第42話タケ、逃走する。③
「えっ――」
俺はサラフィナが取り出した大袋を見つめ声を漏らす。
「はぁ、タケ様の世界ではこれをアイテムボックスと呼ぶのですね。こちらの世界では無限収納と呼ばれる中級魔法に属する魔法なのです」
俺はサラフィナから手渡されたミカンを1つ受け取りながらその説明を聞いていた。
なるほど、中級魔法だから渡された魔法の書には記載されていなかったのか。
攻撃魔法じゃないんだから、教えてくれても良かったんじゃ?
そう考えたが、アイテムボックスを使用するために必要な、創造魔法、空間操作、物理法則無視は下級魔法でも特殊な魔法のため、あえて教えなかったのだろうと判断した。
なぜ、そう判断する事ができたのかと言えば、取得した魔法には説明が記載してあって、それによれば――。
創造魔法――魔法発動者が思い描いた物を構築する事ができるが、構築できる物質及び空間は発動者の魔力総量を上回る事はない。また空間魔法、時空魔法、物理法則無視を掛け合わせる事で、異次元空間への転移が可能となる。
空間操作魔法――次元の違う異空間に干渉する能力だが、異空間に転移するためには創造魔法、時空魔法、物理法則無視魔法が必要となる。
物理法則無視魔法――対象の物理法則を無効化する事ができる能力。
なるほど、これで時空魔法を取得すれば俺は神に等しい能力を得ることができると言うわけだ。創造魔法で核を形成し、それを爆発させる前に亜空間に逃げ込めば、自爆したと思わせ都市を丸ごと消滅させる事も――ってまてまて。
そんな物騒な事しないからねッ!
それに核爆弾の原理なんて俺知らねぇし。
創造するために必要な、原理がわからなければ作り出す事は不可能っぽいからね。
大砲とか銃位なら、原理は簡単だから作れるとは思うけどさ。
そんな訳で、ミカンを頬張りながらアイテムボックスが必要な理由を話す事にした。
「んぐ、俺の世界の乗り物で車ってのがあるんだけど、もぐもぐ、馬に乗れない俺でもそれなら運転できるんだよ。車は夜でも遠くを照らす明かりを発し、馬の数倍の速さで走破する事もできる。このミカンうめぇな。しかも馬と違って疲れる事がない。逃走するにはもってこいだろ? もぐもぐ、ただ他の街へ行くにしてもその乗り物で乗り付けると怪しまれるから、んご、しまい込めるアイテムボックスが必要だったって訳だ。愛媛のミカン並に糖度がたけぇ。もう一個くれ!」
「なるほど、以前見せて頂いた動画? に映っていた、馬が引かないあの車をしまい込むのに必要だったのですね。確かに人を4人乗せる事ができる車では、私の無限収納にしまい込む事はできなかったでしょう。無限とは謳っていますが、その容量は魔法を行使する魔法師のマナ量に依存しますので……」
どんな魔法でも使えそうなサラフィナが使う無限収納でも、馬車のような大きな物を収納する事はできないのだと、苦々しい表情で語る。
サラフィナの無限収納に収納できない車を、俺のアイテムボックスに収納できるのかといった不安がよぎるが「迷い人のマナ量はこの世界の生物を
行き当たりばったりな感じもするが、アイテムボックスに入らなかったら、最悪、移動時に車を使い、他の街へ立ち寄る時には隠すって手もあるしね。
本当はサラフィナの店の裏手で車をポイントと交換して、燃料であるガソリンを給油した状態でアイテムボックスにしまいたかったんだけど、最悪、俺のアイテムボックスに入らない事も想定して、街の外に出てから車を出すことに決めた。
閉門までは後、月2ほど時間がある。
その合間に俺は取得した魔法の説明を見ている。
万一、門を出る前に追っ手に見つかった場合に備え、手札を多く持つためだ。
サラフィナはといえば、店じまいするにあたり、持って行く物、置いていく物を選別しているようで、何やら忙しなく動いている。
そうして月1の時間が経過し日が暮れる。
俺とサラフィナは目立たない格好に着替えると、こっそり裏口から街へ繰り出した。
俺の格好はいつものフリースはバッグにしまい、アイテムボックスへ。その代わりに頭から全身を覆う黒の外套を羽織っている。
バッグをアイテムボックスにしまったのには身軽にする他にも理由がある。
いつも俺が背負っていたバッグはこの世界では非常に目立つ。
追っ手がそんな目立つ特徴を見逃すはずはない。
俺の荷物は、サラフィナにもらった剣を一振り腰に差している。
サラフィナも外套を羽織っているが、頭にはいつもの三角帽を被っている。いつもと1つ違うのは、姿が婆ぁでは無く若い姿だと言うことだ。
婆ぁの格好で若い俺を連れて旅をするのは逆に目立つらしく、サラフィナが自発的にこの姿での移動を決めた。
これなら若い商人とお供の護衛っぽいね。
護衛とは名ばかりで、冒険者組合での俺のランクはFランクと最弱な訳だが……。
サラフィナは冒険者組合には登録していない代わりに、商業組合に登録している。人族が決めたクラス分けなんかまっぴらごめん、豚の餌にでもして食わせてしまえってのが冒険者登録しない理由なのだとか。
人族を忌避するエルフらしい考えだと思う。
そんな訳で、サラフィナ扮する商人とその護衛といった名目で旅をする事にきまった。
大通りには既に明かりが灯され、行き交う人々も既に酒が入り陽気な冒険者や、酒場や宿に務める若い女性スタッフの呼び込みのかけ声で溢れていた。
俺たちは大通りを避け、一本裏道を歩く。
目立たぬように、できるだけ足音も消しながら。
この時間になると、3つある門の中でも正門と呼ばれる一際巨大な門だけしか開いていない。正門の両脇には
昼間はこれが左右5名ずつ配置されている事から守りは手薄に見える。
俺とサラフィナは遠目に確認すると頷き、門へ向けて歩き出す。
この時間に出門する旅人は滅多にいない。
ギリギリで入門してくる馬車が数台いるだけだ。
そんな場所に、この世界では小柄な体軀の男と背の低い子供と間違われても仕方のない若い女がやってくる。
怪しさ満載。当然、門番の男が目を細める。
そして門番の一人がニヤリと笑うと、背後にある緊急招集の鐘がならされた。
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