第39話アイテムボックス!

 久しぶりに開いた景品交換のページを見て俺は絶句した。

 ここ異世界だよね?

 なんで異世界にガソリンを持ち込める訳?

 しかもバイクとか軽自動車って――。

 WooTobeここまで来ると何でもありだな!

 どういう理論で、日本で発売されたばかりの軽自動車とか送って来られるんだ?

 日本にいた時に、科学サイトとか暇つぶしに見ていたけど、そんな技術お目に掛かったことねぇぞ。こんちくしょう。


 しかもスパイカメラとか、絶対に運営さんは俺の動画見ているよね?

 これでサラフィナの動画を隠し撮りしろと言っているようなものじゃん!


 俺はノートパソコンの前でWooTobeの公式サイトに突っ込みを入れていた。

 サイトを開く前は、中級魔法10種類がいいか、それとも下級を全種類マスターしてから中級魔法かと考えていたが、まさか車と交換できるとは。

 馬に乗れない俺には移動手段は必要不可欠だ。

 正直、めっちゃ欲しい!

 だが待て、そもそも自動車なんか持ち込んだら街への入場ができないんじゃ?

 だって不審者どころの騒ぎじゃないよ?


《おい! お前止まれ!》

《はい、なんでしょうか?》

《むっ、これはなんだ?》

《これは自動車という乗り物です》

《これが乗り物だと? 引く馬がおらぬではないか!》

《これ自体が魔道具でして――馬は必要ありません》

《怪しすぎるぞ! 引っ捕らえろ!》


 そんな展開になるに決まってる。


 逃走手段としては最適だけど、俺はお尋ね者になった覚えはない。

 車とかを用意するならアレは絶対必要だろ。

 アイテムボックスは!

 異世界といえば、剣と魔法、ドラゴンにアイテムボックスと相場が決まってる。

 まさか運営はアイテムボックスの存在を忘れているとか?


 えっ、剣と魔法はわかるけど、何でドラゴンとアイテムボックスなんだって?

 そりゃ、ドラゴンを倒した後に素材回収でアイテムボックスを使うからに決まっているじゃん!ドラゴンとか異世界に来て一度もお目に掛かっていないが……。


 そんな訳で、二度目のクレームを運営にメールしてみた。

 送信から間髪入れずに返信メールが届き、その内容が――。


『長田 武郎様

いつもご利用有り難うございます。お問い合わせの件につきまして、厳正なる審査の結果、長田様のチャンネル登録者数オブ・ザ・ミリオンを記念いたしましてご希望のアイテムボックスを送付させていただきました。使用する前に、下記に記載の呪文詠唱をお願い致します。

では引き続き異世界生活をお楽しみください。


「我、時空の女神シンデレーラにう、彼の地へいざなう無限倉庫を我が手に与えたまえ――アイテムボックスインフィニティストラード!」                        


                            Wootobe運営より』



 この対応の早さって――。

 異世界転移と同時に渡す所を、忘れてたよね?

 ミリオン達成にかこつけただけでしょ?

 本当のミリオン達成記念の品って何だったの?

 まさか金の再生ボタンなんていらないよ。

 純金の盾なら欲しいけど……時価総額1億円くらいの。


 その後、チャンネル登録者数100万人突破記念の品を運営に尋ねたが、返事は来なかった。こんちくしょ!


 なんだか損した気分だが、まぁ、アイテムボックスが手に入ったのならいいか。

 それにしても運営さん、時空の女神の名前が間違っていますよ!

 俺、サラフィナさんに聞いて知っているんだからね!

 時空の女神様の名が、シャンテリーナ様だって!


 そんな訳で、俺はアイテムボックスを使うため、呪文を詠唱する。

 どうせ魔法の発動名だけで使えるんだと思うけどさ。

 気分は必要だからね。中二病っぽいけど――。


「我、時空の女神シャンテリーナにう、彼の地へいざなう無限倉庫を我が手に与えたまえ――アイテムボックスインフィニティストラード!」


 呪文を詠唱すると、黒い霧が浮かび上がる。が、形を作る前に弾けて消えた。


 ………………………………………………………………。


 どうなっている?

 使い方が悪いのか?

 そう思っていると、視界の隅に小さな赤い文字が流れる。

 《その魔法を使う条件が満たされていません。アイテムボックスを使用するには、下記の3つの魔法を取得してください。1:下級空間魔法、2:下級創造魔法、3:下級物理法則無視魔法》


 はっ?

 ナニコレ?

 これって、初期段階では使えないって事か――。

 どうやらアイテムボックスが使えなかったのは運営のミスではなかったようだ。

 ある程度、魔法を覚えてからで無いと使えない仕様かよ!

 やってくれるぜぇ。運営さんよ。


 サラフィナからもらった魔法の本にはアイテムボックス使用条件の3つの魔法は記載されていない。


 はぁ、詰んだ。ランダムでしか選べない下級魔法を選んで覚えろって事だよね?


 下級をすっ飛ばして、中級魔法を選ぼうとしていた企みが――破綻した!

 まぁ、いいけどさ。

 どっち道、いつかは覚える事になるんだろうし。


 兄貴の仇討ちをしてからというもの、俺はこの街からは一歩も出ていない。

 何を言いたいのかといえば、魔物を倒して得られるポイントは0だという事だ!

 別に自慢している訳じゃないよ?

 とりあえずは生活基盤の構築が第一なんだから。

 余裕ができてから、スライムとかスライムとかスライムを倒そうと考えていたんだから。


 えっ?


 なぜ、スライムばかりなのか?

 よくぞ聞いてくれました。一月前に俺が治療したグリムさん。彼をあんな状態にしたのがオークだからですよ。

 Cランクモンスターのオーク。豚の魔物。人間の女性をさらっては子作りに励み子孫を残しまくる、あのオークです。

 Bランク冒険者が居なくなった影響で、オークが森から林に進出してきているとか。そんな注意勧告が冒険者組合から出されているから、怖くて林に出かけられない訳ですよ。

 スライムなら街から南へ行った川縁かわべりにもいるって聞いたからね。

 結界魔法と攻撃魔法を駆使すれば、俺にもオークは倒せると、少しは期待しているけどね。でも、やってみないとわからないでしょ?

 だからポイントが入る明日まで街にこもっていたい訳です。

 この1ヶ月半色々な事があったけど、このために頑張ってきたんだから。

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