WooTober異世界に立つ、番外編④もしも序盤からヒロインが登場していたら

 泣き崩れている西脇巡査の動画を撮りながら、俺は公式の交換ページを開いた。

 現在のポイントを確認する為に開いたんだが、交換品目に異変があった。


交換出来る景品





100p:たばこ(お好きな銘柄)


100p:おにぎり(梅、ツナからどれか1つ)


100p:お飲み物(自販機で良くあるものいずれか)


100p:洗顔セット(洗顔とひげ剃り用カミソリがセットになったおすすめ品)


300p:LED懐中電灯


…………………………………………………………………………………………………………


500p:果物ナイフ(量販店で販売されている普通のナイフ)


………………………………………………………………………………………………………


1000p:寝袋(山損のタイムセール品)


3000p:マイクロSDカード 32GB


…………………………………………………………………………………………………………

5000p:ニューナンブM60用実弾(.38スペシャル500発入り)


5000p:包丁(名刀 土岐長政作の良く切れる包丁で鍛え抜かれた一品)


5000p:スパイカメラ(ハイビジョンの動画が気づかれずに撮影できます)


…………………………………………………………………………………………………………


10000p:異世界の剣(一般的な異世界の剣で街で流通しているもの)


30000p:旅のお供にコンパクトデジカメ (36GB SDカード付き)


100000p:下級魔法(属性と種類はランダム)


1000000p:中級魔法(属性と種類はランダム)


10000000p:上級魔法(属性と種類はランダム)


100000000p:ワールド級魔法(属性と種類はランダム)


1000000000p:神級魔法(属性と種類はランダム)


10000000000p:エリクサー(死んだ人でも生き返る薬-死後8時間以内-)



他にも景品があるが多すぎる為割愛。※注1


※注意事項①……1人のリスナーからの投げ銭の上限は100000pとします。※注2

     ②……魔物を倒してもポイントは入りますが、トドメを刺した場合のみ。

     ③……広告収入は1再生1pとなります。


注1……物語の進行状況によって変動

注2……1IDで行える金額で、複数のアカウントを取得している場合はその限りでは無い。


 なんだこりゃ?

 ノートパソコンを開かなくても動画を撮影できるデジカメは有り難いが、スパイカメラって――俺に007にでもなれと?

 しかも銃の実弾って……。

 運営さん、完全に俺の動画見ているでしょ?

 じゃなければ、こんなタイムリーな景品あり得ないよ?

 しかも日本の警察の実弾って確か特注だよね?

 それを敢えて用意できる周到さ。

 うむ、侮れない。WooTobe運営。

 ポイントは15700P――。

 結構、ゴブリンを倒したと思ったんだけど、6体だけだったか……。

 少なくとも西脇巡査が拳銃で倒したゴブリンが5体。

 ニューナンブM60が確か5発装填だったと思ったから、間違いないはず。

 しかし、ゴブリンを俺が倒さないとポイントにならないってのがネックだな。

 これで実弾500発を交換して、俺がゴブリンを射殺しまくれば、簡単に稼げそうなんだけど。まぁ、西脇巡査に拳銃貸してなんて口が裂けても言えないな。


 ねぇねぇ、消しゴム貸して!


 そんなノリで拳銃も貸してくれるなら問題はないが……下手したら俺の体に風穴が開きそうで怖いわ!

 でもこの先の事を考えると、西脇巡査の護身用に実弾を補充しておきたい。

 仕方ないな。奮発して500発購入するか。

 って1発10円かよ。単価安いな――さすが9mm弾。


 そんな事でポチッと。


 俺のバッグが一気に重くなった気がする。交換成功だな。


 ついでにポチッと。


 あはは、これで俺も007だ!

 バッグの中を見ると、今までにはなかった実弾が入っている箱と、小さなライターサイズのカメラが入っていた。

 おっ、これ電熱線がまいてある。普通にタバコに火も点けられるのか。

 これは重宝しそうだな。

 さて、グズってる西脇巡査に実弾のプレゼントでもするか。

 俺は箱から5発の実弾を取り出し、西脇巡査に見せた。


「西脇さん、そんなに凹まないでよ。これ補充しとけば始末書の必要もないっしょ?」


 西脇巡査は、俺の手の上に乗っているどう見てもニューナンブの実弾をジッと見つめると、恐る恐るそれを受け取り、ニューナンブに装填した。

 良かった。ちゃんとサイズも合っているみたいだな。

 シリンダーに5発の実弾が入ると、西脇巡査はそれをまじまじと見つめて――。

 急に笑い出した。


「あはははは。さっきまでの発砲は夢よ。夢だったんだわ。5発揃っている現状こそリアル。これで始末書を書かなくて済むわ。はぁ、良かった、良かった」


 いや、西脇さん、あなたさっきゴブリンを射殺した場面を今、アップしたからね。なかった事になんてできませんよ。


 喜んでいる所に水を差すのもなんだから放って置くけど……。


 さて、西脇さんが立ち直るまでちょっこら生配信でもしましょうかね。


 俺は西脇さんにカメラを向けたまま、生配信を行う。

 この時、USB端子を使ってのスパイカメラへの充電も忘れない。

 さすが、俺。抜かりはない。


 配信が始まると、予告なしに始めた生配信なのにリスナーが10万人を突破していた。


 何が起きた??


 さっき配信を止める前まではリスナーは安定の3人プラス警察関係だったはず。


 なのになぜ?


 その理由はすぐに分かった。



ゲスト:長田武郎さんですね? 西脇巡査誘拐事件の重要参考人として全国指名手配されたご気分は?


ゲスト:長田! 今すぐ西脇巡査を解放しろ! 今なら刑期は軽いんだぞ!


ゲスト:長田さん、子供を撲殺した心境は? なぜ殺したんです!


ゲスト:タケちゃん、やばいよ。全国ニュースがタケちゃんの話題で持ちきりだよ。


ゲスト:西脇巡査は無事なんですか? 今回犯行に及んだ動機をお聞かせください。


ゲスト:夕日テレビの坂上です。独占インタビューをお願いしたいのですが、私のスマホに連絡を頂けませんか?



 俺は、高速で流れるログに思考が追いついていかない。

 全国ニュース? 全国指名手配?


「なんじゃぁぁぁぁぁそりゃぁぁぁぁ!」


 思わず叫んでしまう。

 急いで情報を得ようと、ニュースサイトを開くが、なぜか、ノートパソコンはネットに繋がっているにも関わらず、WooTobe以外のサイトへはアクセスできない。

 俺は仕方なく、生配信中のチャットに戻る。

 延々と、繰り返されるインタビュー。

 西脇巡査の仲間、ぶっちゃけ警察からは自首を勧める内容の書き込みで溢れる。

 時たま、普通のリスナーからの励ましのログも流れるが、マスコミのインタビュ-が早くてすぐに消えていった。

 くそっ、チャンネル登録者数を増やし、動画の再生回数をあげて人気WooToberになる予定が――犯罪者WooToberってどんな冗談だよ。

 でもまてよ、ここで投げ銭を募集したらどうなるんだろ?

 あっという間に、1000万も不可能ではなかったり?

 善は急げだ。


「マスコミの皆さん、また警察の皆さん、または僕のファンの皆さん、僕が動画の概要欄に書いた景品交換のポイントに関してはもう見てくれましたか? そうです。僕が今欲しているのはポイントなんですよ! インタビューでもなんでも喋ります。動画越しで良ければですが……(小声で言う) そろそろ日も暮れます。完全に日が暮れたらノートパソコンのバッテリー残量が気になりますから、その前に、投げ銭をお願いします。そうですねぇ1インタビューに対して10万ポイントでどうでしょう? では今から30分だけ限定で行いますんでよろしくお願いします」


 ひゃっほー。

 俺ってあったまいい!

 これで投げ銭はいただきだぜ!

 と思っていると、ログに不穏な文字が流れ出す。


【誘拐犯、長田武郎、遂に身代金要求か?!】

【身代金は報道各社から徴収すると長田氏豪語!】


ゲスト:長田、ついにやっちまったな。警察はお前を絶対に捕まえるからな!


ゲスト:長田さん、営利誘拐目的だったんですね。あなたどれだけお金に困ってんですか。


毎〇テレビ:長田さん、独占インタビュー期待してますよ。


毎〇テレビ様より10000ポイント入金されました


テレビ島〇様より10000ポイント入金されました


テレビ中〇様より10000ポイント入金されました


テレビ真〇様より10000ポイント入金されました


特報〇チャンネル様より10000p入金されました


おはよう〇テレビ様より10000p入金されました


……………………………………………………………………………………。


 しばらくポイント入金のログで溢れた。

 最初の内は、金額を数えていたが、それも止めた。

 俺は警察関係者と思しき人物の書き込んだ、営利誘拐といった文字が頭から離れなかったからだ。

 やべぇ。何か間違ったか? 俺!


 入金は予定時刻の30分を過ぎても、振り込まれ続け、日が地平線の彼方に傾いた時にようやくログが落ち着いた。


 その金額――8905700p


 実に89社のマスコミがインタビュ-を望んでいる事になる。

 約束した以上は、89の質問に答える義務をおった訳だ。

 めんどくせぇ~バックレてぇ!

 信用をなくすからバックレ無いけどねッ。

 犯罪者扱いされている俺に信用があるのか知らんがな。


 俺が呆気に取られていると、俺の様子がおかしいことに気づいた西脇巡査が画面をのぞき込み声をかけてくる。


「何これっ! はっぴゃくきゅうじゅうまん?」


 俺は、ただ首肯する事しかできない。


「良かったじゃない長田。あんたお金が欲しかったんでしょ?」


「俺が欲しかったのはこんな金じゃねぇぇぇぇぇーーー!」


 夕闇に支配されだした林に、俺の悲痛な叫び声だけが虚しく響いていた。

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