エピソード7 旅は道連れ情け無用
俺達は今、大家さんの前で並んで正座をして説教をされている最中だ。
なんで俺まで一緒に怒られなくちゃいけないんだ。むしろ俺は被害者なんだぞ、一夜にして家と全財産を失ってしまったんだぞおおおお。
「いいかよく聞け魔女よ。あのアパートは先祖代々、我がダルクシュバイツ家に伝わってきた由緒正しきアパートだったのだ。それを……それを、私の代で失うなど……騎士の名折れだ……。私は、ご先祖様にどう顔向けすればよいのだっ!」
「いやあの、大家さんの名前って木紫藤すみれさんでしたよね?」
「田中さん、その名前は世を忍ぶ仮の名です。私の本当の名前は、スミレニア・ミレーヌ・ダルクシュバイツ。ダルクシュバイツ家の現当主にして、先祖代々300年に渡りあのアパートを守り続けてきた騎士の家系なのですっ!」
へー、なんかすごい肩書きに聞こえるけど、城じゃなくてアパートを守ってきたの?
鼻息を荒げて説明をする大家さんを見上げながら俺の横でパラムがくすりと失笑した。
「ぷっ、アパートを守ってきたんですか? 騎士の家系が? くすくすくすー、なんだか随分と俗世間的な貴族ですねーwwww」
「貴様っ、騎士を侮辱するか! ええいっ! 今ここで私はおまえに決闘をもっ」
「ちょっと待ってください大家さんっ!」
懐から取り出した白いハンケチーフを地面に投げつけようとしたところで俺は大家さんを止める。そんな古典的な決闘の申し込みなんてつまらなすぎるだろ。いやそうじゃなくて、決闘は犯罪ですよ。なんか頭のおかしい魔女と女騎士がいるけれど、ここは一応群馬県なんだから、日本の法律が適用されるはずだからね。
「本当にすみませんでした! 俺が、一生かけて働いて弁償しますからっ、どうか今はその怒りをお納めくださいっ!」
「何を言うのですかかずきさんっ! その決闘受けてやりましょう。この私の魔法であんな脳筋女騎士なんて消し炭にしてやりますよ」
こいつ、マジでなんも反省してねえ。こいつには良心と言うものはないのか? 善悪の基準が虫レベルに低すぎるだろ。
得意気に言うパラムであったが、俺はパラムの頭を鷲掴みにすると思いっきり地面に擦りつけて一緒に頭を下げさせた。
「いたたたたたっ! なにをするのですかかずきさんっ! こんな奴に頭を下げる必要なんてないですよ!」
「うるせえっ! おまえの所為で大家さんだけじゃなく、あのアパートの住人が全員家を失ったんだぞっ! 嘘でもいいから頭を下げろっ! じゃないと、その無限の財宝とかいうやつ一緒に探しに行ってやらねえぞっ!」
別にまだ一緒に探すとも言ってはいないが、とりあえずこいつに少しでも反省の色を出させようとそう言ってみるのだが、パラムは急に抵抗するのを止めた。
「なるほど……その手がありましたね。いいでしょうっ! でしたら女騎士、おまえも一緒に私達と無限の財宝を探しに来なさいっ!」
その言葉に驚き、と言うか呆れて俺が手の力を緩めると、パラムはガバっと頭を上げ立ち上がると二~三歩後ずさった。
「田中さん、あの魔女は一体全体何を言っているのですか?」
「いや、俺にも何を言いだしたのか全く理解できません」
俺と大家さんが怪訝顔をすると、パラムはくっくっくと薄気味悪い笑い声をあげた。
「無限の財宝さえあれば、欲しいものはなんでも手に入ります。あんな夢こんな夢大体叶えてくれる秘宝ですからね」
「いやいやいや、嘘吐くんじゃねえよ。て言うかそれなんなんだよ? 人の命が救えたり、全焼したアパートが元通りになったりするのか? 風呂敷か? タイム風呂敷なのか?」
「違いますよ。無限の財宝は錬金術の究極の進化と呼ばれている物です。錬金術師及び、魔法使い達が長い長い年月をかけて追い求めてきた。錬金術の集大成、命を生み出す賢者の石をも超えるもの、進化の秘宝とも呼ばれているものなのです。遡れば一万年もの超古代に記されたという、聖者の書にもその名が記されており」
なんだかやたら話が長くなってきたので、とりあえず細かい説明はまた今度聞くからとパラムを止めて、俺達が今どういう状況に置かれているのかを掻い摘んで大家さんに説明することにした。
最初は疑わしい目つきで俺の話を聞いていた大家さんであるが、顎に手を当て考え込んむとようやく口を開く。
「にわかには信じがたい話ですが……。」
「えぇ、俺だって正直信じてないですけど。けど、ここまで来たからには、とりあえずパラムの言う通りにしてみて、それでもしこいつが嘘を吐いていたとわかれば」
「嘘じゃないですよっ!」
「嘘を吐いていたとわかれば、警察に突き出すつもりです」
パラムのことは無視してそう言うと、大家さんは大きく頷いた。
「いいでしょう。もしも万が一その話が本当であったら、田中さんは一ヶ月後に亡くなられてしまう可能性があるということですし。もしも万が一その魔女の言っていることが本当であったなら、私のアパートも元通りになる可能性が、100万パーセクくらいはあるということですよね」
それって最早ないにも等しいんじゃね? と言うツッコミは置いといて。
大家さんが俺達と一緒に行くことを承諾すると、パラムは杖を振り上げて声をあげた。
「そうこうしている内にだいぶ時間が経過してしまいましたね。残された時間はほとんどありませんから急ぎますよっ!」
「なんでそんなに急ぐ必要があるんだよ?」
まだ一日も経っていないはずなのだが、なぜそんなに焦る必要があるのか。
するとパラムは神妙な面持ちで俺に告げた。
「ここには特殊な結界が張られている所為で時間の流れがゆっくりになっているのです。ここでの一時間は外の世界だと約1日と変わらないのです」
な、なんだってええええええええっ!?
つづく。
魔法のパラムと無限の財宝 あぼのん @abonon
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