好奇心というものは、時に人を殺すものだ

間違いどころか的を得た答えに、あかねは睨みつけるかのように、ジョエルを見つめる。


「まぁ何であれ、オルディネには必要なのだよ。異能さえも模倣する事が出来る、稀有な能力を持つ君がね」


ジョエルの口から零れた事実に、あかねは目を瞬かせ、貼り付けた笑みを浮かべる。


「そんな事も知ってたの?」

「ああ……以前、君と同じ能力を持つ者がいたからな」


ジョエルはそう言って立ち上がると、机の棚を開いて何かを取り出す。


「お嬢さんは、案外知りたがりのようだな」

「知らないことがあったら、知りたいと思うのが普通でしょ」


例えば自身に起こっている事なのに、周りが知っていて自分だけ知らない事があるのは、不平等であるからだ。


「好奇心旺盛なのは結構な事だが、せいぜい深入りはしない事だ」

「どうして?」

「好奇心というものは、時に人を殺すものだ」


ジョエルはあかねに歩み寄って、目の前に一枚の用紙を突きつけた。


「何これ?」


あかねは訝しげに用紙を受け取る。


「誓約書だ」

「何の?」

「今日からここに住むのだろう」

「ああ、それね。チーム所属のかと思った」

「所属したいのか?」

「まさか。まだ保留よ」


入居に際しての契約書だと分かり、書類を受け取る。

複数枚あり、流すように軽く確認していくが、とある用紙に手が止まる。


「ねぇこれも?外国語で書いてあるけど」


手に取った書類は、見慣れない言語で書かれ、賞状のように金の縁が印刷された契約書とは思えないものだった。


「ああ……ここは借り物で、所有者は異国の者だからな。その書類にも記入してくれ」

「ほーい……」


あかねはいくつかある誓約書に目を通しては、氏名を記入していく。

順調に書き連ねていくが、少しずつ手が動きが遅くなり、ついには止まる。


「どうした?」

「んー……なんかこのペン描きにくいんだよね」

「他のを用意しよう」

「あ、いいよ。一応契約書だし、綺麗に書きたいから。ちょっと自分のペンで書いてきていい?」

「構わんが」

「ありがとう」


あかねは書類を持って、自室まで戻った。

そして数分後、再びジョエルの部屋へと戻って署名した書類を手渡す。


「これで大丈夫?」

「ああ。確かに受け取った」


どことなく満足げな表情で、ジョエルは誓約書を眺める。


「さて。これで君は正式に、この黎明館の住人となったわけだ」

「チーム所属はまだ保留だけどね」

「……そうだな」


いつの間に書類を纏めたジョエルは、あかねの目の前に立つ。

見上げればサングラスを掛けているものの、至近距離の所為かうっすらと紫の瞳が見え、その瞳はしっかりとあかねを捉えていた。


「やはり変わらないな」


呟かれた声色は何故か妙に優しかった。

そしてジョエルはそのままドアに向かって歩き出す。


「ジョエル……さん?」

「ジョエルでいい」


そう言ってジョエルはドアを開けると、立ち尽くしているあかねの方へ振り返った。


「改めて彼らに紹介しなくてはな。勿論、私からな」

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