何かを大切に思う気持ち
それは何とも、ありがた迷惑な話である。
あかねは心の内で、悪態をつく。
「オルディネが解散の危機である理由は聞いたかな?」
「確か人材不足うんぬんって」
「そうだね。それが一番の理由だ。では何故……人材不足なのかは分かるかい?」
突然の問いに頭を捻る。
異能者社会の仕組みを全く知らないわけではないが、チームというものを完全に理解できてないあかねには難しい問いだった。
ただ話の流れから汲み取って、自分なりにまとめた答えを口にする。
「……リーデルがいないからですか?」
どうやら正解だったのだろう。
アーネストは苦笑している。
「そうなんだ。さっきも言ったと思うけど、リーデルとはチームの象徴。誇るべきモノがないチームに、誰が進んで入りたいと思うかな?」
「なるほど」
象徴がないという事は、いわば明確なもの、ビジョンがないとも取れる。
身の安全を第一としてチームに所属する異能者がいたとして、確かなものがないということはそれだけで不穏因子だろう。
敬遠するのは至極当然な行為だろう。
進んで危険を冒す者がいないのと同じように、オルディネに所属しようと考える者はまずいない。
「本来ならば……リーデル不在のチームなどあってはならない。それでもオルディネが今日まであり続けているのは、紛れもなくジョエルのお陰だ」
「ジョエルの?」
「彼は異能者の中で、五本指に入る実力者だからね。発言力もそれなりあるんだ」
その言葉に、司郎からジョエルは五指の一人だと言われたのを思い出す。
「リーデル不在となってから、オルディネの解散は何度も審議に掛けられていた。これはあくまで推測だけれど、その度にジョエルが協会側を説得していたのだと思う」
「…………」
「まぁ…彼の様子を見る限り、それももう限界なのかも知れないけど、ね」
どれくらいの期間かは知らないが、ただ一人の説得では、いずれ限界が来ることは想像に容易い。
それでも守りたいものなのだろう。
「……ジョエルにとって、オルディネは大切なものなんですね」
話を聞いて、あかねは思った事を口にした。
それ対してアーネストは不思議そうに目を瞬かせる。
「どうしてそう思うんだい?」
「ジョエルのしてる事って一見横暴だし褒められたことじゃないけど、それは全部オルディネの為にしているとしか思えなくて」
自分をリーデルにする算段も、オルディネを解散の危機から救う為の行為であるなら、合点はいく。
だからと言って、彼に騙された事には変わりはなく、納得はしていない。だが。
「何かを大切に思う気持ちは、悪い事ではないと私は思います」
――私にだって大切に思うモノがある。
――それは素敵なこと。
――それだけ人は頑張れる事を知っているから。
「でもだからこそ、彼に説明してもらいたいんです。そうでなくちゃ、分かるものも分からないし、出来る事も出来なくなっちゃう」
立ち上がって挑戦的な笑みを浮かべて言えば、アーネストは目を丸くした後、優しく微笑んだ。
「あかね嬢。君は素晴らしい娘だね。その前向きな姿勢、とてもいい」
アーネストは視線を合わすように屈んで、あかねの頭を優しく撫でた。
「余計な事かも知れないけど、君はリーデルの素質が十分にある」
「そうですか?」
「沢山のリーデルを見てきた私が言うのだから、間違いないよ」
「ふふ。ありがとうございます」
微笑むと同時に、ノック音が聞こえた。
駆け寄ってドアを開ければ、そこには結祈の姿があった。
「失礼致します……入っても宜しいでしょうか?」
「うん!どうぞ」
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