エピソード4 マジカルガール・小屋マダム
パラムが小屋のドアを三回ノックすると、少し間を置いて中から声が聞こえた。
「誰だいっ!」
しゃがれた声であるがそれが女性であるとすぐにわかった。
「パラムです」
パラムが答えるのだが返事はない。俺が視線を送るとパラムは困ったような表情で少し笑うのと同時、キシキシと軋む音が聞こえると小屋のドアが少し開いた。
パラムがドアを開けて二人中へと入って行く。小屋の中は薄暗く埃っぽかった。6畳ほどの部屋の中央には長方形のテーブルが置いてあり。フラスコやらビーカーやら、そしてよくわからないものが散乱している。更に奥、一人掛けのソファーにゆったりともたれながらこちらを見ている老婆がいた。
少し驚いて声をあげそうになるも俺はなんとかそれを抑えこむ。パラムが一歩前に出ると老婆に向かって小さくお辞儀をした。
「おはようマダムポッピヌ」
「おはようパラム、身体の具合はどうだい?」
「今日はとっても調子がいいみたいなの」
「それはよかった。でもちゃんと薬は飲まないといけないよ。いつまた悪くなるとも限らないんだからね」
老婆の言葉にパラムはうんと頷いた。こいつ、どこか悪いのだろうか? なにか持病があるのか? まあなんにしても出逢ったばかりでよくわからないこいつのことを、俺は少しずつだが気になり始めているのであった。
「その小僧がおまえの言っていた奴かい?」
「はいマダム」
「そうかい……。おい小僧、名は?」
老婆は俺の方へ向き名前を聞いてくる。先程までのパラムに見せていた優しげな表情から一変、敵視するようなそんな視線に感じられた。
「は、初めましてマダム。た、田中かずきです」
なんだか妙に威圧感があるので畏まってしまう。そんな俺の様子を見てパラムが場の空気を紛らわそうと明るい口調で話し始めた。
「そうだマダム。今日は天気が良いからこの後、森を散歩なんてどう? かずきさんも一緒に三人で」
「パラム、そんな時間はないだろう? その小僧は後一月で命が尽きてしまう、だったら早くおまえの目的を果てしてきな」
マダムポッピヌの言葉にパラムはしょんぼりした様子で返事をした。
この老婆も俺の命が後一ヶ月だと知っているのか、て言うかその部分がよくわからない。なんで俺の命があと一ヶ月で終わってしまうだなんてこいつらが知っているんだ。いきなりそんなことを言われても信じられるわけがないだろう。
「あのぉ、そのことなんですけど? 俺が一ヶ月で死んでしまうってのはどういうことなんでしょうか?」
恐る恐る聞いてみるのだが、マダムは俺のことをギロリと睨みつけるとパラムの方へと向き直った。
「パラムおまえ。この小僧になにも説明していないのかい?」
「し、したよちゃんと……。あと一ヶ月で死んじゃうから、その……私と一緒に……秘宝を探しに行こうって……」
「あんた、また嘘を吐いたんだね?」
また嘘を吐いただと? なにを言っているんだこいつは? 秘宝ってなんの話だ? 子孫を残す為に子作りをしようって話はなんだったんだ?
「ちょっと待て! 秘宝ってなんだ秘宝って? 初耳だぞ? 子作りがどうこうって話はなんだったんだよ?」
俺が詰め寄るとパラムは視線を逸らしながら、「はて? なんのことやらぁ……」と小さな声で言った。
おいおいおい待て待て待て、なにがなにやらもうわけがわからんぞ。なにかしらの理由で、こいつは俺のことを騙してここに連れて来たっぽいが、一体なにがしたいのかさっぱりだ。
「いい加減にしろっ! ちゃんと説明しろよ。一ヶ月後に死ぬってなんなんだよっ! なんの説明もせずにいきなり子作りしようだの言われて家を燃やされて、あげくの果てに群馬の山奥に拉致されて、一体俺がなにしたってんだよっ!」
ついに我慢の限界を迎えた俺が怒鳴ると突然頭に強い衝撃が走った。あまりの痛さに俺は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
「大声を出すんじゃないよっ! 次に怒鳴り声を上げたらこんなもんじゃすまないよっ!」
頭を押さえながら見上げると、老婆が木の杖を振り上げながら叫んでいるのであった。
「かずきさん。あなたが一ヶ月後に死んでしまうというのは、本当のことなんです」
しばらくして落ち着くとパラムが説明を始める。それが嘘であろうがなんであろうが、こいつらの真意を確かめる為に俺はその説明を黙って聞くことにした。なによりババアに頭をぶん殴れるのが怖かったので、とりあえず聞くことにしたっ!
「どうしてそんなことがおまえにわかるんだよ?」
「かずきさん、あなたは13年前に川で溺れて入院していたことがありますよね?」
その言葉に俺は仰天した。
嘘だろ? どうしてこいつがそれを知っているんだ? 確かに俺は13年前、7歳の時、夏休みにばあちゃんちに行った時だ。近所の川で遊んでいる時に、溺れて死にかけたことがある。
「な、なんで? どうしておまえがそれを知ってるんだよ?」
「その時、一緒に遊んでいた子が居たことを覚えていませんか?」
なんのことだ? 一緒に遊んでいた子? そんな奴いたっけ? 俺には兄弟もいないし、その時は従兄弟もいなかったよう気がする。
「おまえ……なにを言って? それってまさか、おまえの……」
俺が聞くよりも先に、パラムは真剣な眼差しで俺のことを見つめると重い口を開いた。
「その時、一緒に居たのが私です。そしてかずきさん……。あなたは13年前のあの日、一度死にました」
つづく。
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