第38話一月後――。
グリムと呼ばれている男は腹部から夥しい血を流していて、一刻を争う状態なのは一目でわかった。
俺の前に座っている患者がグリムの容態を見ると、席を譲る。
どう見ても風邪としか思えない患者と緊急外来の患者では、どちらを優先すればいいのか一目瞭然。この街の住民もその辺は理解している。
席が空いた事で、グリムの付き添いに隣に設置してある簡易ベッドにグリムを寝かせるように促す。カメラからは少し遠くなるがしかたない。
「では、こちらのベッドに――」
付き添いは3人。全員が革の防具を装備している事から冒険者とわかる。
グリムの両脇を抱えている男2人は、俺の言葉に頷くと急いでグリムをベッドに寝かせた。グリムは意識はあるがだいぶ呼吸も荒く、顔色も悪い。何より、皮の鎧を着ているにも関わらず、グリムの腹部には革鎧ごと切られた大きな傷がある。
俺は付き添いの冒険者に、グリムの装備を外すように指示をだす。
装備を外すと損傷具合が良くわかる。
腹部の傷は大きく抉られていて、今も、真っ赤な血が流れ出している。
俺は銀の容器に入った、水を患部にぶちまけた。
消毒用として設置してある水だが、滅菌していない井戸水や川の水を使うよりは効果的だ。一度沸騰させてから冷ました水だからね。
こびり付いた血を、あらかた流し終えた俺は、回復魔法を唱える。
チョコナリーナ様の名を呼ばない、簡単な詠唱の方だ。
「
俺の手から噴出した青い霧が空中で丸い形を作ると同時にグリムの体内へ、スッ、と入っていく。腹部に到達すると一瞬の輝きが放たれ、深く損傷していた傷がきれいさっぱり完治していた。
「「「おぉぉ! 治ってる!」」」
顔色のすぐれないグリムと仲間が、腹部を見て感嘆の声をあげる。
さすがに回復魔法では損傷した箇所は元に戻せても失った血は戻らない。
しばらく安静が必要だが、もう大丈夫だろう。
「それじゃ、次の人――」
俺が次ぎの患者を呼ぶと、グリムから声をかけられた。
「ちょっと待て、先生は王都から来た上級回復魔法の使い手だったのか? さすがに金貨1枚なんて持ち合わせはねぇんだが……」
治療代は下級魔法の場合、銀貨1枚。中級魔法では銀貨5枚。上級魔法だと金貨1枚が相場となっている。
グリムほどの大怪我を完全回復させるためには、一般的には上級回復魔法が必要なのだが、
”魔法は魔法師が持つマナ量に依存する”
俺が使ったのは確かに下級魔法だが、上級回復魔法と同等の効果が出ていた。
今まで気づかれなかったのは、そこまで重篤の患者に当たらなかったから。
サラフィナが中級魔法を教えようとしなかった理由もここにあった。
「いえ、今のは下級回復魔法ですよ。だから治療費は銀貨1枚です」
俺がそう答えると、口をあんぐり開けた冒険者4人が声をあげた。
「「「「んな、馬鹿なっ!?」」」」
どう言われようと、俺に使えるのは下級回復魔法だ。
とりあえず、次の患者の迷惑になるので、銀貨1枚を払ってもらってお引き取り願った。患者はグリムだけでは無いのだ。
それからも俺の治療は続いた――。
その一部始終を王都から来た魔法師に見られているとは気づかずに。
――それから一月後。
俺は治療院でお金を稼ぎながら、暇さえあればサラフィナの店にお茶を飲みに行っている。別にサラフィナと付き合い出したとかそういうのは無いよ?
だって、婆の姿が本当のサラフィナなのか、きれいな方が本物なのか、今一判別ができないから。婆の姿が本物だったら嫌でしょ?
え? 嫌だよね?
…………………………………………。
他に知り合いは出来ないのかって?
人見知りするタイプだから仕方ないのだよ。
この街で声をかけられるのは、治療院の患者、露天の親父、冒険者組合の受付のお姉さん、坂の上の林檎亭の女将さん、サラフィナしかいないんだから!
たまにブラッと寄った古着屋さんとか、店の店員さんとも会話するが、値段交渉と接客用語だけの会話でどう仲良くなれと?
《いらっしゃいませ~どのような品をお求めですか?》
《はい、寒くなってきたんでできれば厚着があれば――》
《では、こちらなどはいかがでしょうか?》
《はい。これにします》
こんな会話で仲良くなれる気がしねぇ。
日本でお店の店員をナンパする人とか聞いたことがあるけど、店側がお客さんに愛想がいいのは当たり前。それを、好意を抱いているのでは? なんて誤解するほど、俺の自己評価は高くないよ。
そりゃ、店員さんの中にも可愛い子はいるよ。
でも、声をかけて何を話せばいいのさ?
赤面して心臓バクバクが関の山。
そんな訳で、異世界に来て周りの環境は変わったけど、俺自身は何も成長はしていなかった。
進展があったといえば、本業の配信の方だ。
治療院での動画は予想通り、好評で、30分に編集した動画は軒並み100万再生を超え、チャンネル登録者数が大台の100万人を突破していた。
切り傷、重篤な患者も一瞬で治るその映像は、もはやフィクションさながら。
中にはいまだに疑っている視聴者もいるが、そんなものは気にしない。
生配信を見た視聴者が、俺の無実を証明してくれるのだから。
ちなみに、先月末にWooTobeの公式サイトから、これまでネットにアップした動画の総再生回数を確認したが、既に1000万再生を超えていた。
異世界に来る前の二桁と比べれば月とすっぽんだね。
明日には1000万ポイントが振り込まれる事が確定している。
これで俺も人気WooToberの仲間入りってヤツだ。
今日は仕事が休みの日。WooTobe公式サイトから明日振り込まれるポイントで交換できるアイテム一覧を見てニヤニヤしようと、交換できるアイテムのページを開くと、これまでとは違った驚きのアイテムが記載されていた。
交換出来る景品
100p:たばこ(お好きな銘柄)
100p:おにぎり(梅、ツナからどれか1つ)
100p:お飲み物(自販機で良くあるものいずれか)
100p:洗顔セット(洗顔とひげ剃り用カミソリがセットになったおすすめ品)
300p:LED懐中電灯
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500p:果物ナイフ(量販店で販売されている普通のナイフ)
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1000p:寝袋(山損のタイムセール品)
3000p:マイクロSDカード 32GB
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5000p:包丁(名刀 土岐長政作の良く切れる包丁で鍛え抜かれた一品)
5000p:ガソリン40L
5000p:スパイカメラ(ハイビジョンの動画が気づかれずに撮影できます)
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10000p:異世界の剣(一般的な異世界の剣で街で流通しているもの)
30000p:旅のお供にコンパクトデジカメ (36GB SDカード付き)
100000p:下級魔法(属性と種類はランダム)
200000p:オフロードバイク 250CC
1000000p:中級魔法(属性と種類はランダム)
2000000p:新車 五十鈴 イムニー660CC 4WD
10000000p:上級魔法(属性と種類はランダム)
10000000p:キャンピングカー(キッチン、シャワー、トイレ、ベッド付き)
100000000p:ワールド級魔法(属性と種類はランダム)
1000000000p:神級魔法(属性と種類はランダム)
10000000000p:エリクサー(死んだ人でも生き返る薬-死後8時間以内-)
「なんだ――これ?」
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