第32話タケVS狂蛇の剣③
俺の体の表面には厚さ10センチにも及ぶ光の膜が張られている。
万一の事を考え、アイザックたちの馬車が来る直前に俺がかけた結界魔法が功を奏する。
「やっぱりあんたもグルだったんですね」
俺が言葉を吐き捨てると、狂蛇の剣の全員が驚愕の表情を浮かべていた。
「全員散開、魔法師だと――このやろう謀ってやがった。各員距離を取って攻撃しろ」
アイザックの指示で他のギルメンが俺から距離を取る。
近接戦闘を得意とするアイザックとガリアンだけは間合いから外れずに武器を構え直していた。
俺は他のメンバーにも聞こえるように大きな声で叫ぶ。
「俺の目的はキグナスの兄貴を殺した者への仇討ちです。無関係の人には手を出すつもりはありません。兄貴が殺された事を知らなかった人はこの場から立ち去ってください」
俺の最終勧告を聞いても当然、ここから逃げ出す者などいない。
アイザック、ガリアンの他に弓を構えている者が2名。
1名は杖を高らかに抱えている事からも魔法師だとわかる。
8名いる中で1名は力自慢の荷物持ち。
残り2名の短剣を構えているのが恐らくは盗賊と情報担当だろう。
俺は敵対する意思がなければ攻撃をするつもりは無かったのだが、しょせんはアイザックの同類か。全員武器を構えていた。
「何が立ち去ってくださいだ。てめぇこそキグナスの様に無様に死にやがれ!」
アイザックが上段に剣を構えると袈裟懸けに振り下ろす。
俺はバックステップでそれをかわすが、飛んだ先にはガリアンの槍が待ち構えていた。が、しかし、俺の脇腹を狙った矛先はまたしても光る盾に防がれる。
「くそッ、何だこりゃ全く当たんねぇぞ」
「ガリアン、足を狙え。ヤツの足さえ止めればあとは何とかなる」
「分かった」
アイザックとガリアンが俺と接近しているために魔法師は攻めあぐねている。
ガリアンがアイザックの攻撃と連係して足を狙ってくるが、それも俺の結界に防がれた。
「無駄ですよ。俺の師匠によれば俺の結界を貫けるのは高濃度の魔力がこもった魔剣くらいらしいですからね」
「くそッ、バケもんか、てめぇは――」
何度アイザックとガリアンが攻撃を仕掛けてきても結果は同じ。
「一度下がるぞ。ジンダーとエルダート、ベリーザは一斉攻撃しろ」
アイザックとガリアンが後方に下がると、今度は弓兵と魔法師の攻撃が始まる。
間髪入れずに降り注ぐ矢を俺は難なくかわし、歩いてアイザックを追う。
狂蛇の剣の魔法師が詠唱呪文を唱えて俺に火の玉が飛んでくるが、速度が遅い。俺は顔面目掛けて飛来する火の玉を、体をねじることで楽に回避する。
アイザックたちは荷馬車の中から何かの薬液を取りだし飲み始めた。
一体何を飲んでんだ?
まだポーションを飲むほど疲労した訳でも、ケガをさせた訳でもないのに。
薬液を飲み終えたアイザックの体が一瞬だけ青白く輝く。
「はっはぁ。これでてめぇはおしまいだ。今俺たちが飲んだのは仕入れたばかりの攻撃力をアップさせる能力強化剤だ」
薬液の効能をばらしながら再び俺に駆け寄ったアイザックは、くらえッと言いながら剣を横にすると突きの要領で突き出してくる。目にも止まらぬ速さで突かれた剣だったが、結果は――ギャイン、と虚しい音がするだけで効果はなかった。
さてと結界の効果も確認できたし、そろそろこっちの番だね。
俺は右手を兄貴の仇の弓兵に向けると、覚え立ての呪文を唱える。
「
「させるかぁ~!」
弓兵が狙われているのを邪魔するように、ガリアンが槍を突き出してくるが、無駄だね。
俺の手から発射された氷の刃はガリアンの矛先にかすり鋼鉄の矛先を粉砕。
そのままの勢いで弓兵へと迫った。
「ぐおあぇぁぁぁぁぁぁッ」
氷の刃が突き刺さった弓兵は、言葉にならない悲鳴をあげると一瞬で凍り付く。
「あぁ、こんなものか……じゃもう一度」
俺は氷の彫像と化した弓兵に再び下級氷魔弾を放つ。
武器を失ったガリアンは邪魔をしてこない。
再び放たれた氷の刃は弓兵に当たると――それを粉砕する。
「すげーなこれがバラバラ殺人事件なんてなッ」
「おのれ、よくも――」
アイザックが仲間を殺された怒りに震え、滅茶苦茶に剣を振るってくる。
ギャイン、ギャイン、ギャン、ギャギャ、キーン。
何度目かの攻撃でアイザックの自慢の大剣の刃は中程から折れてしまった。
「はぁッ?」
「すげーな。俺の結界。俺の時代がきたぜ」
呆気に取られて隙だらけのアイザックに対し、俺は右手を向ける。
「
俺の右手から放出された水流の太さは直径10センチ。
吹き飛ばされるアイザックに対し俺は徐々にその直径を狭めていく。
直径1センチをきった辺りから、その勢いは苛烈を極めアイザックの右手を切断する。
「――ぐわぁッ」
アイザックは
「さてと次は――」
俺がアイザックに止めを刺そうと
しかし結界に阻まれ、炎は一瞬で消し飛ぶ。
お返しとばかりにアイザックに使う予定だった
無数の青白い炎の弾が魔法師に着弾すると一瞬で青い炎に包まれ、後には灰だけが残っていた。
無傷なガリアンと他4名は腰を抜かしている。
俺は手のひらをアイザックに向けながらゆっくりと近づいていった。
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