嘘です。とっても興味が湧きました


「あかね嬢。あまり気は進まないとは思うけど、私達も行こうか」


露わにしてしまった警戒心を察したのだろうか。

アーネストはあかねの肩に静かに手を置くと、優しい声色で諭す。


「……アーネストさんも企てた一人ですか?」

「否定はしないよ。軽蔑したかい?」

「はい」


はっきりと答えれば、一瞬息を呑む音が聞こえる。

あかねは数歩だけ歩き振り返ると、悪戯な笑みを浮かべた。


「嘘です。とっても興味が湧きました」


そう言うと、アーネストは目を丸くしたが、すぐに安堵したような、やや困った笑みを浮かべた。


「まったく。大人をからかうものではないよ」

「ふふ。ごめんなさい。軽い八つ当たりです」

「それはジョエルにやるといいよ」

「ですね」


冗談混じりに笑い合うと、先程までの嫌悪感が次第にに薄れていく。


「あかね」


短く、しかしはっきりと名前を呼ぶ結祈。

だがその表情はどこか浮かないようで、また気まずそうであった。


「大変申し訳ありません。私からもお伝えすれば、貴女が気を害す事など無かったのに」


先ほどのあかねの態度を見てそう思ったのか、俯きながら謝罪の言葉を述べる。

それだけでも、結祈が罪悪感で心中満たしているのが、手に取るように分かった。


「もういいよ。聞かなかった私も悪いから」

「ですが……」

「それに初めから知ってたら、絶対ここに来てなかったよ。そしたら私、お金も持ってなかったから、野宿だったかもだし……ね?」


野宿は流石に大げさではあるが、そう笑顔で伝えれば、多少気が晴れたのか、結祈は少しだけ微笑む。


「……ありがとうございます」

「うん!それじゃ、早く行こう?他の人達には会っておきたいから」


階段を降り、結祈に案内された場所は、一階奥にある扉の前。

中は食堂であると、向かう途中にアーネストから聞いた。

その証拠に周囲には微かに甘い匂いが漂っている。


「皆さん楽しみにしております」

「……」

「あかね?」

「確認だけど、ジョエルみたいな人達じゃないよね?」

「それはないよ」


アーネストが即答し、あかねは心なしか安堵する。

それを合図にゆっくりと扉が開いた。



「皆さん、お待たせしました」


結祈の背で前は見えないが、視線がこちらに集中しているのはなんとなく分かってしまい、ほんの少しだけ体が強張る。



「結祈おそーい!待ちくたびれたじゃんかー」

「何言ってんのよ。アンタずっとお菓子食べてたでしょうに」

「そういうギネヴィアだって、紅茶ばっか飲んでたじゃん」

「飲んでたって三杯だけじゃない」


男と女の言い合う声が聞こえる。

男の方は陽気で若干幼さが残る声で、女の方は気だるさを含んだ艶のある声色だった。


「二人とも落ち着いて下さい」


結祈が制止すれば静かになり、それ確認するとあかねが見えるように横に移動する。

視界には椅子に座る三人の姿があった。

手前の席には、肩出しの服を着こなした、妖艶な雰囲気を漂わす金髪の女性。

その向かいにはTシャツと短パンとラフな格好をした童顔の男性が座っていて、恐らく言い合っていた二人なのだろう。

そして奥に座るもう一人は。


「山川さん?」


一瞬誰だか分からなかったものの、印象ある色素の薄い髪を一つに結い纏めた彼女は、先ほど教室にいた少女だった。

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