第3話運営からのお知らせ

 さすがに参ったな。知らない場所だとは思ったけど、まさか、本当に異世界だったとは。側に転がっている、ゴブリンの亡骸が現実だと教えてくれる。


 何とか倒せたから良かったけど、大勢に囲まれたら洒落しゃれにならねぇぞ。

 とりあえずバッグの中身を確認するか。中には、ノーパソの充電に使うソーラーパネル。そして、スマホとタオルが入っている。よし、壊れてはいないな。


 リスナーに断って、一度配信を切るか。


「ふぅぅぅ、WooTobe。イエス、イエス、イエス。ちょっと悪いんだが休憩だ。また後でLIVEするからよろしくなっ。イエス、イエス」


 LIVE配信を切ると、俺は思考を巡らせる。まずここが異世界なのは確実だ。 で、大切なのは、チートがあるのかって事だな。本当になんの能力もなくこの世界にきちまったんだとしたら――ぐはっ。考えたくもねぇ。


 ラノベでは、視界の隅っこにアイコンとかあったけどねぇしな。

 アレか。後で、神様が授けてくれるってヤツ。でも、そんな気配すらないな。

 試しにノーパソのメールブラウザーを立ち上げてみる。うん、チェーンメールしかきてねぇ。ていうか、なんでこんなに多いんだよ。迷惑な。

 これじゃ、一般人と変わりはないじゃん。お約束はどうした。異世界っていったら、チートで俺、強ぇぇぇぇぇだろうに。

 このままだと――金なし、身寄りなし、職なし、技術なし。うっは。詰んだ。ここで農民でもしろと。下手したら、農民の方が、田畑を耕してるだけマシじゃね。

 ボディーチェックをしてみる。うん、日本にいた時と、変わった所はない。


 クソッ。ここでボケッ、としてても始まらねぇ。またLIVE配信でもしながら、人の居そうな場所でも探すかな。一人より皆がいた方が気は楽だし。

 そう思って、WooTobeの公式ページを開く。すると、WooTobe公式ページに運営からメッセージが届いていた。

 おいおい、まさか、さっそくさっきのLIVEで規約違反とかじゃねぇよな。ここでアカウント警告とか、アカウント削除とかだったら泣くぞ。


 点滅しているベルマークをクリックすると――。

 ん、なんだ、これ。


『長田 武郎様

異世界への転移おめでとうございます。

当社の配信者の中から厳選なる抽選の結果、長田様が当選いたしました。

ファンタジー小説で良くあるチートは初期の段階ではございませんが、長田様が配信される動画の収益に応じて下記の様な得点と交換する事ができます。この機会に8000万の配信者の頂点を極めてみてはいかがでしょうか。

今後の長田様のご活躍、遠い地球からお祈りしております。



交換できる景品


100p:たばこ(お好きな銘柄)

100p:おにぎり(梅、ツナからどれか1つ)

100p:お飲み物(自販機で良くあるものいずれか)

100p:洗顔セット(洗顔料とひげ剃り用カミソリがセットになったおすすめ品)

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

500p:果物ナイフ(量販店で販売されている普通のナイフ)

………………………………………………………………………………………………………

1000p:寝袋(山損のタイムセール品)

…………………………………………………………………………………………………………

5000p:包丁(名刀 土岐長政作の良く切れる包丁で鍛え抜かれた一品)

…………………………………………………………………………………………………………

10000p:異世界の剣(一般的な異世界の剣で街で流通しているもの)

…………………………………………………………………………………………………………

100000p:下級魔法(属性と種類はランダム)

1000000:中級魔法(属性と種類はランダム)

10000000p:上級魔法(属性と種類はランダム)

100000000p:ワールド級魔法(属性と種類はランダム)

1000000000p:神級魔法(属性と種類はランダム)

10000000000p:エリクサー(死んだ人でも生き返る薬-死後8時間以内-)


※注意事項①……1人のリスナーからの投げ銭の上限は100000pとします。

     ②……魔物を倒してもポイントは入りますが、トドメを刺した場合のみ。

     ③……広告収入は1再生1pです。


現在のWooTobeポイントは100pです』


「はぁッ――」


 思わず愕然としてする。その内容に、頭から一気に血が引く感じがした。

 それもそのはず。俺がこれまで稼いだ金額はゼロだ。そう、ゼロ。

 リスナー一桁。再生数だって動画一本当たり平均十から二十回。もし、ここに書かれているのが正しければ、魔法を覚えるのに必要なのは十万ポイントになる。

 今あるポイントは恐らく、ゴブリン一匹を倒した時のポイントだ。と、すると――最低でもゴブリン千匹を素手で倒さなければいけない。あ、終わった。


 注意書きを読む限りでは、リスナーからのおひねり(投げ銭)のあるのは助かる。だが、仮に大金持ちのリスナーが付いたとして、一名につき最大ポイント十万だ。一種類の魔法を覚えられるだけじゃねぇか。しかも、一名の上限と書いてあるという事はだ、一回の配信でもらえる額ではないはず。同じ人が百万とかは与えられないって話になる。


 異世界で魔術師を目指したとして、投げ銭をあてにすれば少なくとも上限である十万の百倍。一千万ポイントは必要だよな。雑魚魔法師じゃ、意味がねぇ。


「一千万なんて不可能だろうよ」


 俺の愚痴は、広大な草原に吹く風にかき消された。なんか虚しくなってくるな。

 しばらく画面を見つめ続けた俺は、発想の転換を行う。

 考えてみれば、異世界から動画を配信するのは俺だけだ。なら、世界初には違いねぇ。ここから動画配信を続けるだけで、リスナーはウナギ登りに上がるんじゃ?

 人気者の配信者だって、何かに特化した動画から始まってる。なら、異世界動画を配信する俺は、注目の的じゃん。うっはぁぁぁぁ。

 何で気づかなかったんだろ。俺、もしかしたら勝ち組になれるんじゃね?


「そうと決まれば、まずはさっきまでの動画を編集すっか」


 俺は、林の中で一人黙々と動画編集をする。この先に訪れるであろう、勝ち組に期待を膨らませて。思わず顔がニンマリしてしまっている。


「よぉぉぉし。編集終了っと。んじゃ、さっそくアップロード」


 タイトルは底辺WooTober異世界へ行く。


「よしよし。これでリスナーが増えれば……勝ち組だぜ。あっはははは」


 これで簡単に稼げるとは思っちゃいねぇが、ここは前向きにだな。


「にしても、腹が減ったな。最低でも飯代くらいは稼がねぇと」


 ゴブリンを倒して百ポイント。って事は、あと三体倒せば――おにぎり三個とジュースがもらえる。ふふっ。


 俺はバッグを背負い直すと、ノーパソ片手に森へと向かう。なに、多対一で戦う必要はない。コツコツ一体ずつ倒してやるよ。

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