誰と一緒に来たの?

プラティア ヴィオレット


「いらっしゃい」


店のドアを開ければ、やや落ち着きのある声が聞こえた。


「なんだ。アーネストじゃないか」


二人を迎えたのは、燕尾服を着た茶髪に明るい翡翠の瞳をした若い男性だった。

口ぶりからして、アーネストの知り合いのようだ。


「やぁ。何だか冷たいね」

「だって君、ここに来る割にはあんまり注文しないんだもん。そういうの営業妨害って言うんだよ?」

「それはすまないね。ここの雰囲気がすごく気に入っていて、つい時間を忘れてしまうんだ」

「全く。そうやって世の女性たちまで口説いてるのかい?」


男とアーネストの間で繰り広げられる、棘があるようでどこか楽しげな軽口。

気の知れた友人なのだろうと感じた。


「ジョエルは?」

「彼は私と違って、忙しい身分だからね」

「確かにね。後ろにいるお嬢さんは?」


男があかねの存在に気付くと、アーネストは姿が見えるように左横に並んだ。


「彼女は桜空あかね嬢。オルディネの未来のリーデルさ」

「へぇ!これまた予想外の人物の登場だ」


目を丸くし、男は興味津々な眼差しを向ける。

一方のあかねはその視線に耐えかねているのか、困惑の表情を浮かべた。


「アーネストさん。まだ決まったわけじゃないんですよ」

「ふふ。少しくらいプレッシャーがあってもいいんじゃないかな」


あかねの心情を察してはいるものの、悪戯な笑みを浮かべるアーネストは、この状況を心底楽しんでるようだった。

そんな様子を見て溜め息を吐けば、彼は更に笑みを零して男の方へ視線を向ける。


「こちらも紹介するよ。彼はこのヴィオレットのオーナーにして、有名な占い師で愛妻家の沖田くん」


紹介された沖田(おきた)は、あかねに優しく微笑む。


「よろしくね。あかねちゃん」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「ところで、奥の部屋は空いてるかな?」


挨拶を終えたのを見計らい、アーネストは催促すると、湊志は勿論と返して、店奥へと促す。


「まだお昼になったばかりだから、そこまで混んでなくてね」


湊志の声を聞きながら、店内を見渡せば、まばらではあるが席が埋まっており、それぞれが穏やかに過ごしている印象だった。

加えて外観に比べると、内部はかなり広く見え、店を彩る装飾を見ながら隠れた名店という立ち位置ながら、高級レストランとも思えたるほど、全体的にゆったりとした雰囲気が流れていて、品のある店だと感じた。


「あ」


店内を観察していると、見覚えのある姿を見つけ、あかねは思わず駆け寄る。


「しろちゃん」


声を掛けると、振り向いた司郎は驚いた表情を浮かべる。


「!あかね。何でここに……学校は?」

「今日は早帰りで。しろちゃんは?」

「仕事の合間に寄り道。ここのランチ美味しいから」


司郎の服装を見れば、灰色のスーツに紺色のチェックの入ったネクタイを身につけた堅苦しい装いだった。

本当に仕事の合間に来ているのだろう。


「君は誰と一緒に来たの?」


不意の問い掛け。笑みを浮かべながらも、その瞳はあかねをしっかり捉えいる。

ここにいる理由を告げてはいないはずだが、誰かと来ていると判断しているところに、あかねは感心すると同時に気まずさを感じていた。


「クラスの友達」

「本当に?」

「何で?」

「ここは学生が来るようなとこじゃないし、行くところでもないから。俺には言えないヤツと来てるの?」

「そういうわけじゃないけど……」

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