第4話景品交換
「あぁ、腹が減った。この際、おにぎり一個でも交換すっかな」
森へ向けて歩き出した俺は、度々なる腹の虫にイライラしていた。大阪城で撮影が終わったら、食事にしようと後回しにしてたからな。失敗したぜ。
ゲスト:おい、タケちゃん。いつものテンションはどうしたよ。そんなんじゃつまんねぇままだぞ。
ゲスト:そう言ってやるなよ。タケちゃんだって必死なんだぜ。きっと。
ゲスト:ところで概要欄見たんだけど、あれマジで言ってんの?
ゲスト:あぁ、それ俺も見たわ。投げ銭がポイントに交換されて、魔法を覚えるとかいうやつだろ。
ゲスト:タケちゃんもついに詐欺師になったのか。落ちる所まで落ちた感じだな。
ゴブリンVS俺の動画をアップロードした時に、概要欄に書いた運営からのお知らせの件だな。リスナーから詐欺師扱いとは――泣けるぜ。
ちなみにまだリスナー数は変わらず三人だ。この三人が投げ銭してくれるとは思えないが、居ないよりはいい。俺も一人で林の中には居たくねぇからな。
「ふぅぅぅぅ、WooTobe。イエス、イエス。リスナーの皆、概要欄に記載したのはマジな話だぜ。こんな事なら朝飯抜かすんじゃなかった。おぅのぉ」
ゲスト:大阪城から田舎に移動したのは分かるけどさ、あのゴブリンだけで異世界って決めつけるのは……どうなんだ?
ゲスト:上の人の言うとおりだぞ。せめて馬車とか城壁でも見せられればな。
ゲスト:俺は信じるよ。さっきの子供は確実に死んでたからな。
あれだけで信じてくれって言っても無理か。大阪城からどうすれば一瞬で田舎に来られるんだ。ちっとは考えろよ。アレがLIVE配信じゃなければ疑われても仕方がねぇ。でも、生だぞ。生配信。普通に考えられねぇだろうに。
ああ、腹立たしい。腐っちまうぜ。
LIVE配信のメリットは、配信者とリスナーの交流だろ。ウソやごまかしのない自分を見せることで得られる信用とかさ。それがどうだ。詐欺師だぞ。
後からアップロードした動画だけを見た人なら、シーンのつなぎは可能だけどよ。ここにいるリスナーは全員、LIVE配信で見てんじゃん。
特撮とか、動画を編集して場所をジャンプさせてる動画は確かにあるさ。編集のうまい人はよくやる手だからな。でも、生配信でこうまで否定的だとはね。
ゴブリンがやって来た方角、森に近づいたがゴブいねぇな。クソッ。やっぱ腹減ってるとダメだな。短気になっちまって。
ゲスト:ねぇ、タケちゃん。お金がほしいなら――俺が恵んであげようか? 五〇円だけどなぎゃはははははははは。
ゲスト:俺も施しをあげてもいいけどさ、何か見返りがないとなぁ。
ゲスト:投げ銭してあげたいけど、今月ピンチでさ。ごめんねタケちゃん。
うん。二人から五十円ずつもらえば、少なくともおにぎり一個は手に入る。さっきのゴブリンの百ポイントでジュース交換すりゃ、少しは腹の足しになるじゃん。
「ふぅぅぅぅ、WooTobe。イエス、イエス。リスナーの皆、ここが異世界で概要欄の内容が事実だと証明しょう。俺って賢いWooToberだからな。イエス、イエス、イエス」
ゲスト:ついにタケちゃんが狂ったぞ。
ゲスト:まぁ、あるわな、ねぇよ。
ゲスト:で、タケちゃんは何を思いついたんだ?
二名ほど茶化してるヤツがいるが、これを見れば考えも変わるはずだ。
「ふぅぅぅ、WooTobe。イエス、イエス。リスナーの皆、良く聞いてくれ。俺はさっき倒したゴブリンの収益百ポイントを使って――ジュースを出す。それを見ればポイント交換ができたって信じられるだろう? イエス、イエス」
ゲスト:うん、まぁ。確かに突然ジュースが現れればな。
ゲスト:よし、タケちゃん。はよ、見せてみろ。
ゲスト:どんな風に出てくるんだろうね。チョットだけ期待しちゃうな。
フフフ、皆の反応は上々だな。LIVE配信中に他のサイトを開くのはノーパソの性能的にギリギリだ。なんせ裏で録画もしてるからな。だが、ここで立ち止まるわけにはいかねぇ。やってやろうじゃねぇか。
「じゃあ行くぜ。よぉく見てろよ」
俺はサイトの交換画面からジュースをクリックする。よし。ちゃんと残高ポイントもゼロになった。やっぱ宙から落ちてくるとかかな。ワクワクしちゃうぜ。
だが、何も起きなかった。あれれ……。
「げっ、ウソだろう。ちゃんとポイントは減ったぜ」
ゲスト:何やってんだよ。はよぉ、ジュースはよぉ。
ゲスト:ぎゃははははは。ウソがバレてタケちゃん赤面ってか。ぐはは。
ゲスト:タケちゃん――残念だよ。
「いや、そんなはずは――確かにポイントは減ったんだよ。いや、マジ」
ゲスト:分かった。分かったから。ぐふッ、がははははは。
ゲスト:上の人笑いすぎだから。あぁ腹いてぇ。ぷぷっ。
えっ、なんで。俺は上着のフリースのポケットを探るが何もない。もしかして、バッグの中なのか。そう思って、ノーパソのカメラにバッグを映し出す。よし、バッグのファスナーを開くと――おっ、あった。そこにはキンキンに冷えた激甘桃の飲料水五百ミリリットルが入っていた。
おぉ、さすが交換したてだな。外気に触れて霜まで付いてるよ。これで信じてもらえるだろ。俺は勝ち誇った顔で、バッグからそれを取り出した。
「どうだ。あったぜ皆。これで俺が正しいって証明できただろ」
皆にもよく見えるように、カメラに近づけ撮す。チャットが一瞬止まる。
ゲスト:おおおおぉぉぉぉ、マジかよぉぉ。
ゲスト:まさか本当に出てくるとはねぇ。
ゲスト:良かったね。タケちゃん。
だが、レスが一巡すると違うコメントが流れ出した。
ゲスト:なんて言うわけがねぇだろ。ボケが。何が異世界だよ。どうせ配信を停止してる間に買ってきたんだろ。ウソばっか付いてると誰にも相手にされねぇぞ。
ゲスト:まぁ、お約束ってヤツだな。手品でももっとマシなトリック使うわ。
ゲスト:タケちゃん、俺は信じてるからね。
何でだよ。何でいつもこうなる。
会社でゲームをやってたのがバレた時だってそうだ。俺以外にもみんなやってたじゃねぇか。入社して少ししてから、定時できっちり退社する方法だと。俺に教えたのは先輩たちだぜ。俺が社長に呼ばれた時だって、先輩はやってたじゃねぇか。
俺がやることは全部裏目に出ちまうのか。そういう運命だっていうのかよ。
こうなったら意地でもWooToberのトップに成り上がってやるよ。
誰も見下せねぇくらいの大物にな。
ヤジを飛ばす二名を見て俺は決心したぞ。ざけんな。これからだよ。まだ俺は終わっちゃいねぇ。これから始まるんだ。
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