第46話王都へ到着
夜通し街道を爆走したイムニーは、夜が明けきる前に王都を見下ろせる高台に到着した所で車を止めた。
さすがに王都から見える街道をイムニーで爆走する訳にはいかないからねッ。
俺とサラフィナは眠気覚ましに、新鮮な空気を吸い込もうと車外へと出た。
アロマはまだ眠っている。余程疲れていたみたいだな。
高台からは巨大な都市をぐるりと囲い込む城壁が見えている。
高さ20mはある城壁の間にはある一定の間隔でチェスの駒のルークの様な塔が多数築かれており、それぞれが歩廊で繋がっている事から外敵から街を守る防衛の役目以外にも戦闘に特化した戦闘要塞の様な形状になっているようだ。
城壁の外側には堀が流れていて、他国からの侵略や魔物の襲来への備えが万全な事が見て取れる。
「すげーな。これだけの城塞都市は俺の世界でもそう多くはないよ」
俺が感嘆の声を漏らすと、隣で聞いていたサラフィナがそれに反応する。
「タケ様の世界にもこのような城塞都市はあるのですか?」
以前サラフィナに見せた動画には巨大なビル群や街並みは映ってたけど、城の動画はなかった。
日本の城関連の動画があったとしても、日本の城は城塞都市ではないから、この世界の人からすれば屋敷の塀と間違われる可能性もある訳だが……。
地球では古代ローマ帝国の時代からあったとされているが、もっとも城塞都市が拡大したのは西暦1000年を過ぎてからの封建制度初期だと言われている。
「昔はあったみたいだけど、科学が発達すると共に意味を成さなくなったんだよね」
「また科学ですか……」
サラフィナはイムニーを見ながらそう呟く。
この世界の人からすれば、空爆なんて攻撃は思いもつかないのだろう。
かという地球でも1903年にライト兄弟が世界初の有人動力飛行に成功するまで、そんな発想はなかったのだからさもありなん。
「俺の世界では空からの攻撃で、都市を丸ごと消滅させられる武器が当たり前に開発されてたからな。こんな壁なんて意味ないんだよ」
サラフィナは一瞬顔を強張らせるが、次の瞬間、俺の顔をまじまじと見つめ。
「タケ様が上級魔法を覚えたら、この世界でも似たような事ができるかもしれませんね」
と、予想の斜め上の例えを呟かれた。
いや、さすがにそれはありえないだろうよ。
いくら迷い人の魔力が高いっていっても、原爆なみの威力があるとは思えない。
というか、無いと思い込みたい。
自爆が恐ろしくて試し撃ちすらできないって――。
出番の無い魔法は抑止力とは言わないのだよ。
仮にスタンピードという魔物の大量発生イベントがあったとして、そのど真ん中に原爆落としたら味方も巻き込んじゃったなんて笑えねぇからな。
「ははは――」
とりあえずここは笑って誤魔化すしかねぇな。
そんな話をしていると、ようやくアロマが目を覚ましたのかイムニーの後部座席側のドアから音がした。が、すぐにドアの開き方が分からなかったようでしばらくすると窓をガンガン叩きだした。
このまま放置していたら窓をたたき割られそうだったんで、急いでイムニーに戻る。
俺が後部座席のドアを開くと「どうやったら開くんです? それにここはどこなのです?」と矢継ぎ早に問いかけられた。
ここから王都までは徒歩の予定だから、もう二度とアロマを乗せる事もない。
俺はドアの開閉の説明は省き、現在の場所だけを説明する。
「ここから見てもらえればわかりますが――王都の手前の丘です」
俺の言葉になんの冗談だとジト目を向けるアロマだったが、すぐ真下にそびえる王都を視界に入れると驚きの声をあげた。
「えっ、うそッ。なんで? まだ半日も経っていないのに――私、3日間も眠っていたのですね。そうですわよね?」
人って普通に考えてあり得ない事を目にすると、現実逃避するんだな。と始めて気づいた。だが、これは夢でも幻ではない。
「サラエルドの街を出発してからまだ月8の時間しか経っていませんよ」
いまだに信じていないアロマを放置して、俺は
俺の正面の空間には自身を映し出す鏡のような物が浮かんでいて、イムニーに触りながら鏡をタッチすると次の瞬間にはイムニーはアイテムボックスの中に収納されていた。
収納はできるが、取り出せないなんて事がないとも限らない。
再度、浮かんでいる鏡にタッチすると鏡の中にイムニーが小さく映っているのが見てとれた。
さらに鏡に手を差し込み、イムニーに触れた瞬間、先程消えたイムニーが元の場所に現れた。
どうやら成功したようだな。
このアイテムボックスの魔法は、魔法を発動した本人しか鏡を見ることはできない。サラフィナの店で彼女が俺に見せる目的で使用した際に、何もない空間からミカンの袋が出たのは記憶に新しい。
俺がアイテムボックスからイムニーを出し入れしていると、それを見ていたアロマが口を開く。アロマからすれば、突然イムニーが出たり消えたりしているように見えているのだから驚くのも無理はない。
「えっ、今度は何をしてるんです?」
説明するのは面倒だが、王都までの道中しつこく尋ねられても面倒なので、物をしまう魔法ですよ、と、簡単な説明に止めた。
それってロストマジックじゃないですか! とか、国家魔法師でも使える人の話は聞いたこともありませんよ! と騒いでいるが、それはこの国に中級魔法を使える魔法師がいないだけだ。
サラフィナたちエルフの間では、珍しい魔法ではないと聞いている。
人族の歴史改ざんの弊害は、魔法技術の継承にも影響を及ぼしていたらしい。
アロマは聞きたそうにしているが、これ以上、こちらから情報を開示するつもりはない。どのみち、王都で侯爵の治療を行ったらトンズラするつもりだからね。
「ここからだと王都までは徒歩で1時間って所かな? さっさと行きますよ」
朝日が城壁に反射して輝く中、俺たち3人は目下に見える王都へと歩き始めた。
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