第33話タケVS狂蛇の剣④
「なぁ、あれはほんのイタズラだったんだよ。まさかキグナスが本当に死ぬとは思っちゃいなかったんだ」
右手を失い両膝を地面に付けた惨めな格好でアイザックがのたまう。
俺は何言ってんだって風な顔をしてアイザックを見下ろした。
「それに俺も後からジンダーから聞かされたんだよ。キグナスをやったのは俺だって」
今更何言ってんだか。
兄貴を殺したジンダーはもう死んだ。
死人に口なしとはこの事だよね。
いざ自分が殺されるとわかれば惨めに命乞いかよ。
こんなヤツのせいで兄貴は死んだのか。
「今更あんたの言い訳なんて聞きたくない。あんたにできることは兄貴に心から謝罪しながら苦しんで痛みにもがいて死ぬことだ」
「待てって、本当なんだ。なんならガリアンや他のメンバーに聞いてもらってもいい」
「言い残す事はそれだけですか?」
俺はいつでも魔法が放てるように手をアイザックに向ける。
「いや、だから待てって。わかった。じゃぁこうしよう。俺の全財産をお前にやる。そして俺は冒険者を引退しよう。これならいいだろ?」
どうしようもないクズだな。
惨めに命乞いするアイザックに呆れとも取れる嘲笑を向けると俺は、近くで腰を抜かしているガリアンに声をかける。
「アイザックはこう言ってるが、本当の所はどうなんだ?」
ガリアンは俺に振るなよって面持ちを浮かべるとアイザックの言葉を否定した。
「アイザックの言っている事は全部嘘だ。ゴブリン討伐が決まった夜にギルドメンバー全員で決めたんだよ。キグナスをやればキグナスが築いた護衛の任も、Bランクも一気にこちらに回ってくる。こんなうまい話はねぇだろうって言われてな」
やっぱりな……そんな事だと思ったぜ。
「で? 後衛の皆さんはどうなんです? あんた達も同罪だと認めますか?」
俺は残っている盗賊と情報担当、弓兵、荷物持ちに視線を向けて尋ねる。
「ガリアンの言っている事で間違いない。アイザックが、ギルマスが全て仕組んだ事だ」
「俺たちはそんな事望んじゃいなかったんだ」
「そうだぜ。俺たちは現状に満足してたんだ。それをアイザックが――」
後衛が全員アイザックを見放すと、俺の足元にいたアイザックが叫ぶ。
「おめぇら嘘つくなよ。キグナスが築いた護衛の依頼人を最初に調べてきたのはおめぇじゃねぇか。それにジンダーの矢が失敗したらエルダートがやるって言ってたじゃねぇか。デブラてめぇだって解毒できない毒だとか言って闇市で仕入れてきたんじゃねぇか」
はぁ。ギルドだなんだと言っても所詮はこの程度か。
皆自分が助かりたい一心でアイザックとジンダーに罪を全て押しつけようとしている。
もういいや。
どうせ命を助ければ、今度は俺の事を警備隊や冒険者組合に通報するだろうし。
そうなったら後々面倒だ。
禍根は全て取り払わないとね。
アリシアのためにも。
俺は後衛の4人に手のひらを向けると、
青い小さな炎が無数に俺の頭上に浮かび上がると、俺の意思に従って後衛の4人に襲いかかった。
後は魔法師の時と同じだ。
着弾した青き炎の弾は一瞬で後衛4人を包み込み、激しく燃えだした。
周囲には肉が焼けた吐き気をもよおす異臭が漂う。
俺は4人が燃え尽きるまでその様子を目に焼き付けた。
罪で言えば死ぬほど重い罪ではない。
実際の首謀犯はアイザックで実行犯はジンダーなのだから。
それでも兄貴の死に際に、あいつらが俺たちに向けた嘲笑は許せなかった。
ただそれだけだ。
残るはアイザックとガリアンの2人だけ。
俺はガリアンに向き直る。
「あんたは命乞いをしないんだな?」
仲間の死の瞬間に、まるで
「ふん。冒険者なんていつかはどこかで死ぬ運命だ。それが今だっただけの話だ」
達観してやがるなと思いながらもガリアンだけは他のヤツらとは違うなと感じていると、背後でアイザックが動く気配を感じた。
「あぶない!」
咄嗟にガリアンが叫び危険を知らせてくれる。
振り向くとアイザックが左手にナイフを構え、俺の首に手を回してきていた。
さすがにここまで近づかれると結界魔法も効果はない。
俺はアイザックの左腕に左腕を絡ませると、関節を決める要領で一気に体重をかけた。
バキッと鈍い音がしてアイザックの左腕はくの字に折れ曲がる。
「うがぁぁぁ、くそッ。ガリアンどういうつもりだ!」
アイザックはガリアンに恨めしげな視線を向けてなじる。
「ふん。俺はアイザック、お前のそんな汚い所が気にくわなかったんだ。他の死んだやつらも同じだ」
俺は無様に地面に倒れ伏すアイザックとガリアンに視線を向ける。
なんだか兄貴とアイザックのやりとりと見ている気がする。
俺の中ではガリアンを殺すといった気持ちは消えていた。
さっき間一髪の所をすくってもらったしね。
俺はアイザックに手を向けると今度こそ魔法を発動させる。
選んだ魔法は
魔力を抑えるイメージをしながら放った赤い炎はアイザックに着弾するとジワジワとその肉体を焼く。
「うぇっ、熱い、あづい、だずげで、だのむ、うわぁぁぁぁ」
アイザックは苦痛にあえぎながら全身でもがく。
しばらく苦しんだ後にアイザックは完全に動かなくなった。
アイザックの顔は醜く歪んだ状態で時を止めていた。
嫌なもんを見ちまったな。
俺はアイザックの死の痕跡を消し去るために再度、青い炎で死体を焼き尽くす。
これで終わった。
俺は乗ってきた馬車に向けて歩き出す。
後ろにはまだ無傷のガリアンがいるが、あいつなら放って置いても問題はないだろう。
強面のわりに性格はよさそうだからな。
馬車に戻るとリスナーたちのレスがもの凄い勢いで流れていた。
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