか、寒い。

 夏場だったら快適だが、これで雪でも降ったら凍死してしまいそうだ。

 部屋の中は砂を固めただけの硬いベッド、用を足すための桶、それしかない。

 部屋の中央には直径1mほどの模様が描かれている。


 あれ?


 俺まだ手枷外されてないけど、これでどうやって用を足せって言うのさ!

 俺があたふたしていると、無情にも扉が閉められた。

 扉に開いた隙間からは、騎士と入れ替わりに兵士がやってきたのが見える。

 兵士はテーブルの上にトレーを置くと、トレーに乗っている食事を食べ始めた。


 あれ?

 俺のは?

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