こんなのただの挑発よ

黎明館 食堂



ジョエルの後に続いて食堂に戻れば、アーネスト以外の者達は何故か驚いた顔をしていた。

その様子を不思議がるのも束の間、結祈がすぐに掛け寄り、何もされていないかと聞かれたりした。

一方でジョエルが、その場にいる全員に話があると告げれば、賑やかな雰囲気が一瞬にして変わり緊迫した空間に変わった。

それらを見て、彼の立ち位置とその発言力があるのだとあかねは理解する。

そんな事を思いながら入口付近で動かずに立いると、気付いた結祈に促され、大人しく指定された席に座る。


「以前から話をしていたから周知の事実だが、本日から新たな住人が増える」

「知ってるわよ。あかねちゃんでしょ」

「さっき会ったよ。可愛いよねー」


ギネヴィアと陸人が緊迫した空間を少しでも和らげよう揚々と言葉を連ねるが、ジョエルはおかしげに口許を歪めて笑う。


「お前達は場の空気を読むのが巧みだな」

「それほどでもー。でも分かってるなら、用件だけ言ってさっさと出てってよ。アンタがいると居心地悪いんだよね」


柔らかい口調の中に棘のある言葉。

どうやらこの空間を作り上げているのは、ジョエルだけではなく、陸人達の彼に対する嫌悪感も含まれているのではないかと、あかねは静かに思った。

彼は自分が思う以上に、他人に好かれていないらしい。ある意味当然なのかも知れないが。


「フン。私とて用がなければ、わざわざこんな騒々しいところに来たりはしない」


気にするどころか悪びれる様子もないまま、ジョエルは皮肉を交えた言葉を続ける。

挑発的な言動に対して、陸人は何も言わないものの、冷めた眼差しを向けている。


「ということは……何か大事な報告があると言うことですね」


様子を眺めていた結祈が問えば、ジョエルは不遜な笑みを浮かべた。

彼なりの肯定だったのだろう。

彼の意図を理解したであろう結祈は、眉根を顰めて厳しい視線を向けた。


「先に言っておくが、今から言うことは決定事項である事を覚えておけ」


宣誓のようなその言葉に、この場の時が止まったような張り詰めた感覚を覚える。

それと同時に、成り行きを見守っていたあかねの肩に、ジョエルの手が置かれる。

それはまるで何か合図かのように。


「本日をもって、桜空あかね嬢はこのチーム・オルディネに所属した。そして、それと同時に最も尊い存在になった」


--は?

あかねは思わずジョエルを見る。

--何言ってんの。この男。

チームに所属などした覚えはない。

先ほどの会話を忘れたのだろうか。

自分の肩に置かれた彼の手を払い除けるが、変わらず不遜な笑みを浮かべたままであった。


「なにそれ。勿体ぶらずに教えてよ」

「相変わらず短気だな。少しは自分で考えてみたらどうだ。その浅慮さを克服しなければ、到底兄達には及ばないだろう」

「…うるさいな」

「やめなさい。こんなのただの挑発よ」


立ち上がろうとした陸人を諫めるように、ギネヴィアは彼の腕を掴んで牽制する。

だがその視線は彼ではなく、まるで睨み付けるようにジョエルに向いていた。


「その言い方。もう少しどうにかならないの」

「これでも善処はしているつもりだが」


まるで開き直るかのような物言いも相まって、ジョエルから反省の色はまったく見られない。

むしろ気にしていないどころか、こちらの反応を楽しんでるようで、この場の雰囲気を更に悪化させている気がした。


「やれやれ。彼には困ったものだね」


不意に聞こえた声に振り返れば、壁に寄りかかっていたはずのアーネストが、いつの間にか隣に座っていた。


「ところであかね嬢。一つ聞きたいんだけど、書類に署名をした?」

「誓約書のことですか?」

「どんなものか覚えてる?」

「どんなものって…普通でしたよ。あ、でも一つ変わったのがあって、金縁が施された賞状みたいなのでした」

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