第31話タケVS狂蛇の剣②

 俺に声をかけた御者席の男に見覚えがある。

 確か狂蛇の剣のナンバー2、大槍のガリアンだ。

 アイザックは大剣を武器にしているが、このガリアンはクソデカい槍を振り回し ゴブリン共を殲滅せんめつしていたのは記憶に新しい。

 背丈も兄貴とよく似ているが、イケメンだった兄貴と比べると悪人顔が印象的な男だ。

 そんな男が不審者を見る目つきで俺を睨む。


 いざ強面の男を前にすると、言葉が出てこない。

 先頭の荷馬車が止まった事で、後続の荷馬車も止まり何事かと乗っている冒険者が降りてくる。その中にはアイザックと兄貴を殺した弓兵の姿もあった。

 俺はガリアンを無視し、アイザックを睨む。


「てめぇ何シカトしてやがんだ?」


 ガリアンは苛立ち馬車から飛び降りてくる。

 兄貴ほどではないが、俺よりも10センチは身長が高い。

 アイザックからガリアンに視線の先を移した俺は、おびえを悟られないようにゆっくりと口を開いた。


「狂蛇の剣のみなさん、お待ちしておりました。私はギルドラフランのタケと言います」


 ラフランと名乗った辺りから、ガリアンの眉が跳ね上がるのを俺は見た。

 その頃になって後続の馬車から降りたアイザックたちも合流してくる。


「なんだ? こいつは」


「おめぇは確か――キグナスと一緒にいたもやしじゃねぇか」


 アイザックは馬車が止まった理由が俺にあると気づき、胡散臭いものを見る目で俺に話しかけてきた。


「ん? あぁ、良く見りゃそうだ。ゴブリン討伐戦で見たな。攻撃に参加もせずにチャッカリ依頼料だけもらってた臆病者か」


 ガリアンの言葉に背後にいるメンバーたちから笑い声があがる。

 俺は歯を食いしばると、昨晩考えた内容を話し始めた。


「ご無沙汰しております狂蛇の剣のみなさん。一週間ぶりでしょうか、今日こんな場所であなた方をお待ちしていたのには理由があります」


「なんだ闇討ちでもしよぉってかぁ? そんな格好で?」


 俺の格好はこの世界にやって来た時と同じ。

 ジーパンに赤のTシャツとフリースだ。

 とてもこれから戦おうって雰囲気には百歩譲っても思えないだろう。


「闇討ちだなんて、そんな物騒な事は考えていません。今は……ね」


「今はだってよ。ぎゃはははは。臆病者が一丁前に言ってくれるぜ」


「ガリアン、俺に代われ。で、ラフランの人間が俺たちに何の用だ? これでもBランクにあがって俺たちは忙しい身なんだ。用があるなら早くしてくれ」


 ふん。気取った言い回しなんかしやがって。

 商人や貴族相手の護衛を始めて言葉遣いまでお利口さんかよ。

 俺は用意していた言葉を続ける。


「実はキグナスの兄貴が死んだ後で、魔導具を使って死におとしめた原因を調べたんですよ。そしたら思いもよらない事実が発覚しましてね。今日はその確認と謝罪を求めてこんなマネをいたしました」


「はぁ、事実だぁ? 何を言っている」


「そんな魔導具聞いたこともねぇぞ」


「謝罪とはなんの事だ? うちのメンバーがやったと言い張るならその証拠も持ってきたんだろうな?」


 俺の言葉に敏感に反応したガリアンと弓兵が食ってかかる。

 アイザックはいまだに冷静に対応している。

 アイザックはこの件に関与していないのか、そんな気持ちが湧いてくる。


「信じられないのも無理はありません。でもね、あの時の様子を記録した魔導具がちゃんとあるんですよ。ここにね。今からギルドマスターのアイザックさんに確認してもらいますんで、もうしばらくお時間を頂戴しますよ」


 俺はジーンズのお尻のポケットからスマホを取り出しアイザックに見せる。

 前もって件の動画を再生待機中だ。

 怪訝そうな面持ちを浮かべアイザックが画面を見つめる。

 再生が始まるとアイザックの表情は驚きに変わった。

 アイザックが画面に集中している間も、その表情の変化を見逃さないように俺は観察を続けていた。

 たった3分程度に編集された動画だ。あっという間に再生は終了する。

 再生が終わってもアイザックの表情は変わらなかった。

 視線を俺に戻すとアイザックが口を開く。


「んで、これがどうしたって? 豆粒の様な人間は映っているがそれがうちのジンダーだと何で分かる?」


 スマホの動画では実際に米粒程度にしか人は映っていない。

 それでもアイザックには弓兵がキグナスに対し矢を放ったのが分かったらしい。

 俺は、下知は取ったとばかりにもう一枚の今度は画像を開いた。

 画像には弓兵の左肩に付いているギルドマークがはっきりと映し出されていた。


「これはさっきの姿見の時間を停止して拡大したものです。これはアイザックさんのギルドのマークですね」


 アイザックは映し出された画像を見ると、嫌そうに顔をしかめた。

 次の瞬間にアイザックの巨体がぶれたと思ったら背中に背負っていた大剣が上段から俺へと振り下ろされた。


 俺はまさかこんなに早く手を出してくるとは考えてもいなく、行動が後れる。

 剣先が俺の頭に当たると思われた瞬間――俺の周りを包み込んでいた見えない壁にぶち当たり、ギャイン、と甲高い音を残して剣を跳ね返していた。

 アイザックたち狂蛇の剣のヤツら全員が驚き目を見開く。


「やっぱりあんたもグルだったんですね」

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