第13話サラエルドの街
「ま、まさか。そんな訳ないじゃないですか。これでも二十三歳なんですよ」
未成年と間違えられるとはな。日本でだって補導されたことはねぇぞ。しかもこの人、マジで驚いてるし。日本人が海外へ行くと幼く見えるっていうアレか?
「ウソだろう。俺の一つ下かよ。タケ、おめぇどう見ても十四、十五歳位にしか見られねぇだろうに」
高校の時でさえ、この髪形のせいで未成年には見られた事はねぇよ。
「俺の国では年相応に見られてましたけどね。それより兄貴、サバよんでいませんかい? どう見ても三十過ぎに見えるんですけど……」
「誰が兄貴だ! それに俺はまだ二十四だ!」
それこそウソだろ。日本なら、三十過ぎで通るぞ。
「ふふふっ。楽しそうな話してるわね」
荷台で横になっていたアリシアが御者席に顔をのぞかせる。御者席に付けられているランプの明かりがアリシアを照らし出した。へぇ。さっき、あいさつされた時は暗くて気づかなかったが、銀髪でかなりの美人さんだったんだな。
やばっ、目が合った。こんなきれいな人と会話するチャンスなんてなかったからな。さすがに照れるぜ。顔が熱くなってきやがった。
「だってよぉ、タケの歳いくつだと思う? 聞いたら驚くぜ」
「あれだけ大きな声で話してれば、荷台まで聞こえてくるわよ。二十三でしょ」
「違いねぇ。なっ。驚きだろ。アリシアとタメなんだぜ」
「確かに、同じ歳にしてはチョット頼りない感じがするわね」
「ぐはははは。だってよ。タケ、残念だったな」
こんちくせう。言いたい放題言いやがって。しっかし、アリシアって美人だな。白人系の美女なんて画像でしか見たことはねぇぞ。すっかり見とれてしまったじゃねぇか。キグナスは絶対、俺の内心とか見透かしてんだろうな。茶化しすぎだろ。
しかも、愉快な事があるとすぐに俺の背中をバシバシたたくし。
――痛ぇよ。ったく。
でも、この感じ久しぶりだな。体育会系のノリはやっぱいいわ。学生時代に戻った感じがするな。以外と、キグナスとは気が合うかも知れねぇ。
会社では、先輩もこんな風には接してこなかったしな。まぁ、当たり前か。陰で俺の悪口とか言ったりしてたんだから。そんなヤツが、後輩とスキンシップなんて取れるはずがねぇ。
「よぉし。あと月一もあればサラエルドの街に到着するぜ。着いたらタケはどうすんだ? うまい食堂があんだよ。良かったら付き合え」
「兄貴、俺、金もってないですけど」
道中の会話で、この国の名前と時間の数え方は教わった。一般常識すら知らない俺にキグナスは、「おめぇの脳は五歳児か! そんな常識は一般市民でも知ってんぞ」と、呆れながらも詳しく教えてくれた。
この世界の名称はエンドロボス。
俺が今いる国はザイアーク王国と言うこと。
時間の数え方が特殊で、満月が顔を覗かせ、地平線から丸一個顔を出した状態を月一の時間。月が移動して、二個足した状態で月二。月三は月が三個分。そんな感じで、時間の計算は月が基軸となっている。
ここでは満月を十三個足せば、月出から月没まで到達すると考えられている。
正確に十三個で半日なら、一日は月二十六個という事になるが、季節によって誤差がでる。だから、月時間での約束事は大きくずれて当然なのだとか。大ざっぱだと思わずにはいられないが、正確な時計がなければそれも仕方がない。
地球でも、月出から月没までは十二時間の時もあれば、十四時間の時もある。このことから、この星と月の大きさ、距離の関係は似てるんだと思う。
話はそれたが、俺にとっては初の街だ。馬車に揺られながら心が弾む。よし、キグナスのポニーテールも弾んでるな。いや、それは違うか――。
ノートパソコンを出して動画でも撮ろうと考えたが、夜間で暗い上に揺れがひどい。リスナーには苦痛だろうと考えて動画は諦めた。
俺のスマホの時間にして、一時間十分後、馬車は予定通りに大きな市壁のある街へ到着した。あと月一の時間遅かったら、閉め出しを食らう所だったらしい。
この世界の時間感覚はそうとうヤバい。俺はスマホの時計を使う事にしよう。
少し時間に遅れただけで、野宿とか、店が閉まってるとか虚しすぎる。
既に日が落ちてる事から街への往来は少ない。入場の際に、俺の事でちょっとあったが、俺たちは無事に街の中へ入れた。門を潜ると、石畳の路地があった。そこをガチャガチャと音を鳴らしながら進んでいく。
「いやっほぉい! 無事に街までたどり着けたぜ。よし、坂の上の林檎亭もまだ開いてるな。にしても、タケ。魔石持ってるなら早く言えよ。アレだって売れば銀貨一枚になるんだぜ」
キグナスが言ってるのは、俺が入門の際にバッグから出したスライムの魔石の事だ。林の中で唯一拾ったあのスライムの魔石。実は高価ではないが、小銭と同じ扱いでもなかった。そもそも、スライムとゴブリンからはめったに魔石は落ちないらしい。Dランクの魔物から魔石は落ちるらしいのだが、Eランクのゴブリンとスライムから魔石が落ちる事はかなり希少なのだとか。
落ちた場合は、Dランクの魔物の魔石と同額で交換できるらしい。
スライムをあれだけ倒して、ドロップは魔石一個。その時は、運の悪さを呪ったが、実は幸運だったようだ。あんなビー玉にしか見えない玉に価値があると言われてもね……信じられねぇけどな。
そんな訳で、入門税の銅貨五枚をキグナスに立て替えてもらう代わりに、魔石を渡した。今日の飯代と宿代はキグナスのおごりらしいので、俺に否はない。
キグナス、最初はヤバい人だと思ったが、マジいい人だわ。
外灯の明かりがともる路地を進むと、小さな一軒家を五つ繋げたような大きさの店が見えてきた。店の中は明るく、人も大勢いるようだ。
「あのデカい店が坂の上の林檎亭だ。食事処と兼業だからよ。ガッツリ食うぜ」
キグナスが嬉しそうな声で案内してる。俺も、初めての宿がショボい感じじゃなくて安心だよ。こりゃ飯も期待できるかな。
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